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我は風の子  作者: 勝木 青葉
第一話 観察池
7/10

06



 校舎は夕日で茜色に染められていた。

 観察池は校舎のすぐ近くの、林で囲まれた中心にある。校舎は長い歴史の中で何度か建て直しがされたらしいけど、観察池はこの小学校が建てられた時からずっとある物だとか。

「(九十九神、か。)」

 九十九神とは、長い年月を経て古くなったり、長く生きた依り代に、神や霊魂が宿ったものをいう。ただ、知っている人間にとっては神だの、霊魂だのという考えはちょっと違う。きっと観察池に憑いた天魔は長い年月のうちに、自分の世界への天移の仕方を忘れたとかそんな事だろう。

 目の前の観察池には普通ではない存在が腰掛けていた。それは何と表現すれば良いのだろうか。語彙の少ない自分を恨みたくなる。

「(藻の混じったびっちゃびちゃのスライムって感じ………あ、これ正解かも。)」

 怒っているであろうことは何となくだが伝わって来た。

「あの、「おーい!そこに誰か居るのかー?」げっ川の瀬先生!」

 走り寄ってくる人物はほとんど毎日、顔を合わせている人物だ、薄暗くなってきたこの空の下でもすぐに分かる。なんてタイミングだろう。

「おー!何だ千本松か!霧見にプリント届けに行ったんじゃなかったのか?忘れ物でもしたのか?」

「あー…ちょっと観察池が気になって、かな。」

「ああ!先生掃除したからキレイになっただろう!」

「まぁ、えーとその事でなんですけど………」

 視界の端でびっちゃびちゃのスライムがビシャっと地面に崩れては形を作り、また崩れては形を作りと近づいてくる。

「(ひぃぃいいいいい)あっあの!先生が掃除したの先々週の水曜日でしたよね??その後、えーっと、犬!犬の散歩で学校に寄ったんですけど、その時目を離している隙に犬が観察池にオシッコしちゃって!すみません!!」

 勢いまかせで喋って謝って頭下げたけど、落ち着いて考えると…

「(犬が観察池にオシッコって、無茶だよなー)」

「……そうだったのか。よし!分かった。確かにワンちゃんから目を離してそういう事が起きてしまったのは良くないな。」

「はぃ…」

「だが!正直にその事を先生に言えたのはとても勇気のある事だ!明日の放課後、先生と一緒に観察池の掃除をやってくれるか?」

「えっ!あっはい!よろしくお願いします!」



 何だかとても呆気なかった。半ば観察池に脅された形で適当に話を作ってみれば、先生はあっさりと許してくれた。観察池は観察池で、そんな先生に気を良くしたのか上機嫌で地面に崩れ、もう一度形を形成することはなかった。

「(気疲れとはこのことだ。)」

「千本松。今日はもう遅いから家まで送って行くぞ。」

「えっ?あ、いえ大丈夫です。私のこと家まで送ってたら先生帰るの遅くなっちゃいますし。一人で帰れます。」

「いいから乗って行きなさい。こんな暗い中女の子が一人で歩いていたら危ないだろ。」

「はい。」

 負けた。先生が来た時は「何てタイミングで来やがるんだ!」とさえ思ったけれど、結果的に先生のお陰でかなり丸くおさまったし、助けられてしまった。


「ありがとうございます。」


 家に帰れば案の定、心配して待っていたであろう母さんに、先生が止めに入るほど怒られた。一姉や双葉兄ちゃんには絞め殺されるんじゃないかと思うほど抱きしめられ、じいじとばあばにはこっちが泣きそうになるほど優しくされた。

 母さんが先生に話を聞いて、だいたいの事情を察してくれたのか、ゲンコツ一発でそれ以上はお咎め無しになったが、母さんと双葉兄ちゃんは戦争でも始まるんじゃないかと思う程の口喧嘩になっていた。

 風呂場で今日あった事を母に話せば「安全な奴ばかりじゃないんだよ!」と乳で溺れる位抱きしめられた。


「木葉、入るよ。」

「うん。」

「今日、凄く心配したんだよ。何かある時はお姉ちゃんに言うって約束でしょ?」

「ごめんなさい。今日はちょっと急だったんだ…次からはちゃんと言うよ。ありがとう一姉。」

  一姉は昔っから私の事を気にかけてくれ「行動するより先に私に報告しなさい!」と言いつけられていた。有難い話ではあるけど、やはり少々過保護にも思えて苦笑いが漏れた。

「本当に分かってる?」

 一姉にはバレバレみたいだ。

「過保護だなーって思って。大丈夫だよ。私だって来年には中学生だし…」

「中学生でも高校生でも大学生でも社会人でも、私は木葉の事が心配なのっ!」

「(うっ!押しの強い美人ってのは厄介だ…)」

 そんな姉の様子に怯んでいると、ポンっと頭に手を置かれた。

「?」

「そーゆー訳で今日は一緒に寝るから。」

「(今日"は"じゃなくて今日"も"じゃないかなー。)はいはい。」

「はいは一回でしょー」

 ゴソゴソと、既に私が入っている布団へと入ってくる一姉。

「待て待て。一姉、いつもはちゃんと自分の布団持ってくるじゃん!」

「部屋戻って布団とってくるの面倒なんだもん。良いでしょ、たまには女同士。」

「……まぁ、いっか。」









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