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屋敷の主であるアーノルドは領地に住む兄の呼び出しで早朝、実家に向けて出て行ったらしい。
兄が領地で数年前から栽培し始めた新しい交配種の葡萄が安定してとれるようになり、いよいよワインを作る段階になったようで最近のアーノルドは休日の大半をそちらに使っている。
休みだが特に予定の無いユリアーヌは籠とハサミを持って、庭の一角で育てているハーブを収穫していた。
どのハーブを何に使って…などと考えながら、パチンパチンと切っていく。
籠からは切りたてのハーブの甘く爽やかな香りがした。
「お天気も良いですし、こちらでお茶にしてはいかがですか?」
アリスが近くのガゼボで茶はどうかと提案してくれたのでそうすることにした。
手を洗う水の用意をしてくれたのでそれで手を洗うと、左手首にムズムズを感じ「虫に刺されてしまった?」と目をやる。
すると昨日施した術の跡が黒色から金色へと変っていて、その異変に戸惑い慌てて右手でそこに触れるとポッと小さな光の玉が現れた。
ユリアーヌは「きゃっ!」と驚いたが、それが何なのか察して慌てて反対の手で首に巻いていたスカーフを取ってガゼボの机の上に広げた。
広げたスカーフの上に手首に乗っている光の玉をそっと移す。
身につけているペンダントの青い石を介してルーニーを指先に集中させ、そしてスカーフの上で光る玉にチョンと触れた。
パッと形を崩した玉はそのままスカーフの上で文字を形成した。
『一度お会いして確認したいことがあります。
サナ植物庭園の温室に来ることができますか?
温室コンジェルジュに「プロテアが見たい」と言ってください。
本日の午後、お会いできればと思っています。
是非だけ術痕を通して知らせてください。 リカルド・アーバンヒル 』
1分ほど文字を形成していた光がだんだんと消えていく。
その様子を目で追っていたが返事をしなければと思い、その仕方が分からないユリアーヌは母の元へと向かう。
「アリス、お茶の用意はガゼボではなくお母さまのところにして。」
ティーセットを乗せたワゴンを押して来たアリスにそう伝え、ユリアーヌは慌てて屋敷に入った。
母マリアンヌの部屋の扉をノックすれば、返事があってからエリーが扉を開けてくれた。
「お母さま、相談があるの。少しいいかしら?」
「いいわよ、どうぞ。」
マリアンヌは誰かに手紙をしたためている最中であったようだが、手を止めてにこやかに返事をした。
ユリアーヌは先ほど現れたルーナの変わった光の伝令の説明をした。
「その返事をしたいのだけれど、お母さまは方法をご存じ?」
マリアンヌも普通程度のルーニーを持ち合わせているが、伝令のようにルーニーを大きくルーナに変化させるなどのことができるほどではない。
それでも刺繍針にルーニーを流し込み、ルーナに変換しつつ刺繍をする『祈願縫い』ができるので思念を送るという意味では共通する部分がありそうだ。
「恐らく術痕に触れながらルーニーをそこに集中させてユリアの思念を送り込めばいいと思うの。こういうことはアーノルドが一番詳しいのだけれど、ちょっと聞けないし…ね。」
二人で顔を見合わせて微笑む。
ユリアーヌは術痕に触れながら「やってみるわ。」と言って、ペンダントを介してルーニーをコントロールする。
先ほど金色から黒へと戻った術痕が再び金色に光る。
「今じゃないかしら?」と言うマリアンヌの指示で『ショウチシマシタ』と思念を流し込む。
すると術痕が瞬いて黒色に戻った。
「今ので…よかったのかしら?」
「きっと大丈夫よ!」
ユリアーヌはホッと胸をなでおろした。
どこか子どものように喜ぶマリアンヌは顔の血色もいつもより良いようだ。
「さあ、ユリアが出かける支度をしなくちゃ!」
マリアンヌはまるで自分が出掛けるかのように、人一倍張り切って侍女のエリーとアリスにあれこれと指示を出し始めた。
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