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お待たせしました。
この度もお読みくださり、ありがとうございます。
~ フォルスタ国 建国前より伝わる神話『ランディニアス』より一部抜粋 ~
(ランデスター教 マルクス聖教会 保管及び所蔵)
大地と水のアルジャノンに愛でられし、美と生命のアマリリア。
彼の人の守り与えし命は潤いと芽生えをもたらし、そして再生へとつながる。
生まれ変わりしとき、その命は絶えることなく永遠に続いていくだろう。
◆ ◆ ◆
「さっさと歩け!」
虚ろな目をしてブツブツと何かを呟き口元には笑みを浮かべた若い女性が、脚に力が入らないのかヨロヨロとした歩きを男にぞんざいに支えられながら連れられて行く。
「また失敗?今回も探していた娘では無かったようね。やはりアマリリア神と同じ色を持っているだけではだめね。召喚された『選ばれし乙女』でなければアマリリア神は認めてはくださらないのだわ。」
イライラとした様子でその女は言った。
「サラディナーサ様。有力な情報を得た者がおりますが、今までのように攫っても騒ぎにならない者や金にものを言わせることができない者の庇護下にいるようです。詳しく探っていますが少々時間がかかりそうです。」
老人という年齢の男が頭を下げたのは先ほど苛立った声を上げた、30歳くらいの妖艶な女性だった。
◆ ◆ ◆
ルーカス殿下はリカルドとジョゼフ、それに近衛隊長のユーグ・デクスターを伴ってランデスター教の聖教会であるマルクス教会へとやって来ていた。
公式ではないが王太子の訪問ということで教皇を始め司教・司祭・修道院長の教会トップが揃って出迎えた。
「これは王太子殿下、ようこそおいでくださいました。書簡にてお受けいたしました質問にお答えする準備を整えておきましたのでどうぞあちらの部屋へ。」
司教に案内され奥へと暫く行った部屋へと入ると、大きな長机に古い書物が並べてあった。
中には数人の若い神官や修道士と思われる者が待機していた。
「こちらがこの国に古より伝わる神話『ランディニアス』の原本になります。神話に関する多くの著書は発行される前に我々教会の者が内容を確認いたしまして、子どもの絵本から大人の読み物まで解釈を違えないように指導しています。」
創世神話は国や信仰に深く関係しているため教会は解釈が大きく違わないように監修していた。
ルーカス殿下は机上の古い書物に目をやった。
「16年前に解釈の違いの溝が埋まらずに分裂してしまった部分を机上に並べてくれたのだな。」
机上の古い書物は古代のフォルスタ語『ラスーヌ』で書かれている。
現代においてラスーヌを読み書きできる者は教会上位の者か研究している学者くらいであった。
書物は解釈の違いが問題になっている部分が見えるように開かれていた。
そして原文の隣には開かれている部分が現代語に訳され、抜書きされた紙が添えられていた。
「こちらが国で最古の神話の書物だと言われています。より古い時代の石板に掘られているものを写し取ったとされていて内容は殆ど変わりません。解釈も同じく古くから変わるものではありませんでした…あの時までは。」
「まずは聖教会が認めた解釈を聞こう。」
ルーカスが公式の解釈を求めると壁ぎわに立っていた若い男が一歩前に出た。
司祭が彼の名と神官ではあるが学者でもあることを説明した。
「公式の解釈を申し上げます。
大地と水を司るアルジャノン神の愛する、妹の美と生命を司るアマリリア神。
天災に見舞われても彼女に守られ、存えた命は再び芽吹き元通りになる。
そして一度全てを失い持ち直した生命は、再び失われることはなく連綿と受け継がれていく。
簡潔に申し上げますと、天災等で一度は多くの命が失われようとも、残った命から再び命は生まれ受け継がれ、それ以後は途切れることはないだろう…ということです。」
「そうだな。私も幼少のときから繰り返しそう聞いてきた。」
「しかし建国前より伝わる神話の解釈に突然意義を唱え始めた者がおりました。その者が18年前に在籍していた神官で名は『ソルベ』。当時、在籍期間はすでに30年を超える神官でした。」
「ではその者の曲解を申し上げます。
アマリリア神が選びし命で再生が叶い、失った全てをやり直すことができる。
一度は失い再生したその体は以後衰えることなく、永遠に続く命を手に入れられるだろう。」
「何だ、それは。」
「まるで不老不死の体が手に入ると言わんばかりですね。」
呆れたようにルーカスが言い、それまでルーカス殿下の後ろに静かに付き従っていた近衛隊長のユーグも思わず声を漏らした。
「教会に籍を置くということは俗世と決別するということです。入籍10年までは俗世の書類を保管していますが、それを越えて還俗する意思がない者に関しましては書類をすべて破棄致します。ユーグも10年目で俗世全ての書類・記録を破棄しています。ですから我々では彼が何のためにこの様な解釈をしたのか…いえ、何が彼にこの様な解釈をさせたのか…影響を与えた繋がりを知る術がありません。」
ルーカス殿下はジョゼフに曲解された解釈を書かせ、リカルドには『ソルベ』という離籍した神官の当時同僚だった者から収集した分かり得る情報を集めさせた。
それが終わると一行は王宮へと戻って行った。
全ての書類や記録を破棄したとしても王宮の保管庫には何かしら残っているはずで、この膨大な記録の山から探しだすという実に地道な作業を何日もかけて行うことになった。
今後の展開に繋げていくためのお話でしたが、難産でした。
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