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34 光のセレモニー②

この度もお読みくださり、ありがとうございます。

祭りの最後を飾るセレモニーの時間には前日よりも多くの人が祭り会場を訪れていた。

エリックは妹ロゼリアと手をつないで、ネイサンは左腕にユリアーヌを右腕にマリアンヌを「両手に花だね。」と言いながら快くエスコートした。

未婚のユリアーヌとロゼリアはベールを被っている。

ユリアーヌは昨日、リカルドにセレモニーでどの辺りに就くのかを聞いていたので、聖堂左側の塔の前に行きたいと言った。

聖堂正面より少し人が少ないようだったが、そこもやはり混雑していた。


祭り会場の灯りが一つ、また一つと、始まりの刻が近づいているのを知らせるように時間を少しおきながら消えていく。

ユリアーヌ、マリアンヌ、ロゼリアが横に並び、その後ろにネイサンとエリックが並ぶ。

全ての灯りが消えると辺りは暗闇となり、人々のざわめきだけが辺りに響く。


ポッと金色の光の球が同時に5つ出現すると、会場の皆の声が止んだ。

光の球はゆっくりと空高く昇って行く。


「あれ、リカルド君じゃない?」


マリアンヌが隣に立つユリアーヌに耳打ちする。

塔の2階部分に当たるバルコニーに光の球を作り出してコントロールする人が見える。

今日は祭事なのでリカルドは正装の騎士服を着ていた。

ユリアーヌは今まで彼の正装の騎士服を見る機会が無かった。

普段の動き重視の騎士服とは違い、正装は見た目重視のせいか騎士の凛々しさ逞しさ、更に煌びやかさまで加え眩しいくらいだった。


「…正装の騎士服って素敵。」


そう、思わずうっとりしたユリアーヌが呟くとエリックにもそれが聞こえたようで頷いている。

光の玉がリカルドの手元で作り出されるたびに、彼の姿がその光を受けて照らし出される。


「式典で着る正装の騎士服っていいよね。しかも魔導騎士が一番いい。あれってリカルド・アーバンヒル隊長?僕の尊敬する人で目標にしている人なんだ。」


男のエリックも惚れ惚れするような姿に、会場の女性たちももちろん歓喜する。


大小いくつもの光の球を空に作り出し、夜空を彩る。

上空高く上がったかと思えば爆ぜて光のシャワーとなって見物人に注がれる。

この豊穣の光を浴びればまた1年を平穏無事に暮らせるという。

神官・巫女・魔導士の称号を持つものが各々作り出した光の玉を集め、一つにして上空に巨大な円盤にする。

大神官の合図とともにそれは爆ぜ、一瞬昼間かと思うくらいの輝きが降ってくる。

さらさらとそれは降り注ぎ、そしてその場はまた暗闇となった。


始まりを告げた時とは逆に、ぽつんぽつんとあちこちの灯りが段々と灯され皆が現実に戻っていく。

息をすることも忘れそうなくらい見とれてしまっていたマリアンヌとユリアーヌ。


「さあ叔母様、ユリア帰りますよ。」


ネイサンの声で現実に戻る。

帰路につく人の波が少し落ち着いた方が歩きやすいとの判断で少し時間を置くことにした。

リカルドがいたバルコニーを見ながら余韻に浸っていると、突然ユリアーヌは後ろから背を強く押されベールも引っ張られて体勢を崩した。

ハラリとベールが頭上から離れていくのに気を取られた瞬間、腕にかけていた小ぶりのバックが引っ張られる。

ユリアーヌはとっさに「いやっ!」と言って、バックの持ち手を強く握った。

その時一瞬、僅かだがユリアーヌの手首が光った。



「いたたた!」


ユリアーヌが思わず瞑った目を開けると、素早い身のこなしでネイサンがバックをひったくろうとしていた若者の手を捻りあげていた。


「「ユリア大丈夫か?」」


ネイサンとほぼ同じタイミング、同じ言葉でその場に現れたのはリカルドだった。

ユリアーヌは慌ててベールを拾い上げると頭を覆い「大丈夫…です。」と答える。

昨日リカルドに対する自分の気持ちに気付いてからどうにも恥ずかしくなってしまい、思わずリカルドから目を逸らしネイサンの後ろに隠れるように一歩下がってしまった。


「騎士団の人ですか?こいつは彼女のバックをひったくろうとした犯人です。引き渡しますので後はよろしくお願いします。」


ネイサンは側に近づいてきたリカルドにひったくり犯を押し付けた。

そしてユリアーヌのベールを優しい手つきで被せ直してから手を繋ぐと「さあ行こうか。」と言って帰路につく人波に入っていく。

それを見てあわててエリックがロゼリアとマリアンヌの手を引き後に続いた。

リカルドはユリアーヌが繋がれた手を引かれて遠ざかっていく様子を、なす術もなく見ているだけだった。



馬車の前まできて後ろからついて来ているはずのエリックたちを待つ。


「あの騎士とはどんな関係?」


突然ネイサンが笑みの無い顔でユリアーヌに尋ねた。

ネイサンに彼との関係を何と答えればいいのか、何が当てはまるのかなかなか答えられないでいると、エリックに手を引かれたマリアンヌとロゼリアがやって来た。


「まあ、いいや。」


そうネイサンは言うとオルスター家の馬車の扉を開け、ユリアーヌとマリアンヌを乗せる。


「俺はあと3週間ほどフィルダナの家に滞在を予定しているよ。庁舎なども見に行く予定だから図書館にも寄らせてもらう。」


マリアンヌとユリアーヌに「それじゃあ、おやすみなさい。」と、いつもの爽やかな笑顔を向けて扉を閉めた。

ネイサンとエリック、ロゼリアはフィルダナ家の馬車に乗り込み帰宅した。

オルスター家の馬車の中ではマリアンヌがユリアーヌに話しかけていた。


「ユリア本当にケガはないのね?それにしてもあれが術の発動なの?ユリアが怖い思いをしたとたん彼が現れたでしょう。」


「たぶんそうだと思うわ。私自身には何も感じられないけれど、前にもびっくりした時にリカルド様が転移魔法で離れたところから駆けつけてくれたから。」


「そう。でもネイサンは急にどうしたのかしらね?帰りも私をエスコートして欲しかったわ。」


ユリアーヌもネイサンの様子が気にはなったが、それよりもリカルドが駆け付けてくれたのにひと言も言えず、彼には素っ気ない態度に思われたのではないかと、今になっていつもどおり接することが出来なかったことを後悔した。


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