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我は風の子  作者: 勝木 青葉
第一話 観察池
5/10

04

 月曜日。普段通りに登校した学校は、普段とは少し違っていた。

「(アイツ、どこだろう?)」

 朝礼で黒板の前に立つ川の瀬先生の話は半分も頭に入ってこない。それもこれも、最近先生にベッタリだった"観察池"が今日は少しも顔を見せず、偶然なのか、今まで皆勤だった学校人気No.1のイケメン君・霧見真吾朗きりみ まごろうが今日に限って体調不良で休んでいる所為だ。

「(厄介ごとは御免だよー)」

 教室を見渡すと、クラスメイトは皆彼の心配をしている様子だった。


 放課後まで霧見くんのことが頭から離れなかった。その所為かいつも以上に川の瀬先生には注意されるし、なんだかもう……

「(後々大事になってもなんだし、帰りに霧見くんの家に寄ってみよう。先生に住所教えてもらえるかな…何か口実を考えなきゃ。)」


 先生に「霧見くんにプリント届けます」と言うと、何やら嬉しそうにあっさり了承してくれた。だけど、思わぬオマケも付いて来てしまった。

「(私って奴は…)はぁ」

「まーくん大丈夫かなぁ?桃香心配だなぁ。桃香ね!よくまーくんと掃除の班一緒になったりー、ペアになるとき一緒だったりー♡ こーゆーのなんてゆーのかなぁ?」

 チラッと横目で彼女を見る。あの時、先生の背後にいた桂木桃香の存在に注意すべきだった。

「……運命、とか?」

「そう!運命的だなぁって桃香思ってたんだぁ」

「(…それは桂木と霧見で名前の順が近いからだと思うよ桃香ちゃん)」

「だからー!もし、木葉ちゃんがまーくんのこと好きだったら、その時はゴメンね!」

 ペロッと舌を出す仕草がまたなんとも…

「って!えっ?何が?」

「だーかーらー!木葉ちゃんと私、ライバルってこと!」

 桂木さんの言葉に思わず開いた口が塞がらなかった。何が何だかあまりにも突飛な内容に思考が付いていかない。

「えっ?何でそうなるの?私、別に霧見くんのこと好きじゃないよ!(おいおい、川の瀬先生はどうしたんだ!?)」

「本当ー?だって木葉ちゃんいっつも無気力なのに、自分からまーくんにプリント届けますって言うんだもん。てっきりそうなのかなーって思っちゃった!」

「(無気力って…)あ、ああそっかぁそうだよね。前に霧見くんにノート見せてもらったことあったんだけど、その時のお礼、まだしてなかったから。」

 かなり適当な言い訳だったけど、別に全てが嘘ではないし。桂木さんも納得してくれている様だった。

「霧見くんの家、たぶんこの辺なんだよなぁ。」

「先生どの辺りって言ってたの?」

「千本桜の近くだって」

「ええー本当!来年はまーくんのお家でお花見しちゃおっかなぁ♡」

「来年はもう卒業してるよって、あっあった……これは…大きい…」

「うわぁああああお城みたーい!私ここに住む!」

 霧見くんの家は、思っていたよりもかなり大きかった。それに、家や庭は西洋風に統一され、庭には美しく刈り揃えられた芝生と外国製と思われるテーブルセット、一目でお金持ちなんだと感じる外観。

「(スポーツ万能でイケメンで秀才でお金持ちって…)とりあえずチャイム」

 言うと同時か、インターホンを見つけた桂木さんが我先にとそれを押した。


 ピンポーン


 誰もいない訳がないだろうけど、反応が何も無いことで二人は顔を見合わせた。そして、少しの沈黙の後…

「はい、霧見です。」

キレイな女性の声だった。

「あ、あの!まーくんと同じクラスの桂木桃香っていいます!まーくんの事が心配で、あと、今日もらったプリント届けに来ました!クラスの千本松さんも来てます!」

「(私はついでか…)」

「ちょっと待っててくれる」

「「はい!」」

 そう言ってすぐに、玄関から一人の女性が出てきた。彼女は目元や口元が霧見くんとそっくりで、霧見くんのお母さんなんだろうな、と一目で分かった。

「「こんにちは!」」

「こんにちは。二人ともわざわざ届けに来てくれたのね。ありがとう。たいした物はないけど上がって行って?お茶くらい出すわ」

「いえそんな!プリントを届けに来ただけで「それでしたら、少しだけお邪魔します。」…」

 その時若干、桂木さんの口元がヒクついていたけど気にしない。せっかくアイツを調べに来たのに目前で帰る訳にはいかない。

 霧見宅の中はやはり豪華で、想像以上だったのがシャンデリアの存在だ。

「(あれ、どうやって掃除するんだろう)」

「はい、どうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

「すごいですねーシャンデリア!初めて見たー!」

 目の前には美しく透き通った赤褐色の紅茶と、手作り感のあるクッキーが並べられた。

「私、紅茶はアールグレイが好きなの。」

「私もです」

「ふふ、ならよかった。」

「……あの、霧見くん…真吾郎くんは大丈夫なんですか?」

 その質問で、さっきまでにこやかだったお母さんの顔に影がかかった。

「真吾ちゃんね、なんだか病院に行っても特に問題ないっていわれて、だから二人の事家にあげたんだけど、悪い所がないって言われても体調は一向に回復しないし、看病で私も一日中眠れなくなっちゃって……ごめんね、こんな事真吾ちゃんのお友達に言う事でもないんだけど…」

「真吾郎くんに会っても良いですか?」

「折角来てもらったけど、あの子話せるかも分からないから。」

「そんなに悪いんですか?」

 お母さんは小さく頷いた。

「本当に少しだけで良いんで、お願いします。」

「木葉ちゃん、あんまり無理言っちゃダメだよー!ねっお母さん?」

 少し黙って欲しい。

「声を掛けるだけでも少しは元気になるかもしれないですし。」

「……少しだけね。」

 お母さんは困った様に笑った。その顔はやはり、疲れと悲しさが見えて…

「(さっさと解決しなきゃ)」






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