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或るあるシリーズ

或るコンビニの一生

作者: 林 秀明

会社の昼休み、私は近くのコンビニへと足を運んだ。連日の雪の影響で歩道にはまだ雪が残っている。ぎゅっと踏み込んだ雪に足跡が残り、いつもの歩道が顔を出す。私は帰りも同じ場所を踏むであろうと少しクスっと笑った。


 コンビニの前では雪解け水が上から垂れており、まだ下がぐしゃぐしゃになっていた。コンビニの中へ入るとグレーのマットが轢かれており、所々に泥のついた箇所が見える。なぜか私は以前そこで一生懸命マットの取替をしていた中年の男性の顔を思い出した。

レジ前を通り、パンコーナーへ足を運んだ。最近のパンはいちごだの、チョコだの、タルトだの妙に甘い製品が目立つように思える。ふと横を見ると白髪染めをした老夫婦が二人じっと商品棚を睨んでいた。おそらくどの商品をしようというより、カタカナばかりの商品の意味合いが分からず、悩んでいるといった方が正しい。私は慣れたしぐさで「すいません」と老夫婦の前のホットケーキを手に取った。短い貴重な昼休みは無駄には使えない。パンコーナーを離れ、私は食品コーナーへと向かった。私はいつもそのコーナーの前で佇んでしまう。その選択は「うどん」か「そば」か、「大盛」か「普通」かだ。以前の私はその4つのマトリックスの中で思考が溺れ死んでいたが、かの友人が


「男なら大盛だ。星一徹のようにちゃぶ台を男がひっくり返すのが役目なら、大盛を選択するのが男の役目。『うどん』『そば』はその日のインスピレーションで決めろ」


その言葉を教わってから、ものの30秒以内でこの問題は解決することが出来た。

同じ時間帯の同じコンビニ。レジ員とも顔見知りになり、

「今日は少しお早いんですね」

「そうですか?いつもと変わらないんですけどね」と他愛のない会話の中で会計が終る。

レシートをつい取ってしまい、いつも「しまった!」と思いながらもコンビニのゴミ箱へ捨てる。少しミスをした罪悪感を覚えながら、次はレジ横の箱の中へと入れようと心の中で誓った。


雪の足跡の事をすっかりと忘れた私は会社へ戻り、ケトルのボタンを押し、お湯を沸かす。カップ麺にお湯を入れ、フタを閉める為に割り箸を探す。その時衝撃が走った。

(割り箸がない)

私はコンビニ袋の中を隅なく探す。人生の中でこの瞬間以外にコンビニに袋に集中する事はない事を知っておきながら。結局割り箸がなく、店員さんの入れ忘れだと気付き、少し憤りを感じる。

頭の中でニ択を考えながら…(戻るべきか、他の物で頑張って食べるべきか)

その時会社の後輩が私の顔を覗き込み、人生の中でも重要な助け船をよこす。

「僕割り箸持ってますよ。使ってください」

どんな仕事が出来ない後輩でも、この日はエースになると私は思いながら、

嬉しそうにうどんをすする。

(今度コーヒーをおごってやろう。)


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― 新着の感想 ―
[良い点] とてもよくまとめられていたと思いました。 [一言] とても面白かったです。 一番共感したのは、レシートですかね。僕もよくやります。いらないと言ったり、レジのとこに捨てたらいいだけなのに、…
[良い点] 状況が目に浮かびます。
[良い点] 後輩に救われるオチがいいですね(*^o^*)!
2015/01/31 20:37 退会済み
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