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29 - ①

他の話より長くなりすぎたのでバランスを取り、分けました。

キャロルの兄の店『クラッチュモーン』に行く日は良いお天気で爽やかな風が吹いていた。

穏やかな昼過ぎに友だちと彼女の家が経営する店に行くのだからと侍女の同伴は断り、御者であり護衛も兼ねるヨハンを従えて馬車に乗り込む。

父アーノルドは今日も領地の兄の元へ行っている。

マリアンヌはリカルドも一緒に行くことをユリアーヌから聞いており、それをとても好意的に思っている。

だから屋敷の家人たちもそれを支持していて、ひそかに協力しアーノルドの耳に余計なことが入らないように気を配っていた。


馬車が待ち合わせにしている公園に着くと既にリカルドは着いていて、ヨハンはそこにユリアーヌを降ろした。

公園や娯楽施設のような場所付近にはたいてい馬車を駐車する施設もある。

そこは御者が休憩や簡単な食事ができるようになっている。


「公園の裏手に『トランキリテ』という御者用の店があります。そこで待機しているのでお知らせください。」


ヨハンはリカルドのルーニーが『特殊』であり、殿下よりユリアーヌの警護の命を賜っていることも知っているのでリカルドにユリアーヌのことを任せ、自分が必要になったら伝令を飛ばしてほしいと暗に伝えた。

なかなか気が利く御者だと思いながら「ああ、分かった。」と言った。

そしてリカルドがヨハンからユリアーヌが持っていくという包みを受け取ると、馬車はゆっくりと公園を出て行ってしまった。


馬車の出入口にボンネットのつばが閊えてしまうためいつもは降りてからアリスの手を借りて被るのだが、今日は手早く支度してくれる侍女のアリスはいなかった。

しかも張り切ったアリスが髪を複雑に結いあげたので、髪を崩さないようにボンネットを被るのは苦労しそうだと思った。

男性にこの様なことを頼んだことが無いユリアーヌだったが、恥ずかしながらリカルドにお願いする。


「すみません、リカルド様。少しお手伝い願えますか?」


リカルドはボンネットを持ったユリアーヌが、恥ずかしいのか頬を染め上目づかいでおずおずと頼んでくる可愛らしい姿にドキリとする。


「ああ…、もちろん構わないよ。」


すぐになんでもないような素振りでボンネットを受け取り、被せてもらうのに少しうつむいてサイドの髪をそっと押えて待つユリアーヌの後ろに回る。

結ってある髪を包み込むようにふわりと後ろから被せようとして、ユリアーヌの白くたおやかなうなじに目が行ってしまい手が止まった。


「リカルド様?」


暫く動きのないリカルドを不思議に思って声を掛ける。

我に返ったリカルドはそっと頭を包むように後ろからボンネットを被せた。

ユリアーヌは形を整え、左右から垂れる幅広のリボンをあごの下で蝶結びにした。

「ありがとうございます。」と少し首を傾げて微笑むユリアーヌに、心臓のあたりをキュッと掴まれたように感じて慌てて腕を差し出す。


「では行こうか。」


植物庭園の温室よりも人目が多いような気がしてユリアーヌは少し躊躇したが、男性が女性をエスコートすることは紳士の嗜みであり、ましてリカルドは騎士であるのだから断れば彼に恥をかかせることになるのだと、ユリアーヌは「はい。」と言って腕に手を乗せ、ユリアーヌにあわせて少しゆっくり歩く彼の優しさを感じた。


巡回警備で街を巡ることがあるリカルドは地理に詳しかった。

公園を横切り馬車が行き違える大きな通りに出ると間もなく、キャロルの兄の店『クラッチュモーン』は見えた。

入口でキャロルが大きく手を振っている。

令嬢たちに囲まれ術が発動した時にキャロルには「訳あってリカルドが護衛に就いている」と話したので、きっと背の高いリカルドに気付いたのだろう。


店は白と茶をベースに緑をあしらった落ち着いた外観がとても洗練されていた。

ちょうど『感謝の日』まで2週間を切っていて店のそこかしこに「いつもお世話になっているあの人へ」であるとか「普段の感謝を伝えよう」など、店もそれに向けた飾りやポップを貼ってアピールをしていた。


「いらっしゃいませ!義姉さんは馬車のトラブルで少し遅れるそうだから、まずは雑貨や小物・アクセサリーをご覧になって。」


キャロルの案内で店の中に入る。

平日なので今日は人が少なめらしいが、それなりに人は入っていた。

色々な国のキャンドルが並び、天井には風で揺れるモビールと言われるものが下げられていたり、色とりどりのテーブルクロスに香りの付いたインク…1点ものが多くその種類は豊富なために友人知人と持ち物が被ることが嫌いな女性に人気があるのが分かる品ぞろえだ。


ユリアーヌはキャンドルのコーナーで足を止めた。

そこで目に止まった赤いキャンドルには手書きで白い百合の花が描かれていて、気付けばそれを手にとっていた。

そのキャンドルの形は独特で百合の絵も、使っている絵具の色も落ち着いた色合いのせいか、とても異国風な感じがする。

しかしそれがとても『懐かしい』感じがしてしまうのは何故なのだろう?と、ユリアーヌは不思議に思う。


「そのキャンドルはガンダル国にいる東の島国から来たというおばあさんが作っている『ロウソク』って言うものらしいわ。」


「ろうそく…。」


どこか懐かしい響きを繰り返す。


「あとはこっち。最近評判のいいアクセサリーも見て!」


キャロルに手を引かれてその一角に連れて行かれる。

一級品の制作時に出た小粒の石や宝飾店で取り扱う二級品でも基準以下の石を技術でカバーし、デザイン料がかかる意匠は施さずに作った、庶民に今最も注目を浴びているアクセサリーである。


「これはユリアの髪に映えるわ。それとも誕生石がいいかしら?ユリアは何月生まれ?」


日ごろクールな印象のキャロルが珍しく年頃の女性らしくはしゃいだ質問する。

誕生日を聞かれたユリアーヌの顔がほんの一瞬曇った。

キャロルが気付く間もない少しの間であったが、すぐに元の笑顔になりにこやかに答える。


「私は6月よ。何になるのかしら?」


「6月はパールよ!ユリアっぽい。」


次にキャロルはリカルドに質問をして、それとなく探りを入れる。


「リカルド隊長も贈り物にいかがですか?女性は贈り物をされると嬉しいものですよ。『感謝の日』も近いですし、想いを伝えたい方にぜひどうぞ!」


キャロルは上手くいけば浮いた噂の無いリカルドの想い人が分かるのではないか?

いやいや、彼を見る限り明らかにユリアーヌに好意を抱いている様子が伺えると読み取った彼女の勘もあり、これをきっかけに彼がユリアーヌに想いを告げるきっかけになるのでは?と考えての発言だった。


「そうだな…ここ数年、言葉でも伝えていないな。何月だったか…そうだ12月だ。年齢的にも落ち着いたデザインのトルコ石のネックレスを1つ貰おうか。」


リカルドの口から出てきた贈り物の相手が予想外でキャロルが動揺する。

彼が10ほどあるトルコ石のネックレスの中から1つを選んでいる間にキャロルはユリアーヌに小声で話しかける。


「ユリア…リカルド隊長には数年来の年上の彼女がいるみたい。知っていた?」


「…いいえ。でも…彼だって良い年齢なのだし素敵だから、そういうお相手がいても不思議ではないわ…。」


自分でそう言いながらも、ユリアーヌは自分が言った言葉に少し傷ついたようで心がチクリと傷んだ。

彼が真剣な表情で相手のことを考えて合うものを選んでいる…その姿を見て心が曇った。

リカルドが1つを手にして「これを。」とキャロルにネックレスを渡す。


「こ…これですね。プレゼント用にラッピングを頼んできます。」


ネックレスを受け取ったキャロルは、ラッピングを頼みに奥へと行ってしまった。

それは艶消しの金の石座とチェーンにスクエア型にカットされた小ぶりのトルコ石が付いたもので、贈られる相手は落ち着いた大人の女性なのだと想像させられた。


何故だか少し曇った気持ちになったので、気を紛らせるように他に目を向けたユリアーヌは目の端に小さな光を捉えた。

その光を追って窓辺に目をやれば、天井から吊る下がったものが外から注いだ陽をキラキラ反射させていた。


「まぁ綺麗…」


その不思議な光景に窓辺に近寄り、キラキラ光っているものに手でそっと触れてみた。


「これが気に入ったのか?」


「はい。陽の光が反射しているだけなのに、キラキラとたくさんの表情を見せてとても綺麗ですね。」


ユリアーヌは満面の笑みでリカルドに答えた。

奥から「今、包装をしています。」とキャロルが戻ってきた。

ユリアーヌが熱心に見ているのでキャロルが『サンキャッチャー』というものだと説明する。

シャンデリアをヒントに一般人でも手軽に楽しめるようにと、質の良いガラスを作り宝石職人にカットさせて宝石のように光り輝くガラスを作りだしたのだそうだ。

この度もお読みくださり、大変うれしく思っています。

拍手等頂けるので頑張れそうです!ありがとうございます。

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