暗病(クラヤ)みの青年
「ふう……これであと一人か……」
なんだか長いな……実際そんなに時間はかかってないんだろうが……
「おかえり……大丈夫だった?」
「全然……」
「まあでも、あと一人だから頑張って」
「ああ……んじゃ行ってくる」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
というわけで、最後の部屋に来たんだが……どうやらまだ寝ているらしい。
ソファーの上では青年がくまのぬいぐるみを抱いて眠っている……まああれを見た後だとな……
よく見ると、そのぬいぐるみは綿が出てはいないがちぐはぐだった……とりあえず手を振ってきたので振りかえす……まあそんなことはともかく起こすか。
そう思ったシラカゼは青年の眠るソファーの前に立つ。
「よく見たらイケメソだ……よし殴るか。ちょうど寝てるし」
シラカゼがそんなことを呟き、拳を振り上げた時……
「ん? 誰だ」
「チッ……起きたか……」
「ん? ……ああ、やっときたのか……」
そう言って、目の前のイケメソは体を起こした。
そして……
「どういうつもりだ?」
目の前のイケメソが炎の玉をいきなり投げてきた。……まあ避けたが。視界の端でぬいぐるみがあわあわとしていた。
「ん? ただ面白そうなやつが来たから、挨拶しただけだが? まあ今はこのぐらいにしておくが……」
「はあ?」
「お前も俺を殴ろうとしていたんだろう? ならお互い様だ」
「なんだ起きてたのか」
「いや今起きたところだ」
「そうか……俺はシラカゼ」
「……エルシュルート……だったか?」
「……自分の名前も覚えてないのか?」
「俺が決めた訳じゃないからな」
「そうか」
「そうだ」
「んじゃ、もう行くわ」
「ん? もう行くのか?」
「……なんだ? 言いたいことでもあるのか?」
「いや……」
そう言って、ソファーにぬいぐるみを置いて立ち上がり、俺の目の前に来た。
そして……
「……何してるんだ?」
「撫でてるだけだが?」
「……」
はあ?
そう思っている間にやつは撫でるのを止めた……と思ったら今度は少しかがんで、俺の頬に片手を添えてじっくりと俺の顔見てきた……爬虫類のような冷たい瞳が俺を見据える。
シラカゼは吐き気を感じた……しかし、それと同時に少し苛立っていた。実際の身長の差はしょうがないと割りきれる。しかし、かがむという行為自体が、背の高さを強調しているようで腹が立ったのだ。さらに嫌いなイケメソの顔を近づけられたことで、苛立ちに拍車をかける。
「……ている」
青年が小声で呟いた……
「……どうでもいいが、いつまで人の顔を見ているつもりだ?」
俺はエルシュルートの手をはじき、何も言わずに外へ出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あっ、おかえり」
「……」
「ん? 何かあった?」
「いや、大丈夫だ……」
「そう? ならいいけど……」
「さて、これで全員だよな?」
「うん。こっちも君のスキルの設定とか終わってるよ」
「そうか……だがそれを聞く前に、聞きたいことがある……」
「ん? なんだい?」
「お前はどうせ俺たちを、使い捨ての駒程度にしか思ってないんだろ? だから消耗が激しくて、捨てやすいようなやつらを持ってきた」
「まあ、普通はそう思うよね。実際1人を除いた他の子もそう思ったみたいだし……」
その1人はそもそも話を聞いてなかったんだろうな……。
「だろうな。なんせあいつらは『ちょっと癖が強い』程度で済ますには異常だ。一緒にやっていけるとは思えない」
「……」
「しかしそれだと、脅されていてもやりたがらないはずだ……最悪、全員が途中で投げ出して逃げるかもな」
「うん、そうかもね」
白々しい……
「とぼけるなよ、神様? どうせそれも対策済みだろ? ……お前、俺にだけ言っていないことがあるだろ?」
「……さすがだねシラカゼ君。期待していた通りだよ」
ヘルトゥナは笑ってそんなことを言ってきた。
「そうだよ、君にだけ伝えてないことがあるんだ」
「それを教えてくれるのか?」
「もちろん。それと同時に君に頼みがあるんだ」
「頼みねえ……」
俺はげんなりとした顔で言う。
「まあまあ……さて、君に頼みたいことっていうのは……」