第一話-偽りの勇者-
「勇者リンドよ!エルストローナ帝国
第72第目皇帝ルーノ=エルストローナが
そなたに命じる!
今日から仲間を集めて
暴虐の徒,悪魔たちの首領
魔王ルシファーを討ち取ってくるのだ!」
エルストローナ帝国の王宮の中心にある
とてつもなく広い部屋...王の間にて
その命令は下された。
その王の間には百人を越える兵士たちが
王に忠誠を誓い頭を下げ
真ん中の通路の右側と左側に
ずらりと並んでいた。
その兵士たちの間の通路に
一人気だるそうな顔で
頭をボリボリと掻きながら
皆より高いところにいる皇帝を
見上げている一人の少年がいた。
そうこの者こそ先ほど
王が命令を下した勇者リンドなのである。
まるでダメ人間のような
動作ばかりしているが
実力は周知の事
この世界にいる人間なら...いや悪魔にだって
轟くほどの実力を持っているのだ。
そんなリンドだからきっとさっきから
皇帝の前での数々の無礼な行為を
百を越える兵士たちは許しているのだろう。
すると勇者リンドはようやく
めんどくさそうに口を開いた。
「.....えー、
なにそれ、めんどくさい。
他のやつに頼んだら?
何か報酬でもあるなら別だけど。」
このリンドのあまりにも無礼な物言いに
とうとう怒りを抑えきれなくなった
兵士の一人が叫んだ。
「その物言いは皇帝陛下に無礼であろう!?
今すぐ謝れ!」
きっと他の兵士たちも思っていたことだろう。
しかしこの一言を聞いたリンドは
機嫌を損ねたかのように
下を向きうつむいた。
すると一瞬リンドからとてつもなく暗く
不気味な悪感がした。
いつもの飄々としたリンドからは
考えられないオーラだ。
そのオーラを感じ取った兵士たちは
一瞬驚愕の目線で下げていた頭を
リンドの方へと向け
そしてそのリンドの禍々しいオーラを見ると
兵士たちは再び頭を下げるのだった。
先ほど一人その場の兵士の代弁者
のように叫んだ兵士は
その先ほどまででは考えられなかった
リンドを見て腰を抜かし
「ヒィィ.....」
などと言っている。
リンドのただならぬ様子をみて
ルーノ皇帝はあわてて
リンドに言った。
「勇者リンドよ!
そなたしか魔王ルシファーを倒せるほどの
実力を持った勇者は存在しないのだ!
だからどうか頼む.....
魔王ルシファーを討ち取ってきてはくれぬか?
この通りじゃ.....
報酬にはそなたが望むもの、
地位でも金でも女でも.....
何でも好きなものをやろうっ!!!」
そう言うと皇帝は立ち上がり
リンドに向かって頭を下げた。
兵士たちはまたもや先ほどとは違う意味で
驚愕し、王の方へと目をやった。
そこには兵士たちが今まで目にした
事が無かった光景がたったのだった。
そうあの強気で今まで一度も人に
頭など下げたことのないルーノ皇帝が
頭を下げているのだ。
それだけでルーノ皇帝が
この勇者リンドにどれほど
期待しているのかが分かった。
そして先ほど禍々しいオーラを放っていた
リンドはというと
また始めの飄々とした様子に戻っていて
ルーノ皇帝のその様子を
にこにこした顔で見て言った。
「ルーノ皇帝
そういうことならその命令、
この勇者リンドがお受けいたしましょう。」
それを聞いた皇帝は
パッと頭をあげとても安堵した様子で
「ありがとう!
では頼んだぞ勇者リンドよ!
この国の民を悪魔たちの手から
救いだしてくれ!」
するとリンドは満足したように
皇帝に背を向け王の間を出ていこうと
あるきだした。
そして五歩くらい進んだところで
ニヤリと笑い
皇帝の方へと首を向けた。
そして言った。
「報酬の件、
忘れないでくださいね」
王は笑顔で
「もちろん、勇者リンドよ」
その返事を聞くと
リンドはまた皇帝に背を向け
王の間を出ていくのであった。
そしてその場にいた兵士たちは
下を向いていたので
誰も気づかなかったが
そのあと後ろを振り返り
皇帝に背を向け歩いていたリンドは
笑っていた-.....
まるで.....
悪魔のような顔で
そしてリンドは誰にも聞こえないような
とても小さな声で言った。
「ククッ.....大成功。
あとは俺が演じきるだけだ.....」
そう呟き偽りの勇者リンドは
王の間から出ていった。
この国の人間たちは誰一人として
知らない
この勇者リンドが偽りの勇者だということ
自己の目的のために
勇者を演じているだけの存在だと
さっきのルーノ皇帝の判断が
世界をさらに破滅の道へと誘うことを
そう.....なぜなら
魔王ルシファーの正体は
今の今ルーノ皇帝から魔王討伐命令を
請け負った
勇者のふりをした.....
人間のふりをした悪魔の王
勇者リンド(魔王ルシファー)なのだから―.....
リンドは不敵に微笑んだ
読んでくださりありがとうございます。
つたない文章ですが
これから頑張って更新していこうと思います!
次からも読んでくれると幸いです。
ではではー(^-^)/