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この度もお読みくださり、ありがとうございます。
退室したリカルドとジョゼフは歩きながら、今後の方針を簡単に話し合う。
まずは神聖派の近年不自然な人と金の動きを調べることにした。
その調査にかかる前にリカルドにはもう一つの使命がある。
ジョゼフと別れたリカルドはいったん第2隊に戻り、今日の書類に目を通していった。
予定されていた午後の第1隊との合同訓練を終えてから簡単に身を清め、職員を管理する管理塔へと足を運び王太子の命の札を見せ言った。
「王立図書館の受付職員、ユリアーノ・オルスターの今日から1ヶ月先までの勤務予定を出してほしい。」
勤務予定表を手に入れたリカルドはその足で2つ上の階へ上り、奥へと進む。
大きな扉の前にカウンターがあり女性が1人座って書き物をしていた。
普段は限られた者しかやってこない部署に近づいてくる、背の高い男に気付いた女性は立ち上がり
「こちらに御用ですか?お約束はとられていないようですが。」
手元にある今日の予約表に一度視線を落としてから言った。
「急ぎの用で来た。オルスター総務官をお願いしたい。第2騎士隊長をしているアーバンヒルだ。」
言いながら例の彫金の札を見せれば、女性は「少々お待ちを…。」と言って急いで扉の中に消えた。
間もなく部屋から出て来たオルスターにも札を見せながら
「突然申し訳ありません。王太子殿下の命でやってきました。少しお話をさせてください。」
そう言えば、すぐに察したオルスターは女性に暫く応接室を使うことと、緊急の用件以外は取り次がないように言い
「では、こちらに」
そう言うと、同じ階にある応接室にリカルドを案内した。
案内されたのは小さめの応接室で、リカルドが先に入ると続いて入ったアーノルドは扉の鍵を閉めた。
リカルドはアーノルドと1対1で話をするのは初めてだった。
王宮や食堂などですれ違うことや見かけることはある。
いつもにこやかな表情をしていて真面目で優しく穏やかだと皆が言い、悪い話は聞いたことがない。
ところが今、ソファーで向い合せに座る彼は先ほどまでとは別人のような鋭い眼をし、張りつめた空気を纏っている。
リカルドはこの度のエリックが絡んだ件を説明するために口を開こうとした時、彼の方が先に言った。
「大まかなことは既にシルベス…、フィルダナ大臣から聞いている。」
リカルドはフィルダナ家とオルスター家の関係を既に知っていたこともあり、驚きもせず持っていた彫金の札を机上に置くと話し始めた。
「昨日、殿下より私がユリアーヌ嬢の警護を命じられました。身辺の安全を確保するため危険があった場合すぐに察知できるよう、お嬢さんに術を施したいのです。それにお嬢さんの勤務予定表は手に入れてはいますが、おおまかな日常の行動範囲や交友関係を本人から伺いたいので許可を願いたく参りました。」
アーノルドはあまりいい顔をしていない。
何か断る理由がないか頭を巡らせているように見える。
「普段からオルスター家でも十分な警護をされるとは思いますが、この件でお嬢さんを狙ってくる相手は教会に関係する者です。恐らくルーニーが強くルーナの扱いに長けている者もいるでしょう。魔道騎士の私であればそれに対応できお守りすることができます。」
リカルドの話を聞き頭では納得し、心では不服を抱えてはいるアーノルドもリカルドのルーニーのランクと実績などから否を唱えることはできない。
「…仕方ない。私もルーニーが強い方だとはいえ、高度な術を自分以外に施すことは難しいレベルでしかない。娘を守ってくれるのならば君にお願いする。」
アーノルドは右手と左手にそれぞれルーニーを集中させ、金色に光る小鳥を2羽作りだし飛び立たせた。
金色の鳥はくるくると互いを追いかけて回ったあと、部屋の壁をスッと通り抜けるように消えた。
「間もなく娘の仕事が終わる時間だ。ここに来るように伝えたのでやってくるだろう。」
アーノルドはそう言うと口を閉ざし、窓の外の景色に目をやった。
ユリアーヌがやってくるまでの間、アーノルドから伝わってくる不機嫌オーラを感じながら、彼の機嫌を損ねるようなことを自分はしただろうか?とリカルドは現在と過去とに考えを巡らせながら何時間にと感じる2人だけの時を過ごした。
この時はさっぱり分からなかったが、後に思い返すと殿下の言った「健闘を祈る!」と言った意味が理解できたリカルドだった。
窓の外に目をやっていたアーノルドがスッと立ち上がり、閉めていた扉の鍵を開けた。
それと同時にコンコンと扉はノックされ、外から受付の女性の声でユリアーヌが訪ねてきたことが告げられる。
アーノルドが扉を開けながら「入りなさい。」と言う。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
アーノルドが飛ばした伝令の文面がどのようなものだったのか分からないが、丁寧な礼と言葉遣いで入ってきたユリアーヌが顔を上げ室内にいたリカルドに少し驚いたような顔をしたが声は発しなかった。
それを少し疑問に思ったが、リカルドも立ち上がりまるで初対面であるかのように
「第2騎士隊のリカルド・アーバンヒルです。王太子の命でお呼び出しを致しました。」
敢えて事務的に言って騎士の礼をとった。
相変わらずイライラというか、ピリピリした感情をグッと理性で無理やり押し殺したような雰囲気のアーノルドが、ユリアーヌとリカルドの間に立って言った。
「この子には後で私から詳細を話す。君は警護の術をかけてくれればそれでいい。」
冷やかなもの言いにユリアーヌもハラハラしているのが見て取れる。
大人しく従うのが無難だと判断したリカルドは、ユリアーヌに「こちらに座っていただけますか?」とソファーに座ることを勧めた。
座ったユリアーヌの前に立ったリカルドはユリアーヌに左手を差し出すように言い、彼女の左手首を優しく自身の右手でそっと触れ左手をユリアーヌの頭上にかざしながら警護の術式を詠唱する。
触れていた手首が一瞬パッと光る。
リカルドは触れていたユリアーヌの左手首の内側を確かめる。
術は確かにかかったようで、その証に手首内側には術痕が付いていた
それは人眼には黒子としか思えないのだが、目を凝らして見ると小さな魔法陣になっている。
「非常時には私がすぐに駆け付けられるように術を施しました。あなたが危険や恐怖を感じた時や、邪な気持ちを持った者があなたに触れた時に術が発動します。」
リカルドが簡単にかけた術の説明をするが、なぜ術をかけられることになったのかの経緯や説明を父親によって後回しにされてしまったユリアーヌは事態が飲み込めずに、ただリカルドの言葉に頷くしかなかった。
「それから…」リカルドがユリアーヌに行動範囲や交友関係などの質問をしようとしたが、アーノルドがそれを遮り
「後で娘には私から説明をしておく。アーバンヒル君ありがとう。ご苦労だった。」
アーノルドは顔はにこやかに(ただ目は笑ってはいない)、ユリアーヌの左手をリカルドから奪い取るように掴むと手を離させた。
何事もなかったように扉まで行ったアーノルドは、リカルドに早々の退出を促すように扉を開けた。
否応なく応接室からの退出をしなければならなくなったリカルドは、まだユリアーヌに日常の行動範囲や交友関係など聞くべきことがあったのだがアーノルドの気迫に押されて今日のところは引き下がることにしたのだった。
リカルド、理不尽さに耐える・・・の巻(笑)




