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この度もお読みくださり、ありがとうございます。

お話に出てくるアイテムはフィクションです。

サン・ジーノ教会に関係する繋がりを探って間もなく3ヶ月が過ぎる。

王太子ルーカスの諜報部員と情報交換をしながらジョゼフとリカルドも陰ながら動いていた。

この1ヶ月で収集した情報で少し見えてきたことがあった。

そのことで2人はルーカスの執務室に呼ばれ、ノックして中に入った。

すると見知った男がすでに部屋にいて王太子殿下が紹介する。


「リングラン国イスバス宰相の息子のナサニエル・イスバスだ。ネイサンは私の留学時からの友人で、今回の件で協力してもらう必要があって来てもらった。」


ルーカス殿下は皆が調べ持ち寄った情報を整理してみると、サン・ジーノ教会への物流や金の動きに不審な点が見つかったという。

教会では陶器製の祈りを捧げるための女神像を度々、大量に輸入している。

女神像は陶器制作で名高いリングラン国で作られたものだが、何故かそれを運ぶ船は一度、リングランの隣国ザミルス国に寄港してから我がフォルスタ国に入ってくるのだという。

ザミルスでは薬草をブレンドした健康茶と称されるものを同じ船に積み込んでいる…ということになっている…書類上では。

書類に記載され茶葉として正式にに輸入された分に関して検閲を受けたものは正規品だったが、女神像に詰め物がされているとは思わず、像に隠された茶葉は気付かれずに通過してしまっているようだ。


ネイサンが両手で持っている木箱の中身を1つ1つ取り出して机に並べる。


「我がリングランでもザミルスの薬草や健康茶を輸入している商人がいて、先日それら商人からサンプルをもらいました。ここに広げたものがリングランで正規に取り扱われている茶葉です。」


「そしてこちらが陶器の女神像に詰められていた茶葉になる。」


王太子ルーカスが机の上に乗せた包みを覗く。

ネイサンが先に机上に出した茶葉と並べると少し色合いが違うように思えるが目立った違いはない。


「我々では区別がつきません。」


両方の茶葉の香りを比べ、手に取ってみたリカルドが言う。


「そうこれの厄介なところは一見、普通の茶葉だというところだ。」


扉がノックされルーカス殿下が予め持ってくるように指示していた茶器と湯が用意されたワゴンが運ばれてきた。

茶器のセットをジョゼフが引き継ぐと、殿下は疑惑の茶葉を使って茶を入れるように指示をした。

ジョゼフはティーポットに適量の茶葉を入れ、そこに湯を注ぎ蒸らして葉を開かせる。

そして人数分用意されたカップに茶を注いでいった。

リカルドとジョゼフがカップを恐る恐る手に取り、茶の香りを確かめているうちにルーカスはためらいも無くカップの茶を飲んでいく。


「「殿下!」」


「ほら大丈夫だからお前たちも飲んでみろ。」


二人は思わず大きな声を上げてしまったが、王太子に先に飲まれてしまっては躊躇している暇もない。

リカルドとジョゼフもカップに口を付けた。

茶は口内に微かに桃のような香りが漂うが普通の…どちらかと言えば上質な茶の味がした。


「普通…だな。」


コクリと一口飲んだリカルドとジョゼフが顔を見合わせているとルーカスはニヤリとした。


「そうここまでは普通なのだ。恐らく怪しまれて調べられても、これでは何も出ないからお咎めなしになるだろう。」


「ところがですね…。」


ネイサンがティーポットの蓋を持ち上げ、濡れて広がった茶葉を一つまみ銀盆に取り出した。

人差し指を近づけ指先からルーニーを『火』に変え湿った茶葉に着火させる。

それは湿っているせいもあって白い煙を出した。

ネイサンは白い煙が出たことを見せると、カップに残っていた茶をかけて素早く火を消した。

甘ったるい臭いが一瞬感じられると、殿下が換気を促す。


「これは麻薬成分を含む植物の葉がブレンドされています。」


それを聞いたリカルドとジョゼフは、自分が口を付けたカップを見て口元に手をやり、顔を見合わせた。

それを見たルーカスは笑顔で説明をした。


「この植物は水分を含んだ状態で燃えるときに麻薬成分が生成されるらしい。だから熱湯で煮出しても、乾燥した茶葉の状態に火をつけても麻薬成分は生成されない。しかし生の葉や、一度乾燥させた葉を水分で戻したものを燃やすと今のように麻薬となる。麻薬と知っていてこれを陶器製の女神像に詰めて『ほほ笑みの女神』と呼んで輸出する者と輸入している者が分かった。儲けた金の一部が女神像を輸入・販売しているある男爵の夫人名でサン・ジーノ教会へ寄付されている。」


リカルドはハッとして気付いた。


「そこに先日私とジョゼフで調査した件が繋がったのですね?」




リカルドとジョゼフは神官・巫女などに限定せず、ルーニーが特殊で中でも上位ランクの者を探った。

特殊の位の者は有事の際に国が協力を求めるという目的で、国内の特殊ランクの者は全て記録され王によって厳重に管理されている。

王の執務室でそれを閲覧し、一人ひとりの素行調査を始めた。

調査の過程でリカルドは特殊ランク名簿の中にある人の名を見つけ驚いたが、そのことはこの場では関係の無いことだったので1人心の中に閉まった。


もともとルーニーが特殊ランクの者の多くは、その才能を生かして要職に就いているので一般の人よりも給金が高い。

特別な能力であるのだから当然であるし、時には危険を伴うことだってあるからだ。

その中で特に金や生活に不審な動きがある者が3人いた。

一人一人に張り付いて理由を探った。

そのうち30代の男は単に酒とギャンブルに溺れ生活が破たんした者で、この件には無関係だった。


怪しいのは20代の青年神官と50代の男爵だった。

青年神官は特に力が強いが驕ることなく慎ましく暮らしていたのが一転、1年ほど前に預金を使い果たし借金を重ねていた。

詳しく調べたところ、依存症に陥った父親が返済できなくなった借金を彼が肩代わりしたというところから始まったようだ。

借金を重ね更に暮らしが緊迫した頃に、彼はランデスター教の正教会であるマルクス教会から離籍し、新聖派のサン・ジーノ教会へと移っていた。


男爵の方は西の都市アズルに暮らしており役所勤めをしていたが、その頃は彼の家の事業があまり上手くいっていなかった。

それでも代々の主が領地経営などで築いた財があったので、社交をそれなりに行える上流の暮らしを維持していた。

ところが10年ほど前に娶った後妻が大変な浪費家らしく、一時没落寸前になったが妻が勧める事業を始めてみると上手くいき、暮らしは前以上に良くなり役所勤めを辞めている。

この男爵が始めた事業というのが、健康茶と陶器製の女神像の輸入事業だということだ。



ルーカス殿下が全ての調査を纏めた。


「分裂した教会・召喚した乙女・特殊ランクの力を持った神官の移籍・神聖派の資金調達。恐らく全ての事柄はひと繋がりだ。まだ真の目的は分からないが新聖派側は着々と何かに向けて準備を進めているように感じる。」


この話以降、話が動きます。

引き続きよろしくお願いいたします。


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