【あの日のルーカス殿下】
本日2話目の投稿になります。
閑話かな…27話の裏側です。
その日その時に、王太子ルーカスは体を動かしたくなった。
侍従や護衛の目を盗んで執務室を飛び出し、ちょうどその時間に「手合わせ」をしている騎士隊を相手にするため訓練場に行く。
訓練用の騎士服(一般用)を纏って。
この日は都合よく、この年に入ったばかりの初々しい面々が、お互いに模造剣で打ち合いをしていた。
しかも上官たちは一般騎士らをしごくのに忙しく、新米兵から目を離していた。
「さあ!順番に掛かってこい。俺に一太刀浴びせられたものは、この…極上ワインをやるぞ!」
その一言で男ばかりの体育会系若い男子はすぐに盛り上がれる。
何かおかしいな?…なんてことはまず考えない。
「じゃ1番にオレ行きま〜す!」
新米たちは王太子殿下の顔を拝んだことがない。
入隊式にバルコニーに立つ王や王太子を見たが、遠くて髪の色と立派な衣装しか分からなかった。
殿下は武にも長けていて、なかなかに強い。
入りたての新米兵など朝飯前だ。
8人ほど連続「参った!」と言わせたころ、その隊の隊長が新米兵の盛り上がりに気付いた。
「お前ら、何を騒いでいるんだ〜! ん?…ルーカス殿下!そこで何をされているのですかぁ!」
「あー、気付かれた。もうお終いか。皆んな、これからも励むように!」
そう言ってポカンとしている新米兵たちを激励しさっさと訓練場を後にした。
楽しい時間が過ごせたがこれ以上騒ぎになると次に抜け出すのが益々困難になるので、脱いだ騎士服の上着を肩にひっ掛けて王宮に戻る。
途中で第4騎士隊長ジョゼフ・マーレンが走って追ってきた。
「殿下聞きましたよ。手合わせなら我々がしますので訓練場で一般兵を相手にするのはおやめ下さい。」
上官たちは顔なじみで自分より強く、王太子だからと遠慮して本気で掛かってこないのだ。
ルーカスにとっては面白みがない。
「それから酒類を新兵に与えようとするのもやめて下さい。まだ未成年者もいますし、風紀が乱れます。」
先ほどの極上ワインを回収してきたジョゼフを従えて歩いているうちに、王宮内で本を抱えてキョロキョロ歩く娘に目が止まる。
ルーカスは初めて見る娘だったが、ジョゼフは彼女のことを知っているようだった。
「あれ?オルスター総務官の娘ですね。迷ったのかな?」
「あの子が例の。」
王太子担当の案件の「鍵」となると思われる娘だった。
娘はこちらに気がつくと、顔見知りのジョゼフを見てホッとしたように笑顔で近寄ってくる。
「すみません。王太子殿下の執務室はどちらですか?」
騎士服でいたのでルーカスのこともジョゼフと同じ騎士だと思っているようだ。
ルーカスの悪戯心が疼いた。
ジョゼフに「余計なことは言うなよ!」と目で合図をして喋り出す。
「ちょうど今向かうところだから一緒に行きましょう。何の用で行くのかな?王宮は初めて?」
「はい、初めてで…お恥ずかしながら迷ってしまいました。図書館職員でご希望の本をお届けに上がるところです。」
そういえば数日前に新米侍従に『図書館から取り寄せろ!』と言ったことを思い出し、新米だから王宮と王立の図書館を取り違えたか…と考えを巡らす。
執務室前には護衛の騎士が1人いるが、ルーカスが戻ると礼をとって執務室の扉を開けてくれた。
ルーカス、ユリアーヌ、ジョゼフと続いて入室する。
「殿下はお留守のようだよ。本はここに置いていけばいい。」
「はい、そうさせてもらいます。」
ポケットから不在中に届けたという旨の紙を取り出し、今日の日付けと自分の名前を書き込み本に挟んだ。
ルーカスは以前ジョセフから、奥手のリカルドがこの娘のことを好ましく思っていると聞いていた。
昔からリカルドを弟のように可愛がってきたルーカスに兄のような気持ちが湧いてきた。
「ありがとうございました。では失礼します。」
花のような微笑みを2人に向け、執務室から出て行こうとするユリアーヌをルーカスは引き止めた。
目を瞑りルーニーを集中させリカルドに呼びかける。
直ぐに反応があったので、それに向かって一方的に「この執務室に急いで来い!」と命令をした。
程なくしてリカルドが執務室の前に到着する気配があったので、絶妙なタイミングで扉を開けると驚いた顔のリカルドが立っていた。
彼女の背中をリカルドの方へグイグイと押し、送ってやってくれと言い「頑張れよ」の意味を込めてウィンクした。
部屋の奥ではジョゼフが笑いを堪えてフルフル肩を震わせていた。
リカルドと彼女を送り出し扉を閉めると、兄貴としてとても良いことをした満足感を得られ、そして清々しい気持ちになった。
先ほど放り投げた執務も捗りそうな気がして、騎士服から着替えたルーカスは執務机に向かって書類を片付けていった。
ただいま少々煮詰まり中です。
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