17 噂ばなし
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張り込みの報告の手続きをしてから2日後、王太子の執務室に呼ばれた。
その中で一番の事柄がフィルダナ家の子息のことだ。
それを報告すると王太子のルーカス殿下も「なぜフィルダナの息子が?」と訝しんでいた。
フィルダナ家として動いているのか、息子のエリックが個人的に目的を持って動いているのかで話はずいぶんと変わってくる。
エリックがルーニーの気配を消していないという不手際や、成人前の大事な跡取りを危険にさらすことをフィルダナ家としてさせるはずがない。
させるとするならその手のプロを雇うはずだという結論に至った。
ルーカス殿下が執務室の前に控えている護衛騎士のひとりに、大臣のシルベスと王立学校にいるエリックを呼ぶように指示を出した。
程なくして同じ敷地で働く大臣、シルベス・フィルダナが王太子の執務室の扉をノックした。
王太子の前の席を空けたジョゼフとリカルドの2人は、入り口近くの壁際に並んで立つ。
「座ってくれ。急に呼び出してすまないな。聞きたいことがある。」
ルーカス殿下はシルベスにそう言うと、続けて呼び出すことになった件の話をした。
するとシルベスはその話を聞いてとても驚いた。
「初耳です。一度息子があまりに遅い時間に家を出ていくところを咎めたことがあったのですが、『父上だって僕ぐらいの歳だったころは、友達と飲んだり女の子と遊んだりしたでしょう?』と言われてしまって。まあ…その通りなので、結局は黙認している状態でした。」
そう言ったシルベスは大臣の顔から父親の顔になっていた。
「夜出かけたことは問題ではないのだ、私だってお忍びで出かけることもあるのでね。それよりも行った場所が問題なのだよ。」
とルーカス殿下が言えば
「私も息子がなぜあの教会に赴いたのか心当たりがありません。」
シルベスがそう言ったところで、ドアがノックされ扉の外の護衛騎士からシルベスの息子のエリックが到着したことが告げられた。
殿下の入室許可の言葉で扉を開けて入室してきたエリックは、王太子の執務室に呼ばれたことに加え、入り口付近に強大なルーニーを有する騎士隊長が2人も立っていること、更には父親も呼ばれていて緊張で青い顔をしていた。
横に座らされたエリックにシルベスが「なぜあの教会に行ったのかの説明を。」と言えば素直に話を始めた。
「学校で他愛のない話をしていたら都市伝説のような話になりました。僕はルーニーが強い方なので普段は噂やオカルトな話にあまり興味がないのですが、ある生徒が噂のような…それでいて本当のような話をしたのです。」
エリックは一息ついて話を続けた。
「神聖派と名乗る人々は『神』を復活させるために『形代』の召喚魔法陣を使ったが、形代の黒髪の乙女はどこかに落ちてしまい召喚は失敗した。しかし神の復活にはその乙女が必要なので不明になった乙女を捜して人攫いが行われている…と。」
静かにそれを聞いていたルーカス殿下は
「それを直接確認しに行ったのかい?単なる好奇心だったのかな?それとも理由は他に?」
とエリックに問えば、エリックは「ええっと…」と言いながら父親のシルベスの顔を窺った。
その視線の意味することを読み取ったシルベスが言った。
「殿下、息子がなぜあの教会を調べたのか私にはその理由が分かりました。それを包み隠さずお話しします。話の後にどこまで公にするかは殿下のご判断に委ねますが、どうかこの場で聞くのは殿下だけにしていただきたいのです。」
ルーカス殿下はシルベスの願いを聞き入れ、入り口付近に立っていたジョゼフとリカルドに退出を促した。
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