13 影響
予約投稿に失敗していました(涙)あとで気付いてびっくりしました。
では、どうぞ。
騎士団に着いてからもリカルドは心ここにあらずの状態だった。
部下のアブルーノに魔力過多の症状だと思われ、心配されるほどに。
魔力過多の兆候を先日まで感じていたのを思い出し、どうせ仕事も手に付かないので普段は好かない魔石に魔力を注入する作業に行くことにした。
それで頭がすっきりするかも…と、少し歩いて魔石場へと足を運ぶ。
「おや、リカルドじゃないか!」
魔石場にはリカルドの心の師匠、ジョゼフ・マーレンがいた。
「最近は大規模な魔獣討伐がないから体が重くて仕方がないよ。僕でそんな状態だから君はもっと辛さを感じているんじゃないか?」
「そうだな、一度余剰魔力をゼロにするくらいの放出ができればスッキリするし、随分長い間楽になる。」
リカルドはそう言いながら、空の魔石を両手に握り集中する。
現在は煮炊きや加熱するための魔石が足らないので、ルーニーを『燃焼』のルーナに変えて魔石に込める。
魔力を注入された魔石は仄かに青白く発光する。
いつもならリカルドの魔力注入は両手に持っても3秒ほどで完了するのだが、今日はなかなか完了しない。
リカルドは両手に持っていた魔石を右手1個にして再び試みる。
じわじわと注入された魔石は15秒ほどかかってようやく完成した。
「あれ?そんなに魔力過多になっていないのに来たのかい?」
ジョゼフは手にした魔石に見入っているリカルドに聞いた。
「いや…2週間前に兆候を感じていたんだ。そろそろだなって。」
「リカルド、ちょっといいか?」
ジョゼフがリカルドの額の前に手をかざして魔力量を読む。
「たいして余剰魔力はない。どうした?魔力出なくなったわけではないだろう?」
稀であるが魔力がある日突然、枯渇してしまう者もいる。
「魔力は適度にある…余って溜まっていた分が無いようだ。少し前には余剰魔力を感じていたのだろう?でも溜まっていないなんて…どうしたんだい?」
ジョゼフは興味深く聞いてくる。
魔力が強すぎる者たちが陥る不快な症状が緩和される簡単な手段があるのならば、誰もが知りたい。
リカルドはこの2週間のことを思い出す。
今までの生活と変わったこと…変えたこと…無くしたこと…加わったこと…。
何かあっただろうか?
ユリアーヌだ。
彼女の近くにいたり少し触れただけで倦怠感が軽くなったように感じたのは、気のせいではなかったのだ。
今日は彼女に触れた面積も広く、時間も長かった。
それで余って体に溜まっていた魔力がすっかり無くなってしまった?
そしてその副作用なのだろうか、あの後から動悸が激しく仕事に集中できないうえに気持も不安定だ。
リカルドはまだ確信が持てないので誰にも言わないのを条件に、信頼のおけるジョゼフにユリアーヌのことを打ち明けた。
「それが本当だとしたら凄いことだぞ。でも仮にその子が余った君の魔力を吸い取っていたとして、彼女の体には異変はないのかな?」
ジョゼフの言葉にハッとしたリカルドは、ユリアーヌのことが心配になった。
「以前のわずかな接触の時もその後も、彼女に変化はないようだった。他人の魔力…特に俺の様な強い魔力の流れ込みがあったのなら彼女もそれに気づくだろう。今日の接触の後のことは分からないが、別れるまでは変りのないようだった。」
リカルドの話をジョゼフは腕を組んで真剣に聞く。
「他に何か気付いたことや不思議に思うことはなかったの?」
「ああ、ある。彼女との間にはスパークが起こらない。このことが彼女に興味を持ったきっかけだ。それから…彼女と一緒にいた後は動悸が激しくなって、気持も不安定になる。これは俺が彼女から何か力の影響を受けているからなのか?」
それまで眉間にしわを寄せて難しい顔で真剣に聞いていたジョゼフは、一瞬固まって呆けた顔になった。
「リカルド、彼女との間にスパークが起こらないことはとても興味深い話だ。だが動悸が激しくなって気持ちが不安定なのは、恐らく魔力と全く関係ないことだと思うよ。」
「え?関係ない?じゃあ何だ。」
「君は今まで一度もそうなったことはないの?」
こくこく…と子どものように頷くリカルドに苦笑する。
「君はね今、その子に心惹かれているんだよ『恋』しているってことさ。訓練している時や仕事に集中している時にはならないだろう?彼女のこと考えたり思い出したりするとなったりしないかい?」
まるで弟に話す兄のようなジョゼフの話を聞いたリカルドは、とたんに顔を赤くした。
お読みくださり、ありがとうございました。




