導入~1~
なんというか、やっぱり小説って難しいですね。特に情景描写が。
誤字脱字、その他感想や「描写が陳腐すぎワロタww」などの意見がありましたらよろしくお願いします。 直せる部分はよくしたいと思っているんで。
初夏を感じさせる蝉の声が、遠い所から響いてくる。都市部に程近いこの町でも、蝉というものは夏の間忙しく鳴き続け、俺たち人間に夏の訪れを感じさせてくれるのだ。
蝉というのは騒がしく、煙たがられたりもするが、その声を聞かないと夏が来た、という実感そのものが沸かない。そんな厄介な存在である。しかし、時刻は夕暮れなので、そんな蝉たちの大合唱も鳴りを潜めようとしていた。声も疎らになり、辺りが段々と静まり返っていく。
そんな夕暮れで赤く染まるこの場で――二人の高校生の会話が始まった。
「――えぇっ? 別にいいって……」
「そー言わずにさ! 一緒にやろうぜ? なっ?」
俺こと真条龍之介は今、友人にとあるゲームの勧誘を受けている。人生のうちでゲームにハマることなんてこれっぽちも無かったが、なんでも友人の勇気が言うには自由度が高く、自身もβ版の経験者で、そのVRゲームの素晴らしさを俺にも伝えたいんだとか。
「お願いだって~! ハードとソフトは俺が用意してやるからさ~! この通り!」
必死に懇願してくるコイツの名前は工藤勇気、家も隣近所の幼馴染と言うヤツだ。小さい頃から一緒に遊んでいたため、高校二年生になった今でもこうして帰宅を共にすることも多い。
帰り道で勇気が話してくることといえば、ゲームのことばかりだ。勇気は生粋のVR廃人で、いつも俺に自分のオススメのVRゲームを紹介してくれる。しかし、俺はあまり興味が無いからいつも丁寧に断っているが。
今日はそんないつもの流れで、近日発売するゲームの話になった。けど、今日は勇気の熱の入れ方が違うことに、最初の段階で気がつくべきだった。
「そんなになって、どうして俺なんか誘うんだよ。他にも一緒にやってくれるヤツいるだろ?」
「いやいやいやいや…お前みたいなあまりゲームをやらないヤツにこそ、プレイして欲しいんだよ! どうせ部活にも入ってないんだし、暇なんだろ?」
「そ、そりゃそうだけどさ。家のこととかもあるし」
先ほどから勇気が話しているのは近日発売のVRMMOのゲーム、《Physis・Domination》についてだ。読み方は《フィシス・ドミネーション》、略語はPDだそうだ。
正直、ゲームをあまりやらない俺にとってはどうでもいい。弟たちのほうが詳しいかもしれない。ここはいつも通り丁寧に断っておこう――そう思って口を開いた。
「いいか? 《フィシス・ドミネーション》っつーのはだなぁ――」
俺が断ろうと口を開いた瞬間に、機先を制すかのように勇気は熱弁を振るい始めた。いつもこのように自分のゲーム理論を展開しつつ、お気に入りのゲーム話をしていくのだが、今日は何故か気合の入れ方が微妙に違う。しょうがなく俺は肩をすくめながら、勇気の話に耳を傾けてみた。
勇気の話を簡単にまとめると、《フィシス・ドミネーション》とは仮想世界《リバルダイト》での自由な生活を楽しむことができるゲームらしい。ちなみに発売元は最近業績が向上して波に乗っているゲーム会社、『VR・Society』という所だ。『バーチャル社会』、いかにもな会社名である。
《大都市オルオン》に始まり、そこから様々なフィールドへと旅立ち自分の能力を高めていくという、一般的なMMOゲームとあまり変わらないような内容だ。
しかし、普通とはちょっと違ったシステムや、膨大な数のステージ数、隠し要素など他の追随を許さないような出来になっており、内容の割にはゲーマーからの人気は高いそうだ。ゲーマーじゃない俺からしたら辟易とさせられたが。
他にも何か色々な説明をされたが、難しかったので割愛。説明も一段落し、勇気が話しかけてくる。
「どうだ? プレイしたくなったか?」
ゲームをあまり知らない俺が言うのもなんだが、流石にここまで力説されたらやらない方がおかしいかもしれない。しかし、ハマりすぎて入り浸る様になってしまったらその限りではないが。そうやって心の中で葛藤を続けていると、
「……うっ」
そこには目を輝かせて俺の返事を待つ――勇気の姿があった。その瞳には俺の口からノーを言わせないような、そんなオーラを放っていた。酷い話である。確認のためにもう一度、勇気に話しかける。
「……そんなに一緒にやりたいのかよ、そのゲーム」
「そりゃ勿論!」
勇気は俺の心情を知ってか知らずか、容赦なく輝く笑顔をこちらに向けてきた。やはり俺には、どうにもその笑顔のせいでノーとは言えず、仕方なく肩を落とした。
「……しょうがないな。ハードとソフト、だっけか? それは任せたぞ」
「え? リュ、リュウ。それは一緒にプレイしてくれる、ということか……?」
長年ゲームの話をされてるのに、一つも試さないというのも無理な話だ。いつかは興味が沸いてくるし、やりたいと思う日もあるだろう。きっと――それは今日なのだ。
「……ああ。これでも、親友だからな」
「さっすがリュウだな! 話がわかる!」
俺の返事を聞いた途端、さらに目を輝かせて喜び散らす勇気。近所迷惑だから、もう少しボリュームを下げて欲しい。しかしそんなことはお構いなしだと言わんばかりに、さらに声を張り上げる。
「そうと決まれば善は急げだ! よし、じゃあ後のことは俺に任せておけ!」
「あ、お、おい!?」
何を思ったか勇気はいきなり身体を前傾姿勢にし、
「ヒャッホォォォォオオ!!」
雄叫びを上げながら、猛スピードで俺の目の前を走り去っていった。家が隣なんだから、一緒に帰ってもなんら支障は無いと思うのだが……まぁ準備が忙しいのだろう。ここは何も言うまい。
こうして――俺は人生初のVRゲームをプレイすることになったのだった。
正直、この時点でゲーム自体に興味はなかった。しかし、俺のゲームの価値観が少しずつ変わっていくのを感じたのは、この時で間違いはないだろう。