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活力源です!
「お父さま、どういうことですか?呼び出されて来てみれば他の方がいる場でお父さまは不機嫌で失礼な態度だし、なぜ私は術を施されることになったのかも教えてくれないし。」
ユリアーヌはアーノルドに詰め寄るようにして不満を口にした。
「すまない…。」さすがにアーノルドもリカルドに取った態度は大人気なかったと反省する。
「謝るのは先ほどの騎士様にしてくださいね。それになぜ私に術が施されなければいけないの?」
「この話は複雑で…マリアンヌも知っていた方がいいから家で話すよ。ユリアに伝令を放った時にヨハンにも迎えを1時間遅らせるように連絡した。その馬車に私も一緒に乗って帰るよ。ではちょっと待っていてくれ荷物を取ってくるから。」
そう言ってアーノルドは自分の荷物を取りに行き、ユリアーヌと共に馬車が待つロータリーへと向かう。
今日は働く多くの人の終業時間から1時間半ほど経っていたことに加え週末であったったせいか、いつもの賑わいは既に収まりロータリーは閑散としていた。
近づいてくる2人が主人であると御者台のヨハンが気付く。
ユリアーヌはアーノルドのエスコートで馬車に乗り込んだ。
そして帰宅して家族で食事を済ませリビングに移動し、執事のライナス・マリアンヌの侍女エリーにユリアーヌの侍女アリス・それから御者のヨハンを呼んだ。
これら家人は長い勤めの信頼がおける、家族同様のオルスター家の『秘密』を知る面々だ。
ユリアーヌの安全を確保するため、生活を任せている者たちにも把握しておいてほしいとアーノルドによって集められた。
今日術が施されたことに関すること…エリックの件から始まって、教会とユリアーヌの出現に関係があるかもしれないということや巷での人さらい事件、標的にされる可能性があること、それらから守るために施された術の説明がユリアーヌを含め母親のマリアンヌと家人4人に話された。
一通り話し終えたアーノルドは「何か質問は?」と皆に尋ねる。
するとマリアンヌが尋ねた。
「警護の術式は王太子殿下の命で施されたのね。施したのは誰?誰が駆け付けてくれるのかしら?」
「第2騎士隊長のリカルド・アーバンヒルが術をかけた。」
アーノルドは術を施している場面を思い出したのか、眉間にしわを寄せて低い声で単調に答えた。
「まあ!彼なの?」
マリアンヌはアーノルドとは正反対の楽しげな声色を出す。
先日ユリアーヌが困っていたところを助けられ、お礼をした人物がリカルドであることをユリアーヌから聞いていたのでこの反応だった。
今日の不機嫌な一件を目にしているユリアーヌは、先日のことが父親に知られたら、それは大荒れになるだろうことを察して、母親に「ダメダメ!」と目で合図をした。
「マリーは彼を知っているのか?」
昔から体が弱く交友関係も狭いうえ社交にも消極的なマリアンヌが、名前を言っただけで大きな反応を見せたのだから、アーノルドが不思議がるのももっともだ。
「えっ?…ええ!…だって彼、魔獣討伐の英雄よね。それに硬派で騎士精神にあふれ素敵だし、浮ついた話もないって…先日発売の『麗しき男子と偉丈夫(王都サナ編)』に載っていたわ。」
「ね~」とエリーとアリスにも同意を求める。
実のところリカルドの情報は、ユリアーヌが同僚のキャロルから聞いた話をマリアンヌがしつこく聞き出して得たものだったのだが。
長年使える侍女たちも流石にその本の話は、アーノルドにしては拙いだろうと視線をそらした。
この本は若い女性の間で話題になっており、世間に疎いマリアンヌへの話題作りとしてエリーが娘の本を借りてマリアンヌに見せたのだった。
容姿端麗や肉体美を持つ男性は、どの時代どの年齢の女性も好きなのは変わらない。
「その本についてはマリー、後ほど私室で詳しく聞くことにしよう。」
氷の微笑みをマリアンヌに向けてアーノルドが言葉を続ける。
「まあ、術式は念のためにとの殿下の気持ちだ。術が発動するような事態があっては困るからな、皆も周りの小さな変化にも気を付けてくれ。ユリアは昼間でも1人での行動はしないように。」
使用人たちは持ち場に戻り、アーノルドも執事のライナスと屋敷のことについての話をするのにリビングを出たので、マリアンヌとユリアーヌは茶を飲みながら話をする。
「アーノルドったら彼…いいえ。男性の話をする時にあからさまに不機嫌な顔になるのね。」
そんな子どものような態度を可愛いく思ったマリアンヌはくすくす笑う。
「お母さま。今日呼ばれてお父さまのところへ行った時もアーバンヒル隊長様にひどい態度だったの。あれでは職務できた方に失礼だわ。いつもの穏やかなお父さまではなく別人のようだったし…まったくどうしたのかしら?」
「そうね、アーノルドは『お父さま』だからよ。ユリアを取られちゃうかもしれないって、必死に取られないように頑張っている感じがあの態度なのよ。あんな態度を取るのはきっと、ユリアに釣り合ってしまうって…無自覚だけれどそう思った男性だからよ。そう思わない人はきっと相手にもしないわ。」
「そんな…。でも今まで、そんなことってあったかしら?無かったのは私が家にいて男性と会うようなことがなかったから?そう思うとこれから先が思いやられるわ。」
「大丈夫よ。ユリアに本当に大切な人が出来たら正直にお父さまに言いなさい。あなたが家に現れた日から、私も彼もあなたに『親』にしてもらったの。だからきっと、あなたの想いを理解してくれるわ。」
「はい。」と小さくうなずく娘を見つめながら、マリアンヌは「ユリアが決めた人を彼は認めるでしょうけど、まあ…簡単にとはいかないでしょうね。」と心の中では思っていた。
シャワーを浴びて身を清めたユリアーヌは、自室の鏡台の前でまだ水気の残る髪をアリスに丁寧に拭かれていた。
「旦那様はユリアーヌさまの…ことに男性に関してですが、少々意識し過ぎでございます。」
アリスは母の侍女エリーの姪であり、ユリアーヌがこの屋敷に来たばかりの頃から…アリスも子どもながら出入りを許されていた。
言葉が分からなかったユリアーヌに年が近い子どもがいた方がいいのでは?とエリーがアリスを屋敷につれてきたのが始まりだ。
彼女はユリアーヌの初めての友だちになり、それから姉の代わりにもなって現在は信頼のおける一番身近な侍女である。
「ふふっ、そうなのよね。でも父親ってそういうものじゃないの?」
「我が家では父と顔を合わせるたび『お付き合いしている人はいるのか?』『結婚を考えてもいい歳だ。』と言って殿方の姿絵を持って来たり、会わせようとするのです。最近では実家に帰るのが苦痛です。」
「アリスも間もなく19歳?適齢期だもの。私のお父さまだっていずれアリスのお父さまのように『結婚しろ!しろ!」と言うようになるかもしれないじゃない。」
「旦那様はユリアーヌ様を溺愛していますから、今のまま変わらないと思います。ユリアーヌ様とご結婚する方は何度か死ぬような目に遭うのでしょうね。」
「死ぬような…って!」アリスが言ったことがおかしくて、二人で笑い合った。
乾かした髪を軽く整えてくれたアリスは「では、おやすみなさいませ。」とあいさつをして退出していった。
寝台に腰かけ左手首に視線を落とすと、その内側にはとても小さな魔王陣。
今日は父が不機嫌だったので、彼の説明で分からないこともあったのだが質問もできなかった。
それに彼の方も何か私に聞くべきことがあったような素ぶりだった。
首に下げているペンダントに手をやり、この青い石を介して自分の体を巡回しているルーニーに働きかける。
するとユリアーヌが念じたように部屋の明かりが落ち、暗くなる。
サイドテーブルの上にあるロウソクを模したランプだけが小さくその周辺を照らす。
首から外したペンダントを大事にそっと、そのテーブルに置いてユリアーヌはその日を終え眠りについた。
『麗しき男子と偉丈夫(王都サナ編)』 = イケメン図鑑
この国の女子はこの本を見ながら「私はこの男性が好き。」「え~、意外」などと皆でキャアキャア言いながら見ている…はず。
もちろん第4騎士隊のジョゼフ・マーレンも載っています。あとルーカス殿下も。
18歳以上からの掲載なので、エリックは編集当時年齢が足らず未掲載です。
でも次回は華々しく紙面に登場しちゃうでしょう(笑)




