10 魔導師のシルシ
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「ねえねえ、今一緒だったのは騎士団のリカルド様よね。なんで一緒にいたの?」
カウンターに戻るとキラキラした「女子の瞳」をした先輩のキャロルが質問してきた。
ユリアーヌが先ほどあった一連のことを話すと
「最近図書館の利用者が急に増えたの、それも男性の。喜ばしいことなのだけれど…絶対ユリア目当てよねって皆が言っているわ。」
「ええっ!私?」
「そうよ。本当に無自覚なんだから。私はあなたのそんなところも好きなのだけれどね。」
キャロルはクスクス笑って、真っ赤になったユリアーヌを見ながら言った。
「今日のこともそもそもは、ご自分の隊員がユリアにちょっかい出したから戒めたのだとしても、ここまで荷物を運んでくれるなんてとても珍しいことだと思うわ。」
「そうなの?皆がしてくれる普通の親切心よ?それに彼は騎士様なのだから。」
「普通の人だったらそうなるのだけれど、彼は上級の魔導師で、それも彼は強大なルーニーの持ち主だから他人の力に影響を受けるらしいの。だから常に手袋をしていて人とは直接触れないようにしているし、自分から他人への接触を極力しないようにしているとの噂よ。」
ユリアーヌはキャロルが言うリカルドと、先ほど一緒に歩いてきた人が同一人物には思えなかった。
「あなたが言う人物像に彼が当てはまらないのだけれど…、私と一緒にいたのはアーバンヒル隊長よ…ね?」
なんだか自信がなくなってユリアーヌがつぶやくと
「気に入ってもらえたのか、心配で放っておけなかったのか何なのかは分からないけれどいい兆候よ!奥手のあなたにとっても、彼にもね。」
ユリアーヌは小柄で華奢な体格と可愛らしい顔立ちで、どうしても実年齢よりも若く見られがちだ。
それに加えて幼少期から両親の希望で自宅に家庭教師や講師が勉強やマナー、ダンスなどを教えに来ていたため学校には通っておらず、少々…いやかなり世間に疎い。
同い年の親しい友人はほとんど無く、従兄妹や稀に母の友人親子に会ったりするだけだった。
幼少期に家には使用人の子どももよく出入りしていたが、どんなに仲良くなっても主の子と使用人の子であるので隔たりはある。
おまけに図書館で働き始めるまで接する男性は父親と執事に使用人、伯父や従兄など身内ばかりで若い男性と会話をしたことがなく、もちろん淡い恋心を抱く機会も無かった。
「魔導師なの⁉︎」
ユリアーヌがちょっとビックリして言うと
「騎士団の制服の襟に青いバッチが付いていたでしょ?あれは魔導師のシルシじゃない!」
キャロルは信じられない!といった様子で椅子から立ち上がった。
「あっ、そうだったかしら?そうだったわ。今、思い出したけれど。」
テヘッと可愛らしい仕草でユリアーヌが言えば、
「我々一般的なルーニーの持ち主には相手の力量や種類を感じ取ることはなかなかできないけれど、ルーニーが強い人は簡単にできるらしいわ。きっとユリアのちょっと『おまぬけ』なところとか『天然』なところとか、もう彼には全てを見抜かれちゃっているんだからね~。」
と、キャロルはユリアーヌをからかって言った。




