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素直じゃない私の可愛い友達。

作者: 花澤文化

 高校生になるということは結構大きなことだと思っていた。女子高生と女子中学生には大きな差があると思いこんでいた。結果的に何も変わらないのだ。

 むしろ授業や部活が大変になり、自分の自由時間は消えた。昔、私はこれに憧れていたのか、と辟易している。今では中学生に戻りたいぐらいだ。

 そんな私も高校2年生となり、入学から1年以上が経つことになる。慣れるか慣れないかのちょうど中間ぐらいの時期だ。そんな時期に私は今度、自分自身に辟易としていた。私の癖に。

 嘘。

 それが私の癖だった。

 もちろんすごく悪い嘘なんか吐かない。強がって思っていることと逆のことを言ってしまうのだ。このことが可愛くツンデレ、なんて言われるようになったのは正直いいことなのかどうかわからない。

 嘘は嘘だ。自分の気持ちに対する嘘。それを可愛く表現しようだなんて思わない。私はこれを受け止めていく。受け止めていつかなおしてやる。

 そう、思っていた矢先のことだった。

 私の嘘を、気持ちの嘘をなおしてくれるような存在が現れたのは。確か初めて会ったのは中学2年生。でも特に絡んだこともなく、話したこともないように思えるのだが・・・。

 相手はまるで親友かのように話しかけてきた。高校2年生の時のクラス替えで初めて一緒になった彼女はまるで優しい光のように私に介入してきた。

 そんな天然ぽわぽわ女子高生、五百蔵百々いおろいももと嘘吐きな私、月見里海帆やまなしみほの何のことはないただの日常の物語である。





 先ほど私はほぼ初対面なのに話しかけてきた、と言ってはいたがそれは4月の話。季節は夏。今は7月であり、五百蔵いおろいとは大分仲良くなっていた。

 仲良くなるというかなんかほっとけないのだ。天然、危うい、心配、彼女に対してなら誰でもお母さんのようになってしまう。でもそんな彼女の前では私は嘘を吐けない。

 嘘を吐くけれど五百蔵にはそれがまったく意味をなさない。むしろ私の本音を引き出そうとしてくる。

「海帆ちゃん、海帆ちゃん」

 私が休み時間の間に次の授業の予習をしようと教科書を開いていると五百蔵が話しかけてきた。

「どしたの、いおろい」

 ちなみに五百蔵は自分の苗字であるこの漢字を嫌っている。なんか可愛くないというのが理由らしい。最近の女子高生っぽくはある理由だ。ただ音は可愛いらしく、テストに『いおろい百々』と書いて先生に注意されていた。

 だからせめて私だけは音だけで呼んでやろう。そもそも文字にしないと分からない違いだけど。

 さらにちなみに、私の苗字も割と珍しく、月見里と書いてやまなしと読む。私はこの苗字の漢字も音も嫌ってはいないのだが、いおろいは私を海帆と下の名前で呼ぶ。

 私はいつ、百々と呼べるのだろうか。でも3カ月経って名前で呼ぶって割とはやいんじゃないかなぁ。私は1年とか経たないと呼べない。そして1年経つと呼び方が固定されて変えれない、その繰り返し。

「今日、駅前に移動型のドーナツ屋が来てるんだってー。私たちも行かない?」

 五百蔵は甘いものが好きだ。それと流行も好きだ。ただ、好きなだけでそれについていけているとは思えないが、そういうのに敏感なのだ。

 ただ、天然なのでちょっと違った感じになる。だから実質綺麗にみんなと同じようにできるのは甘いもの好きぐらいだとまわりは認識している。それが可愛いと言われているのもまた私は知っていた。

 長い綺麗な髪の毛に可愛らしい守ってあげたくなる顔。少し低めの背丈に天然、巨乳。それが五百蔵のスペック。見事なまでに完璧。男子人気が高いのもうなずける。

 どれも私とは大違いだ。髪の毛は短いし、胸も小さい。そんな私でも五百蔵を見て不快感は抱かない。嫉妬さえもおきない。それは五百蔵の性格のせいかもしれない。こんなに違いを見せつけられているのに、私は五百蔵と普通に付き合っていける。もちろん、友達として。

「あー、私今日部活あるかも・・・」

「そうなの?んー・・・海帆ちゃん行けないのかー・・・じゃあ他の人に聞いてみるね」

「え」

 他の人に聞くの?

 ちなみに私の部活は文芸部だ。別にいついってもいいし、休んでもいい気軽な部活ではあるのだが、思わずまた変な癖、嘘がでてしまった。なんか喜んでいく!って飛びついたらバカみたいじゃん。

 でも五百蔵は他の人と違って私の本音を引き出す。引き出される。

 だから私は知らないうちに五百蔵の制服の上に来ているカーディガンの裾をつかんでいた。

「わ、私も行く」

「部活はいいの?」

「うん」

「ありがとう、海帆ちゃん」

 そうやって五百蔵は綺麗に笑う。

「じゃあ2人でいこっか。海帆ちゃん可愛いし」

「からかうのはやめてよ」

 私は可愛くなんかない。可愛いのは五百蔵、お前だ。

 部活はまた明日にでもすればいい。それぐらい私の中で五百蔵の優先度が高かった。いや、部活の優先度が低いだけかもしれないけど。





「海帆ちゃん、いこ」

「うん」

 放課後になり、帰宅の準備を整えてから五百蔵と一緒にドーナツ屋へと行こうとする。するとそれを見たのか、女子バドミントン部である、九香織いちじくかおりが話しかけてきた。

「おー、五百蔵に月見里。また一緒にいるんだね」

「うん、私たち仲良しだからね、海帆ちゃん」

「わ、私は別に・・・」

「ほんと、付き合っちゃうんじゃないの、そのうち」

「そ、そそそそんなわけないだろう!」

「えー、そんな全力で否定しなくてもいいのに・・・」

「あ、違うんだ、いおろい。こう、性別的に難しいというだけで嫌いというわけでは・・・」

 というかかき乱すな、九。ちなみにこいつも珍しい苗字ではある。九と書いていちじくと読む。だからといってどういうわけでもないがな。

「まぁ、いってらー」

「ほいほーい、じゃ、いこっか海帆ちゃん」

「ああ・・・」

 なんとなくまだ納得いかない部分があるも、私は五百蔵についていくことにした。

 ドーナツ屋までは学校から近い。歩いて15分の距離だ。自転車で行けばもっと近いんだが、生憎、自転車登校はしていない。家に一度帰るのは論外なので、こうして歩いている。

「あのね、すごいおいしいドーナツらしいんだよ、そこの」

「ふーん・・・」

 あまり甘いものに興味のないような風貌をしていると言われたことがある。スルメとか好きそうだよねーっておい。確かに好きだが、普通に傷つく。

 だからこそ表だって私は甘いものが好きだとは言わない。意外と思われたくないし。

「あれ?海帆ちゃんって甘いもの嫌いだっけ?」

「・・・・・・」

 でもこいつに対しては違う。なぜだか私の本音が引き出される。そんな自分を恥ずかしくも思うけれど、それと同時に嬉しくも思う。私はこいつに心を開いているのだ。

「いや、嫌いじゃない・・・かも」

 完全に素直になりきれないところもまた、私の悪いところだ。

「へー、そうなんだ。きゅうちゃんがね、なんかあいつ甘いもの好きそうじゃないけど、絶対好きだから。あいつバカだからそれを伝えきれてないだけだからって言ってたの本当だったんだ」

「あいつ・・・」

 きゅうちゃんとは先ほどの九とかいていちじく読むあいつのことだ。余計なことばかり言いやがって。

「だから誘ってみたところもあるんだよね。私まだあんまり海帆ちゃんのこと知らないし」

「そう・・・なんだ。うん、私もいおろいのこともっと知りたい」

「え、ほんと?じゃあねー、体を洗うときは足をまず先に洗うタイプなんだ。それと、好きな食べ物はハンバーグと、お菓子でしょ、あと・・・」

「いや、いますぐじゃなくても・・・」

 今からゆっくり確実に知っていきたいという意味だったのだが、五百蔵にゆっくりという文字はないらしい。私はその様子に思わず微笑んでしまう。

 やっぱり五百蔵は可愛い。私なんかよりもずっとずっと比べ物にならないぐらい可愛い。

「あれ?どうしたの?」

「ううん、もっと聞かせて」

 唯一素直になれる優しい友達。私は今日も安心して本音を言う。いつか必ずきちんと私の本当の気持ちをみんなに伝えることができるように。

なんのこともない日常です。ただただひたすらに日常。なんか最近殺伐としたものを書くことが多かったので。


百合っぽいですが百合じゃないです。たぶん。そんなギリギリをいく作品。短編ですが、また短編としてか長編としてかは分かりませんが投稿するかもしれません。


では、また別の作品で。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み終わったあと、すごいほんわかした気持ちになれました………。 [一言] 「友達」っていいなぁ、としみじみと感じました。  次回作も期待しています。頑張ってください!!
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