導入~3~
説明的文章も難しいですね。この世の全ての本がある図書館が欲しいなぁ……そうすれば、もっといい文章が書けるのに。
誤字脱字、その他感想や「ここよくわかんないんだけど?」などの意見がありましたらよろしくお願いします。
「――PD? 何それ?」
「宗眞は黙ってなさい」
「何だって!?」
俺は勇気から貰う予定のPDについて話すことにした。凛なら俺よりVR歴は長いし、色々と教えてもらえるだろう、と思っていたら、早速喧嘩勃発の危機だ。
「まぁまぁ、そう怒るなよ。んで――やっぱ凛は知ってるのか?」
宗眞を宥めながら、凛に話を聞く。これでは話が進まないし、ここは宗眞に自分でブレーキをかけてもらって、耐えてもらおう。悪いとは思うが、やむおえない。
凛は宗眞が黙ったのを確認すると、会話の続きを喋り始めた。
「勿論。もう予約だってしてるし、事前に情報だってゲットしてるわよ」
凛が誇らしく胸を張った。しかし、最近急激に成長してきた胸の所為でどうにも目のやり場に困ってしまう。いけない、兄としてこの感情はどこかに放棄しなければ。
凛は、兄の贔屓目なしで美少女の部類に入る方だろうと思う。
手足は母に似たのかスラッと長く、今もTシャツにデニムといったラフな格好なのだが、それだけでも十分魅力を引き出していると言えるだろう。髪はショートで纏めており、肩より下にはいかない様に配慮をしている。髪色は俺の輝くような茶髪(染められたと間違えられるほど)とは違い、深みのあるブラックだ。
「兄さんもやるの? 興味なさそうにしてたのに」
そんな俺のいやらしい考えを知りもしないで、凛は会話をさらに続ける。ダメだ――兄としてこれはダメすぎる。腐った考えを頭から叩き出すために、頭を左右に振っていると、
「……どこ見てるの?」
「ああ、いやどこも。うん」
凛は俺の邪な考えを見透かしたのか、ジットリとしたような目つきでこちらを見てきた。まさか兄が自分に対してこんな嫌らしい、もとい、こんな程度の低いことを考えているとは思うまい。
「あ、そういえばどうやって買うつもりなの? もう予約も終わっちゃってるし、今から買うには無理があるんじゃ……」
「あぁ、それなら勇気から貰えることになってるな。なんでも、親にゲーム会社のコネがあるんだとか」
不意に凛が話題を変えてくれたので、安心してその話題に乗る。勇気にゲーム会社のコネがあると聞けば少しくらい驚くだろう。コイツも小さい頃一緒に遊んだりしたからな。
勇気は両親の馴染みにゲーム会社の重役を務めている人がいるそうなので、その人に融通してもらうんだとか。俺の《クオリア》やPDもそこから貰うようで、少しくらい無理を言っても大丈夫な間柄らしい。なんとも出鱈目なヤツである。
「っ!? 工藤さんもPDやるの!?」
しかし凛が驚いたのは勇気の特殊なコネとかそういうものではなく、勇気がAPをやることそのものに対してだった。
俺の一言に凛が急に声を張り上げた。隣にいた宗眞は少し驚いた表情を見せていたが、すぐに野菜炒めに箸を滑らせ、ヒョイヒョイと摘まんで口に放り込んでいった。
そこで大きく間が開き、凛も空気の悪さに居心地を悪くしたのかあたふたと話題の方向性を戻そうとする。どことなく顔も赤い。ここまでわかりやすい反応を見せれば、否応にも凛が勇気に対してどんな感情を抱いているかわかってしまう。
「……あ、いや!? べ、別にそういう意味じゃないよ!? ゲームの価値観が近かったからなんとなく親近感が沸いただけで――別に一緒にパーティ組めたらいいなとかそういうのは全く考えてなくて……! そういえば、工藤さんはβ版もやってたりするのかな!? それなら凄いと思うなぁ!?」
先ほどのような落ち着いた喋りではない、何かを誤魔化すようなそんな喋り方だった。よくここまで舌が回るものだ。それを見ていた宗眞が、口を押さえてププッと笑う。自分の見苦しい姿を弟に見せてしまった凛はさらに顔を赤くし、宗眞に対して怒りの感情を露にする。宗眞はそれを見て自分の身に危険を感じたのか、自分のお茶碗にご飯が既に残っていないことを確認し、台所へ。
凛が勇気に対してどんな感情を抱いているかは気になるが、流石にここで凛に追及するのはあまり得策ではない。宗眞の怒りの矛先がこちらに向いてきたら適わないからだ。もっと別の―――状況が落ち着いたときにでも話すとしようか。
俺は宗眞がいなくなって余裕ができたスペースへと身体をずらす。そして凛の質問に返答した。
「確か、β版はプレイしたとか言ってたな。だから俺にもやって欲しいって言って、ハードとかソフトを用意してくれることになったんだ」
「……β版って、限定五千人しか参加できなかったんだよね。私も抽選には参加してみたんけど、クジ運無かったみたいで」
何故か凛は遠くを見つめ――残念そうな顔を浮かべた。俺にゲーマーの気持ちは理解できないが、その枠に入りたかったという凛の気持ちはわからなくは無い。
誰よりも先に未知の領域に足を踏み入れ、誰よりも早くその素晴らしさを知る。そんな他が知らない情報を我が物にできたら、どれほどの喜びがあろうか。他人が知らないことを知っているというのは、自分にとてつもないアドバンテージがあるように感じられるだろう。だからこそ、勇気もこの話を俺にしてきたのだ。
その枠を逃した、それなら誰でも悔しがって当然だろう。
「……それで、どういうゲームなんだ? 詳しい話を勇気からあまり聞いてなくてさ」
空気が悪くなってしまったので、サッと本題に入る。凛はそんな俺の意図を汲んでくれたのか、こちらに向いて話し始めた。
凛から聞いた内容の説明は基本的に勇気から聞いたものと似通っており、さして目新しい点は無かった。しかし、勇気と違って凛は戦闘システムや他のことについても教えてくれた。
PDはスキル・レベル制併用で、育て方次第でプレイヤーごとに様々な個性が出る。スキル・レベル制併用と言ってもこの場合、意味合いが変わってくるのだが。
一般的なスキル・レベル制併用のMMOは、レベルアップ時にスキルポイントを得て、それをスキルに振っていくことでスキルの習得や強化をしていくことが主流であるが、APの場合はレベルアップ時にスキルポイントが出るわけではなく、自らが使うことによって習得・強化されるのだ。
尚且つスキルは装備制で十個までしか使えない。しかし、スキルを使っていくとその個々の熟練度が上り、スキルそのものが強くなったり、派生スキルが出たり、極めれば装備しなくても使えるようになるのだ。
レベルも普通にモブのモンスターを倒していけば上がっていくのだが、その倒したモンスターの種類によって自分の各種パラメータの上がり幅が大きく違うそうだ。だから同じレベル10でもパラメータにバラつきが出る。
ココが――このゲームの一番のネックだ。
このゲームは対人戦闘にも力を入れられており、モンスター相手だけではなく、プレイヤー同士の戦闘にもステータスは大きく関係する。だから、プレイヤーはレベル・スキルだけでなく、パラメータまで気にしなければいけなくなる。個人のプレイスタイルが大きく勝敗に影響を与えるのだ。
他にもキャラメイクのときの質問によってタイプ分けがされ、スキルの得て不得手が変わるらしい。しかも自分の戦闘時の行動も事細かく記録されて、レベルアップ時のパラメータの振り分けの判断材料にするのだとか。
フィールドは広大でプレイヤーの個性も様々。話を聞く限り、これはもう他の世界にもう一人の自分、つまり分身を創るに等しいことではないかとさえ思った。クオリティの高さにも惹かれるものがあるし、勇気が俺に勧めたのも納得だ。
「と、まぁこんな感じね。ふぅ……」
長い話で少し疲れたのか、溜息を吐く。勇気の話だけでは知ることができなかった、様々な情報を入手することができた。最初にこれを知っているか知っていないかで序盤の物語の優位性は大きく変わるだろう。凛に感謝の気持ちを表すために、食べ終わった凛の食器を自分の食器と重ねて台所まで持っていく。
「あ。ありがと兄さん」
別にこの位でお礼を言われるとは思っていなかったが、おう、と小さく返事をしておく。付け加えてこちらもお礼を言う。
「こっちこそ有益な情報をどうもありがと。お陰で色々とわかったよ」
「それほどでも。でも、全部ネットのまとめサイトの受け売りなんだけどね」
「それだけ知れたら十分だ。もう少し詳しいことは勇気にでも聞くとするよ……っと」
食器を洗うために水道の蛇口をひねる。最初は冷たい水が流れていたが、すぐに温度の高い温水へと変化していく。次々と洗物を済ませていく俺に、凛はリビングから声をかけた。
「あ、そうだ。ユーザ登録だけならあたしの《クオリア》貸したげよっか?」
「ユーザ登録? 何だそりゃ」
聞きなれない単語が右耳から左耳を通り抜けた。殆ど聞き流しに近い。しかし普段聞きなれていない所為か、俺の脳内に留めて置くには十分だった。
「ゲームを始める前に大規模サーバーに個人のデータを登録をしておくの。脳波とか、神経構造とか、後は適当に個人情報とか」
どうやらゲームを始める前の安全確認のようだ。登録をすることによって犯罪の防止になり、他の《クオリア》を使っても自分のデータを使うことができる。登録時のメリットは色々あるようだ。
それに、今のうちにその登録を済ませておけば、わざわざ勇気から貰った後にやる手間が省けるだろう。俺はその意見に賛成の意を示すべく、リビングから見えるように手を振った。
「わかった。んじゃ後で私の部屋に来てね。そしたら貸すから」
俺は洗い物を済ませ、二階にいる凛から《クオリア》を借りた。形はどこかバイクのヘルメットに似ており、前作の据え置き型より大分使い易いものになっているそうだ。頭頂部には正五角形の――《クオリア》のロゴマークが描かれていた。
俺はそのメットを被り、ユーザ登録と呼ばれる脳波の確認や、個人情報の大体のモノを入力した。どうやらこれで登録は完了らしい。凛が全て入力し終わったらそう告げてくれた。
これで、俺は立派なVRプレイヤーとなった。実感は沸かないが、どうやらこれで登録は完了のようで、あまりVRを体験することなく終わらせてしまったのが少し悲しい。
仕方なく勇気からのソフトとハードを待つしかない。俺は期待に胸を膨らませながら、数日間を過ごしたのだった。