前進~1~
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オルオンとは、商業を中心にして発展していった、リバルダイト内でも有数の大都市という設定だ。
様々な都市の中心部にあたるとされ、販売店などでは他の都市から買い付けられた武器や防具、アイテムなどが並ぶ。しかし、一番最初の都市ということでやはり買える武器や防具はそれなりの物が多い。
NPCが経営している武具屋に足を踏み入れると、そこには様々な種類の武器や防具、魔道書や装備スキルのデータが陳列されていた。
俺はプレイ時に配布されたゲーム内共通通貨――PDでは《クオン》という単位で取引される――を使い、回復用アイテムのポーションと武器である片刃直刀を購入した。
魔法なんて使えるのか――と思ったが、ステータスの欄に精神力と書かれているのを思い出す。恐らくそれが魔法の攻撃力に影響するものなのだろう。勇気に詳しく聞いてから購入をしようと思い、魔道書には手を付けず,見るだけに留める。スキルに関しても同じことが言えるので一時保留だ。
武器に関しては、とりあえず店にあった武器の中で、一番扱いやすそうなものを選択した。なのでしばらくはこのタイプの剣を使うことになるだろう。武器には銃や槍、弓などもあったが、慣れるまでは他の武器に乗り換えない方がいいはず。経済的にも新しい武器をすぐに買うというのはやめておいた方がいいだろうし、変なものを選んで他のプレイヤーから浮いてしまったら大変だ。
店内では鎧のような物も売られていたが、俺には剣と合わせて鎧を買うクオンはなかった。少し名残惜しいが、また今度の機会にしておこう。
「さて……ん?」
買い物を済ませ市内を散策していると、不意にピピピ、という携帯電話の着信音のようなサウンドが響いた。雑貨屋の前でボーっと店内を眺めている所だったので、思わず小さく声を上げてしまう。驚きのあまり辺りを見回すが、俺以外のプレイヤーにこのサウンドは聞こえてないらしく、歩きながら他のプレイヤーと談笑していた。
何が起こったのかと思っていると、すぐさま俺の胸の高さにインフォメーションボードが表示され、中心部分に便箋のマークが点滅した。どうやら誰かからメッセージが入るとこのように知らせてくれるらしい。俺だけにサウンドが聞こえたのはその所為だろう。便箋の部分を指先で押し、内容を確認する。するとそこには――
【From:ユーキ
題名:無題
本文:もう始めてるよな? 時計塔で落ち合おう】
恐らく勇気からであろうメールだった。どうやら個人情報を登録したときの携帯のアドレスは、こちらにも適用されるようだ。内容は短かったが、どうやら合流しようということらしい。こちらもそれには賛成なので隅にある返信ボタンを押し、その旨を伝えると今度は了解、とだけ返ってきた。俺は時計塔に向かうために東の方角へと歩みを進める。
時計塔はオルオンの東側にあり、その高さは都市内で一番の高さを誇る。オルオンのどこにいても絶対に見えることから、別名《アブソリュート・ビュー》とも呼ばれている。ちなみにβプレイヤー界隈ではアブで通じるそうだ。勇気はそこで俺と落ち合うつもりらしい。
リアル時間換算で五分ほどで、俺は時計塔の真下に到着した。今の所勇気のような人影は見当たらない。けれど、俺らと同じようにここを目印にしている人も何人かいて、塔の周りは案外賑わっていた。目に付きやすい所で待つこと数分、勇気がやってきた。勇気は俺のようにコートは着ておらず、他のプレイヤーよりは幾分かマシな防具に身を包んでいる。どうやら顔の性質も変更していないようだ。さっきの、部屋にいたときの勇気のままだった
「よう、リュウ! そのコート、中々キマってんじゃねぇか!」
勇気は俺を見つけるや否や、その特徴的な笑顔を引っさげて駆け寄ってきた。しかし、皮肉にも聞こえるその一言は俺に一つの疑問を感じさせた。
「……ユーキ。その装備って確か、結構高くなかったか?」
勇気が今装備している防具は俺が武具屋で見たものと同じなのだが、それは最初に配布されるクオンの量を少し超えて販売されていた。なので、俺は防具を買うことは諦め、まずは戦う為に片刃直刀を購入したのだ。どうやっても買えるわけが無いと不思議に思っていると、そんな俺の疑問を察してくれたのか勇気はこう言った。
「β版からやっているプレイヤーはな、上限ありでそのプレイ時のクオンを引き継ぐことが出来るんだ。まぁ、ちょっとしたアドバンテージだな。つっても、初期クオンの二倍になるように上限が設定されているから、買えるアイテムはそんなにねーけどよ」
初期クオンの二倍というと、俺の片刃直刀が三個は買える計算だ。それほどあればポーションにはしばらく困らないだろう。初期より武具も良いものが揃えられるし、このアドバンテージは相当大きいのではないのだろうか。俺が少し羨ましそうな視線を送ると、勇気は何も感じていないのか別の話題を振ってきた。
「そーいやお前、《エイン・クオリティ》は何になった? 俺の予想だとお前は《ブラッドストーン》だと――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。えっと、それって確か……」
「うん? 最初に受付で言われなかったか?」
勇気の言葉で俺は受付での出来事を思い出す。確か、あの時は腕輪に埋め込まれた石が、自分のタイプだと言っていた。勇気が言っているのは恐らくそのことだろう。俺は自分のウィンドウを出し、ステータス欄を確認する。するとそこには俺の名前の横にカタカナで、《ビリジアン・メテオ》と刻まれていた。これが俺のタイプのようだ。そのことを勇気に伝えてみると――
「なるほど。エインが《メテオライト》で、クオリティは《ビリジアン》か……うっわー、マジかよ」
「な、何だ? そのエインとか、クオリティって言うのは?」
聞きなれない単語に思わず首を傾げてしまう。そんな様子を察してくれたのか、
「説明聞かなかったのか? まぁ、いいか」
勇気は面倒な説明も特に気にした様子はなく、一定のトーンで喋りだした。
この世界に来て質問を受け、その回答によって自分のタイプが変わる。このタイプのことを《エイン・クオリティ》というらしい。
プレイヤーのエイン(石の種類)は全部で七種類あり、最初に行われる質問の回答によって機械が自動選出してくれるもので、クオリティ(石の色)はそのエインの特徴的な性質を表わしているそうだ。俺はその中でも珍しい部類の《メテオライト》に当てはまるのだそうだ。
《メテオライト》は全エイン中で、ある特定のパラメータだけが著しく上昇していく。しかも、上昇する能力はそのプレイヤーに合ったものになるとされ、通常のプレイヤーとは違ってトリッキー且つ強力な一撃を誇るといわれている。それと、他のタイプにも言えることだが、エインごとのクオリティによっても他に上昇するパラメータに違いが出るそうだ。
俺の《ビリジアン》の場合、ラック・クリティカル率が上昇するそうだ。ラックはモンスターのアイテムドロップ率に影響し、クリティカル率については攻撃時に一定の割合で与えるダメージ量が増加するというものだ。目に見えないステータスなので、効果はイマイチ判らないとされているが。
「《メテオライト》には固有のスキルが準備されていて――しかも、個人で設定されているものが違うらしいぞ」
スキルは基本的に二種類で構成されており、ステータスが向上するメータスキルと、技そのものを繰り出すために必要なバトルスキルの二つで成り立っている。スキルを入手するには、専用の販売店で購入するか、モンスターを倒した時にドロップするものを装備する必要がある。他にも誰かに譲ってもらうという方法があるが、基本的にこれは行われることはない。自分が強化したスキルを態々人に渡す人などいないからだ。
「俺が知ってる《メテオライト》のメータスキルは《トリノスケール》位だけど……他に何かあるか?」
「えっと……メータスキルの欄に《トリノスケール》があるな。後は、バトルスキルに《アブレーション》があるぞ」
スキル欄には十個の枠があり、まだ設定していない所為か最初に登録された二つ以外には空きがあった。《トリノスケール》に指先を這わせると、別のポップが出現し、細かいスキルの設定を確認することが出来た。恐らく、スキル以外でも同じことが出来るんだろう。後でアイテムでも試してみよう。
「《アブレーション》か。……知らないな。ま、使ってみりゃわかるか。んじゃ、早速行くか」
「は? 行くって……何処に?」
ユーキは何を今更、といった風な表情で俺を見た。呆れ半分でこう言う。
「何処って……領域だよ、領域。ほら、早くしないと人で埋め尽くされるぞ」
「えっ? あ、ちょ、ちょっと!?」
勇気は俺の腕をガッシリと掴み、グイグイと引っ張っていく。何をされるか分からず、思わず手足をバタバタさせるが、ユーキは身体を軽く反らして巧いことかわしていく。抵抗しながらも到着したその場所は、東側にあるオルオンの門だった。
「さて、ここから始まるが、偉大なるリバルダイトの大地だ!」
勇気が指した先には、大きく口を開けたオルオンの東門があった。正確に言うと勇気が指したのはその奥、門を超えて見える景色はどこか現実的で、それでいながら幻想的なファンタジーを感じさせる石畳で埋まった街道だった。
「お、おぉ……」
「領域名《始まり街道》……ここが、一番最初に俺たちが攻略する領域だ」
勇気はさっきとは打って変わって落ち着いた口調で話し始める。
眼前に広がる街道は、俺たち二人の門出を今か今かと待ち受けていた。