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我は風の子  作者: 勝木 青葉
第一話 観察池
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09




「木葉ちゃん!」

 放課後、呼び止めてきたのは一年生の頃から6年間同じクラスの床出ゆかいで 舞子まいこちゃん。

「何?」

「あのね、これから伊吹くん達と霧見くんのお家で勉強会しようってことになったんだけど、木葉ちゃんは行く?」

「(霧見くんの家か…)ううん。今日は良いや。誘ってくれてありがとう。」

「そっか、じゃあまた今度ね!ばいばい!」

「うん、またね。」

 パタパタと駆けてゆく後ろ姿になんとなくため息がこぼれた。

「(幸せが逃げちゃう…)」


 私は霧見くんに言った通り、観察池の前に居た。来ないとは分かっていても、「来て。」と言ってしまった以上、立ち寄りもせずに帰るのは気が引けた。そこには既に先客もとい住人がいた。私の存在に気付くと自分の隣をビチャビチャと叩いて、あれは多分「隣に座れ」と言っているのだろう。濡れたそこには座りたくないので、少し離れて私は腰をおろした。

「あ………あり…がとう」

「お礼を言われるようなことはしていませんよ。でも、どう致しまして。」

「………う…れし…い…嬉しい…」

「……綺麗に、なりましたね。」

 その後、観察池は「ふふ」と小さく笑って、池の中へと崩れて消えた。空は大分陽が傾いて、校舎の影が東へと長く伸びていた。

「(もう、帰ろう。)」

 立ち上がってズボンについた砂をパッパと払う。

 少し、期待していたのかもしれない。自分からは歩み寄ろうとしなかった他人から、何か変化をもたらしてもらえるのかもしれない。それはあまりにも甘い考えなのかも…




「千本松!」


「来るの遅くなってごめん!伊吹達が中々離してくれなくてさ!」

「来ないと思った。床出さんが伊吹くん達と霧見くんの家で勉強会するって言ってたから。」

 少々責めるような口調で言ってみるものの、きっと顔が笑っていたからなんの意味も無かっただろう。

「あ、いや、それは伊吹が勝手に床出達誘っただけで、俺は用事あるって言ったんだけど……とにかく!俺は千本松の話を聞きに来たんだ!」

「そっか、ふぅ…まぁとりあえず座りませんか?」

 私はさっきアイツがそうした様に、自分の隣をポンポンと叩いた。意図を汲んでくれた霧見くんは、少し迷った後一人分のスペースを空けて隣に座った。

「まぁ、何から話せばいいのやら。はぁ…」

 言って、まるで自分が物知り婆さんの様に思えて苦笑いがこぼれた。そんな私を霧見くんは困った様に見ている。

「今回、霧見くんを苦しめていたのは観察池なんだよ。」

 率直に結論から伝えた。それでも霧見くんは茶化す事なく黙って話を聞いている。

「(信じて無いんだろうなぁ)まぁ……信じなくても「はぁ!!?」……」

 隣を見れば彼の目はこれでもかと言う程に見開かれていた。

「観察池って!この観察池!?」

 コクリと一つ頷く。

「まって、分からないんだけど、どーゆー事?」

「それを今から説明するつもり………まだ、聞く気があれば、なんだけど。」

 彼の目をチラッと見れば、彼は何を言うでもなくハッキリと頷いた。

「……まず、この世界には私達とそれ以外の者達がいるの。信じられない様なことだけどね。」

 自嘲気味に笑った。

「私達ってゆうのは、人間や他の動物達、植物、この世界にいる者達のこと。それ以外ってゆうのは………世界中で色々な呼ばれ方をされている、悪魔や天使、妖怪や時には神様だったり、視える人はそれを"天魔"と呼んでいる。」

「てんま?」

「そう。昔は空から来ると思われていたんだって。だから"天魔"。詳しいことは分からないけど、彼らはこの世界で良くも悪くも人間や色々なものに干渉してきている。タチの悪い奴もいれば、知恵を与えてくれる奴もいて、"天魔"のことが視える人もいれば、見えない人もいる…まぁ視えない人が殆どなんだけどね。驚いた?」

 もう、霧見くんの顔を見ることは出来なかった。それは確かな恐怖だ。「話さない方が良かったのかもしれない。」その思考が頭の中を埋め尽くしてゆく。

「観察池って…俺があんなことしたから怒ったのか?」

 バッと霧見くんを見ると、しっかりと目が合った。彼の言葉はまるで「信じている」様に聞こえて、どっちであるのかは彼の目を見れば良く分かる。

「俺にはソイツ視えないけど、ちゃんと謝った方がいいよな?」

「………うん。」

 そう言うと霧見くんは立ち上がって観察池に向き直り、先程私にしたように深々と頭を下げて謝った。

「あの、この間はすみませんでした!もう二度とあんなことしないし、伊吹達にもやらないように言っておきます!ごめんなさい!」

 霧見くんには視えていないんだろうけど、彼のすぐ目の前ではアイツも深々と頭を下げていた。パシャンっとゆう音で霧見くんが固く瞑っていた目を開けると、彼の足下には観察池を小さく飾っていたヒツジグサがあった。

「許してくれるってことだと思うよ。」

 そう言うと彼は嬉しそうに笑って、そっとヒツジグサを拾い上げた。






木葉は周りへの接し方の所為で人があまり寄り付かないけど、実は意外と好かれてるのかも。



霧見くんと桂木さんのプロフィールを登場人物http://ncode.syosetu.com/n8205ce/1/に足しておきます。



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