恨病(ウラヤ)む少年
俺が部屋にはいると……
「おや? 君が最後の人かな?」
「ああ、そうだ」
そこには、少女がいた。年は15、6歳くらいだろうか? ブラウンのショートの髪には、白いリボンのついた黒のシルクハットを被っている。服は黒と紫のドレスで、こちらもスカートなどに白いリボンがついている。しかし、胸のリボンのみ、彼女の瞳と同じ赤い色をしている。黒のブーツにも、白のリボンがついている。
『ん? 少女? 確かヘルトゥナは……』
「そっか♪僕はヴェリアージュ。ヴェリアでいいよ? よろしくね」
そう言って、俺にくっついてくる少女……いや……
「離れろ、気持ち悪い。お前、男だろ」
「えー? 何でばれたのー?」
「外にいる神様が言っていたぞ」
「えー? プライバシー保護はなんとかって言ってたのに……あーあ、最後にまたかっこいい人が来てくれたのになぁ~……やっぱりあの人を落としとくんだったなぁ~」
そう言いつつもまだ俺にくっついてくる。
「あーちょっと~」
とりあえず引き剥がした。
「もう、君もつれないなぁ~……」
「俺は男とベタベタする趣味はない」
「じゃあ、僕が女の子だったらいいの? なら大丈夫、そんなの些細な問題だよ。見た目は女の子だし、……きちんと女の子と同じこともしてあげるよ?」
そう言って、イタズラっぽくウィンクしてくるヴェリアージュ。
「例え女でも、いきなりベタつかれたくないね」
「かわいくても?」
「ああ」
「そっか、それは残念だな~」
そんなことを言いつつも、残念そうという様子は窺えない。
「ところで、君の名前は?」
「俺はシラカゼという」
「ん~? あれあれ~? 確か転生者っていう事を、隠すために名前を変えたはずだよね?」
「あーこれは、一人はそういう名前のやつがいれば、敵を誘い出せると思ってな」
「ふーん?……要は囮だね。君って意外と大胆だったり?」
「さてな? それよりも、お前、元日本人か?」
「ん~さてどうかな?」
転生した時点で、俺たちはこちらの言葉が話せるようになっていた。 だがそれは、転生者の前世の情報を得ることが難しくなるということでもある。
「言っておくけど、例え僕がその日本人であったとしても、君と同じ時代の人間とは限らないよ。それにもしかしたら、僕は君の言う日本人と同じような言語体系を持つ、全く別の世界の住人かもしれないよ?」
「懇切丁寧な解説ありがとう。だが、別にそんな事はどうでもいい。だいたい同じだということが分かっただけでも、今後話しやすくて楽だ」
「あはは。いいね~君のそういうところ、僕は好きだよ。じゃあ、今後仲良くしていこうね♪」
そう言って、俺にくっつこうとしてくるヴェリアを避ける。
「もう、何で避けるんだよ~?」
「それはそれ、これはこれだ」
「つれないなぁ~。まあ、いいや。とりあえずこれからよろしくね? シラカゼ君」
「ああ、よろしく。んじゃ、またな」
「ええ~? もう行くの?」
「まだ、後が控えてるんでな」
「ちぇー……しょうがないな~」
ぷくーと頬を膨らませていたが、俺はスルーして部屋を出た。
「んー……でも、堕とし甲斐がありそうな人が来て良かった~。さ~て、今回はどうやろうかな? 楽しみだな~」
俺が部屋を出た後、ヴェリアが笑いながらそう呟いていたことを、俺はもちろん知らなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ね? 言った通りだったでしょ?」
いかにも『えっへん』と言いそう……というか、聞こえてくるほどに胸を張っている神様……
「まさか男の娘とはな……」
「全く、人のアドバイスは、ありがたく受け止めるものだよ。だいたい僕は神様なんだよ? もう少し尊敬の念ってやつをね~……」
神様が何か、くどくどと言い出したので、俺は次の部屋の前に行った。
「ってちょっと待ってよ! まだ、話は終わってないよ‼」
「いや、話長いし?」
「ひどいよ。僕は君のためを思って……うぅ……」
バレバレな泣いてますよアピールをしてくる神様。
「ハイハイ、ソウデスネー。サスガハ紙様ダナー」
「ちょっと、なにさりげにディスってんの? 全然、慰めになってないよ。お兄さん傷つくんだけど」
「あー分かった分かった。まだ、5人もいるんだ、早く進めるぞ」
次のドアに手をかける。
「その部屋の子は女性なんだけど……ってちょっとまt……あっ行っちゃった……」