エピローグ -Part.2-
茶緑色に染まったボールが足に当たる感触で目が覚めた。続いて、真正面から走り寄る子供の姿が目に飛び込んできた。僕はボールを手に取るとおもむろに立ち上がり、緩い放物線を描くイメージでそれを放った。思いの外遠くまで飛んでしまったことで子供を逆向きに走らせる羽目になったが、それが僕を先へ進ませるまたとない契機となった。三十メートルほど直進して立ち止まると、そこは少し前に子供たちが線香花火をしていた場所に他ならなかった。足元には、ピンクと灰色に染められた残骸が無造作に放置されていた。その瞬間、頭の中を閃光が走った。と同時に、数時間前に見えていたおぼろげな一本の線が、面となって急激な広がりを見せ始めた。それはまさに、点景という記憶の断片が無限の光景に変わった瞬間だった。
そうして時空を超えて結びついた河原のカフェは、ただ草の匂いをふんだんに含んだ柔らかい風に吹かれていた。夏の暑さも冬の寒さも感じなかった。僕はそこで一人カルピスウォーターを飲み、何本も何本も繰り返し線香花火をしていた。周囲には誰もいなかった。かつて心を通わせ合った四人の姿も、それどころかさっきまでいたはずの親子連れさえいなかった。遠くから聞こえるはずの車の走行音を始めとする、ありとあらゆる生活音も消えていた。
不思議なことに、線香花火は最後まで続かなかった。黄昏色の玉として結実する前に終わってしまった。何度やっても結果は同じだった。目から涙が溢れ出てくるにつれて、やるせない虚無感が体全体を覆い尽くしていった。そう、僕は絶望的に、そして宿命的に孤独だった。どれだけ泣き叫んで助けを求めても、手を差し伸べてくれる人間の存在はなかった。二十一世紀が始まったばかりの世界にあって、僕の周りだけが世紀末のように荒んでいた。
でも、僕にはわかっていた。この孤独から脱却するためには、とにかく前に進まなければいけないということを。いつまでも過去の思い出に捉われ続けてはいけないということを。それがやるせなくも懐かしい、セピア色に染められたノスタルジックな世界であったとしても、一握りの、一瞬の勇気を振り絞ってそこから抜け出さなければいけないのだ。過去という陽だまりから、北風が吹きすさぶ未来へ歩き出さなければならないのだ。たとえ、下りのエスカレーターをひたすら上り続けるような苦しみに打ちひしがれても、そうすることで僕は新たな人間との新たな世界を発見し、さらには新たな人間となったかつての四人とも再会できるのだ。
僕にとっての河原はこれまでも、そしてこれからも、様々な人との出会いの場、お互いの貴重な時間を使って心の交流を図るカフェとして存在し続けるのだ。