否(イヤ)む少女
俺が部屋の前につくと、ディアニスがあとからついてきた。
「ん? 何か用か?」
「いや、そこ俺の部屋なんだが?」
「そうかすまん」
「おう。ああ、ところで隣に行くんだろ? なら気を付けろよ」
ディアニスはそう言って、隣の部屋を指した。
「ああ、もうだいたい慣れてきたから大丈夫だ」
「いや、あいつはヤバいぞ……うまく言葉にできんが、とにかくヤバい」
そう言ったディアニスの表情は、何か怖いものでも見たかのようだ。
「そうか」
「ああ、んじゃ頑張れよ」
そう言って、ディアニスは自分の部屋に入っていった。
というわけで隣の部屋に行きドアを開けた……が、すぐに閉じた……
「……おい、ヘルトゥナ……なんだあれ?」
「ごめん……僕にもわからないんだ……」
「はあ、めんどい」
「とりあえず、行っておいで」
俺はため息をつきながら、部屋へと入っていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
部屋に入るとそこには……カオスな空間が広がっていた。
今までの部屋には、だいたいソファーとテーブルのみがおかれていた。
ちなみにシエリアの部屋ではさらに本棚があり、そこに収まらないほどの本が散乱していた……もちろん内容は知らんし知りたくもない。
さて、この部屋の内装はというと、中央にソファーとテーブルがある……ここまではいい。問題はここからで、その中央を囲むように、壁沿いになんだかよくわからん機械とよくわからん生物が液体と共に円筒状のガラスに入ったものがある。
部屋中に機械の部品のようなもの、設計図の紙と思われるもの、そしてなぜかちぐはぐで、綿がところどころでてしまっているものもあるぬいぐるみとその綿やボタン……さらに血のようなあと……がある。
テーブルには血のようなものが広がっており、血のようなものがついたメスなどが置かれていた。
……大事な事なのでもう一度言うが、ようなものである。
そして、ソファーではというと、白衣を着た少女が、ちぐはぐで何故か一部機械化した大きなくまのぬいぐるみを抱え、それの右肩からこちらを覗いていた……。
「……」
「ハジメマシテ。ボクハ、ララ」
少女の持つぬいぐるみから、機械的な音声が聞こえてきた。
「……」
「ソシテカノジョハ、フレンディア。フレンッテ、ヨンデアゲテネ」
「……」
「ネェ……ダイジョウブ?」
「はっ……ああ、大丈夫だ……で、何だって?」
全然、話を聞いていなかった。
「ゼンゼンダイジョウブジャナイネ」
「とりあえず、名前だけは聞いていたぞ? ええと……ラララとフレンドリーだろ?」
「……チガウヨ。ボクハララ、カノジョハフレンディア」
「そうか、じゃあララとフレンディアよろしく」
「ヨロシク」
「んじゃ、俺はこれで」
そう言って、ドアへと急ぐ。
「マッテ」
しかし、それは阻まれた。
「……なんだ?」
「モウスコシ、キミトオハナシシタインダ」
「残念だがまだ、後が控えていてな」
「ダイジョウブ。スグニ、オワルヨ」
「……それは、今しなきゃいけない話なのか?」
「ソウジャナイケド、カレナライマハ、ネムッテイルトオモウヨ」
「そうか……」
もちろん色々と疑問に思ったが……聞かないことにした。
「ソレデネ、フレンハヒトトハナスノガ、ニガテナンダ」
「んで?」
「カノジョガ、ドウスレバ、ヒトトオハナシデキルカ、アドバイスシテホシインダ」
「……」
「ダメカイ?」
「それは、いいが……」
「ナニカアルノ?」
「いや……」
「ソウ、ソレジャアマズ、ナニヲスレバイイトオモウ?」
いきなり言われてもな……
「まあ、まずは色々と直せ」
「ウーン……イロイロッテ?」
「例えばこのへやに散らばったぬいぐるみとか」
「ドコガダメナノ?カワイイノニ」
ぬいぐるみがぬいぐるみを可愛いと言う……これは一応ジョークのつもりなのか?色々と異常過ぎて全然笑えない。
「破れて綿がでていたり、目が糸一本で繋がってるだけのものは可愛いとは思わないが? そもそも、ちぐはぐな時点でダメだろ」
もちろん、これはララに対しても言えることだが……
「ウーン……ソウナノ? シュミガアルトイイッテ、キイテタカラ、オサイホウハジメタンダケド……」
「なら、きちんときれいに縫ってやれ。あと床とかの赤い液体も拭け」
「ソッカ、ソウダヨネ。ミンナキレイナホウガ、イイモンネ」
「まあ、まずはこんなとこだろ」
「ウン、ワカッタ」
「じゃあまたな」
「ウンマタネ」
そしてシラカゼは部屋を出ていった……
「うん……また……ね……」
その小さな呟きをララだけが聞いていた……