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序章
初執筆です。
この物語の独自の社会・制度・階級ですので、実際のものとは異なりますのでご了承ください。
「お母さま、ご気分はいかが?」
ユリの生けられた花瓶を持って若い娘が部屋に入って来た。
ベッドサイドのテーブルに花瓶を置きながら、その娘は窓際の長椅子に向かって声をかけた。
窓際の長椅子で俯き読書をしている、美しいハチミツ色の髪をした女性がゆっくりと顔をあげる。
「いやだわ、本を読んでいるうちにウトウトしてしまったのね。安心して、今日はとても調子が良いのよ。」
細く華奢な女性は健康的とは言い難いが、明るい笑みを浮かべながら答えた。
「それはよかった。」
彼女の娘ユリアーヌは、母マリアンヌのくつろぐ長椅子に近寄り、隣の椅子に腰を下ろす。
「もうあのユリが咲く時期なのね。」
マリアンヌは独り言のように言いながら、ユリアーヌが部屋に持ち込んだ花瓶から外の景色に視線を移した。
しかしその瞳は外の景色を映してはいたが、その時の彼女の心には過去の情景が思い出されていた。