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11 学生服の青年

お読みいただき、ありがとうございます!

ユリアーヌが安全に通勤できるようにアーノルドは小さく質素な馬車を用意して、個人所有の馬車の乗り降りや乗合馬車も停留する庁舎の一般向けロータリーを使い、あえて特別目に止まらないようにし送迎させている。

ユリアーヌは多くの人がそうしているように乗合馬車を利用したいと提案したのだが、それは父により即刻却下されたのは言うまでもない。


仕事を終えたユリアーヌはロータリーで迎えの馬車を探すが、自分が今日の終業時間を御者のヨハンに間違えて伝えたことに気付く。

一度戻って読書でもしながら時間をつぶそうかと思い、踵を返したところ


「ユリア!」


外で男性に名前を呼ばれることがないので驚いて振り返ると、学生服を着た薄茶の髪で新緑の瞳の青年が駆け寄ってきた。


「エリック!久しぶりね。あなたは学校帰り?」


声を掛けてきたのは、王立学校に通っているシルベス・フィルダナの息子で、従兄のエリックだった。


「父からユリアが図書館で働き始めたって聞いてビックリしたよ。おととい行ったら残念ながら君が休みの日だって…なぜだか金髪の子に怖い口調で言われて睨まれたけどね。」


「ふふふっ、キャロルね…。それにしても、また背が伸びたんじゃない?」


「そう?僕はユリアが縮まったのかと思ったよ。そうでなかったら、きっと僕が伸びたんだろうね。」


「なにそれ!ひどいわ。」


と兄妹のように育った二人が笑い合っていると、フィルダナ家の馬車が二人の前で止まった。


「ユリアの迎えは?」と聞かれて、時間を間違えて伝えてしまったことを話すとエリックが


「まだ30分以上待つのなら、この馬車で送って行くよ、一緒に帰ろう。」


と言って、自身の右手を軽く握ってそこに気を集中させたかと思うと、拳ほどの光の玉が現れ蝶の形に変わる。

その金色の蝶はふわりと浮き上がったかと思うと、本物の蝶とは異なる速さで飛んで行き光の筋になって消えた。


「ユリアの家に伝令を送ったよ。これで君の御者は迎えに来なくてよくなった。」


フィルダナ家の御者が馬車の扉を開けると、エリックは紳士の所作をし


「さあレディ、お手をどうぞ。足元に気を付けてお乗りください。」


と気取った口調で言い、

ユリアもそれに合わせてエリックが差し出した手に、自分の右手を乗せると


「まあ、ありがとうございます。」


と言いながら、左手でスカートを摘まんで淑女の礼をした。

クスクス笑いふざけながら馬車に乗り込むと、向い合せに座る。


「エリックはお父さまたちと同じくらいのルーニーがあるのね。少し羨ましいわ。」


「ルーニーが生まれつき強い方なのは恵まれているけれど、まだまだ。今はもっとルーニーを上手く扱って作ったルーナを、より大きく強く様々に変化させられるように日々鍛練中だ。」


オルスター家に向かう馬車の中は、互いの近況報告などで明るく楽しい声が響いていた。



◆ ◆ ◆


時が同じ頃にリカルドは騎馬での巡回警備を終えたところだった。

ちょうどこの時間帯は多くの部署や学校などが終業時間としているので、馬車乗り場も人が集まり混雑する。


人が集まれば、トラブルが起こるのが常である。

リカルドはトラブルが起こらないようにと、見守り警備をしてから戻ることにした。


そこへキョロキョロと馬車を探しているのか黒髪の娘が歩いてきた。

少し離れてはいたが、リカルドがユリアーヌだ!と気付いたとき、彼女はなぜだかくるりと来た方向に体を向けた。

後ろを振りかえると同時に誰かに呼ばれたようで立ち止る。

そこに薄茶の髪をした学生服の青年が駆け寄ってきた。


リカルドの位置からでは二人の会話は聞き取れないが、騎馬で見通せたため親し気に話をしている様子は見て取れた。

ユリアーヌの笑顔も今まで自分が目にしたものと違う、屈託のない笑顔であった。

その笑顔が自分に向けられていたものと違う種類のもということが分かってしまい、リカルドはなぜだかとても残念な気持ちになった。


ユリアーヌと学生服の青年が立ち話を始めて間もなく、立派な馬車がやってきて二人の前に止まる。

彼女と一言二言言葉を交わした青年は、彼の手から出した光の玉を金色の蝶へと変え、彼はそれを空へと飛ばした。

彼はある程度の強さのルーニーがあるらしい…などと思っていると、青年は彼女に手を差し出し彼女もそれに笑顔で答えて自ら手を乗せ、青年の家のものと思われる馬車に乗り込んだ。


他に帰路に着くたくさんの人たちがいるのに、いつの間にかリカルドにはユリアーヌとその隣に立つ青年しか見えなくなっていた。

馬車はゆっくりと走り出し、リカルドの前を通過していく。


その立派な馬車には所有者の紋章が付いていた。

リカルドは帰宅する人々の喧騒の中、ただその馬車が通り過ぎていくのを目で追っていた。


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