娜病(ナヤ)める少女
俺は部屋の中に入った。
すると、そこには14歳くらいの少女がいた。
少女の瞳はアイスブルーで、その瞳の色と同じ色の髪は、肩程の長さに切り揃えられており、着ている白のワンピースもあわさり、かわいらしい。
かわいらしいのだが……その白い手首から滴る赤い液体と右手に持っている、刃が赤く染まったカッターナイフが、その場に異常な雰囲気を醸し出していた。
「あっ、あの……」
「……ああ、すまない……」
二人の最初の会話は、大変気まずいものとなった。当然、沈黙がその場を支配した……しばらくして、先に言葉を発したのは……
「……悪いんだが、ちょっと待ってて貰えるか?」
「えっ? あ、はい……」
とりあえず部屋を出て、ドアを閉めた。
「……」
「シラカゼ君どうだった?」
「何だあれ?」
「あーあれは……まあ、彼女の病気というか、癖でね……自分の手首を切らないと、禁断症状がでて落ち着かないから、つい切ってしまうんだって」
「つまり、ヤバい人間ってことだよな?」
俺はヘルトゥナを睨む。しかし……
「まあ、色々と事情があってね~。プライバシー保護の関係で言えないけど。まあ、いいじゃないかシラカゼ君。何だかテンプレみたいだよ」
と詫び入れた様子もなく、そんなことをのたまう神様。
「どこがテンプレだって?」
「主人公が、ヒロインの着替えを覗いてしまった時と似ているよ」
「そっちのが、まだマシだし、いっそ現実的に思えてくるわ」
「じゃあ、メンタルケアが必要かい?」
「結構、ますます悪化しそうだ」
「よしよし、それじゃあリベンジだよ」
「はあ……めんどい」
俺はダルそうに再び扉の前に立った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さっきはその……お恥ずかしいところをお見せしてすみません」
「いや、こっちの方こそすまなかった」
『すまなかった』と言う割に、相変わらず無表情な少年……
「私はかn……リリィといいます」
「俺は、シラカゼという。……まだ、新しい名前には慣れていないのか?」
「シラカゼさんは大丈夫そうですね……」
「ああ、まあな」
もちろん、名前がそのままだからとは言えないが……
「まあ、そんなことよりもだ。これから長い……かどうかは分からんが、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
「とりあえず、今は挨拶だけ。あと何かあるか?」
「あの……先ほどの事は誰にも……」
「ああ、もちろん言わないさ」
「ありがとうございます……」
「他には?」
「あー……いえ、特には……」
「そうか……では、また後でな」
と.俺が行こうとすると……
「あっ、あのちょっと待ってください‼」
リリィが呼び止めてきた。
「ん? 何だ?」
「あの……他の方とは……」
「いや、まだだが? それが?」
「あっ……その……頑張ってくださいね……」
「ん? ああ、分かった。ありがとな」
今度こそ俺は部屋の外へ出た。
「……」
リリィはシラカゼが出ていった扉を、少し心配そうに見つめていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はあ……めんどいなあ」
この先のことを考えて自然にため息がでた。
「おかえり。どうだった?」
「ああ、挨拶してきた……これから会うやつらもあんな感じなのか?」
「んん~……まあそうだね」
「はあ、めんどい」
「はいはい、んじゃ、次行こうか?」
「あと何人だっけ?」
「あと6人だよ。ちなみに、今回呼んだ子の男女比は同じだから安心してね?」
「どこに安心できる要素があるんだ?」
「行き遅れないところかな? まあ、そんなことより次行っておいで」
「余計なお世話だ」
俺が次のドアの前に行くと……
「あーそうだ、もうひとつ良いこと教えてあげるよ」
「何だ?」
シラカゼは『期待してないから』という顔でそう言う。
「その部屋の子は男だよ」
「あーはいはい分かった分かった」
予想通りくだらなかったと思いドアノブをひねる。
「もう、折角特別に教えてあげたのに」
そして、俺は部屋の中へ踏み出した。