はじまりの森は危険な森
俺が目を開けるとそこは……
「どうやら無事転移が成功したようだな。さて俺たちがいるのはとある森だ。危険度としては…」
俺がそう言いかけたとき、近くの茂みから何かの唸り声が聞こえた……もちろん人の声ではない。それは虎の声に似ていた。
「ま、という風にそこそこ危険だ」
「いや、危険って……普通はもっと危険の少ないところに送るものじゃないの?」
「残念だが、転生者の居場所や俺たちの実力の関係上ここになったらしい……まあせいぜい頑張れ」
「嫌よ。ていうかあなたはどうするのよ?」
「ん? とりあえずは見学させてもらう……ほら来たぞ」
俺がそう言うと、茂みから虎のような魔物が唸りながら出てきた。普通の虎よりも一回り大きな体に赤く鋭い爪と牙、赤色の虎模様の毛皮、そしてその背中から生えている水晶の形をした大きなルビーのようなもの……おそらくは、魔石だろうな
「ほら、誰でもいいから行ってこい」
「んじゃ、最初の獲物は俺が貰うぜ?」
そう言って、ディアニスが前に出る。
ディアニスが前に出ると、魔物は少し弧を描くように歩きながらディアニスを見据える……しばらくして魔物は、一声唸ると去っていた。去るときもこちらを警戒し背を向けなかった……
「なんだよ。折角の獲物だったのに」
「自分と相手の力量を測り、その上で身を引いたか……ふむ、確かにレベルは高いようだ」
「なに一人で納得してんだ?」
「狩りなら後でいくらでもさせてやる。だがまずはお前達の実力と魔物の実力をおおよそ測る。では次は誰だ?」
「えっ……今のでいいんですか?」
「おい、まだ何もやってないんだが?」
「今のでおおよそ分かった。なのでとりあえず次だ」
「チッ……」
ディアニスがそこらへんの石を蹴っていたが無視する。
「はいはーい。んじゃ、次は僕がいくよ」
「分かった」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
といった感じで、残り3人の実力をだいたい確認した。まあフィリユスとフレンディア、リリィは必要がなかったので測らなかったが……
「さて、確認を終えたところで。今後の方針を話したいところだが、今日はもう日が暮れる。というわけでだ、まずはここを仮拠点として拠点作りをする」
日はまだ明るいが、あと少しで夕暮れになるだろう。俺たちは少し開けた場所で風魔法を使って草を切って1ヶ所に集め、スペースを作った。
「それでまずは何からやるの?」
「まずはお前たちをそれぞれ役割分担する。まずディアニスとエルなんとか。お前たちは狩りに行ってこい」
「よっしゃー」
「あまり浮かれるなディアニス。いいかあくまでも俺たちが食べる分だけだ。二人で行動しなくてもいいが獲物の数は二人で話し合え。あと木々を倒すとか、森から出るとか目立つことをするな」
「はいはい、わかってますよっての」
「じゃあ行ってこい」
「よし。狩ってくる」
「じゃあ行ってくる」
そして二人は茂みのなかに消えた。
「大丈夫なんですかね?」
「ま、大丈夫だろ。んでリリィ、お前の方も森を探索してきて欲しい。森の中で食べられそうな野草とかを探してこい。あと一応あいつがバカやってたら殴って構わん」
「分かりました」
そう言ってリリィも茂みに消えた……もちろんモーニングスターを引きずって……
「さて次はヴェリアとララ、フレンディアだ」
「はいはーい、任せて~。それで何をすればいいの?」
そこで、俺はそこら辺から木の枝を拾い、地面に刺した。
「まずララとフレンディア、お前たちはこの枝を刺した地点を中心とした、1km範囲に探索用の機械ユニットを飛ばして地形を把握しろ。そのあとその範囲の地図を作れ」
「ウン、ワカッタ」
「ヴェリア、お前はユニットの一つと一緒にその範囲の円周を周り、結界を張ってこい」
「うんわかった。じゃあ行ってくるね~」
ヴェリアは手を振ってから茂みに入って行った。
「さて、残りはこの場所を整える作業をする。が、シエリア。お前には調理を担当してもらうがいいか?」
「ええ、もちろんよ」
「ではお前は調理の準備だ。フレン、調理台を出してやってくれ」
フレンディアはコクりと頷き、シエリアと共に調理台を置きに行った。
「あと……おいバカ、お前にも働いてもらうぞ?」
縛られて、地面に放置されていたフィリユスを見てそう言った。
「でもみんな食べちゃダメなんでしょ?」
「お前は人を食べてどうする? 本当にずっと一緒にいられると思ってるのか?」
「そうだよ……」
「そんなの、物理的にも精神的にも無理だな」
「じゃあどうすればいいって言うのさ‼」
「さあな。だがまずは俺たちから信用を勝ち取れ。そもそもずっとだぁ? なら自分がまず不死にでもなるんだな」
俺はそう言って縄を解く。その時、ちょうどフレンディアが戻ってきた。
「ま、何にしろまずは働け。話はそこからだ」