田無タワーに半径7kmのコンパスを落とす
田無タワーというタワーがある。
でもそれは偽物の名前である。
本当の名前は『スカイタワー西東京』という。
私はこのタワーの庇護下の下に生まれ育った。
だけど誰も『スカイタワー西東京』なんて呼んでいない。
だから今回も『田無タワー』で通させてもらおう。
生まれた病院の屋上から、幼稚園の園庭から、小学校・中学校・高校の通学路から。最寄り駅の商業施設の3階から。
職場だって国分寺でそう遠くない。
職場のビルの屋上に立てば、いつでも目を合わせることができた。
私は田無タワーに見守られながら過ごしてきた。
通算24年。私は田無タワーの半径7kmの圏内で生活していた。
今、私は中央線に乗って、羽田空港に向かっている。
乗り降り口の横に立ち、スーツケースを壁沿いに置く。
ガラガラの車内も、なぜか立っていたかった。
普段田無タワーのことなんか思い出すことはない。
ただ、車窓から見えたのだ。
ブルーバックの背景に、絵葉書のようにそこにいる田無タワー。
嫌いというのも、好きというのも違った。
ただ、そこにあった。
遠くから見ると、タワーを中心に、私がコンパスの鉛筆の部分かのように円を引いているようだった。
でも東小金井を過ぎたあたりでわかるのだ、これはその半径から飛び出そうとしていると。
私を載せた電車が、サランラップのような何かを突き破ろうとするように、徐々に離れていく。
きっとこれはイメージだ。
遮るものなどなく、快晴の下、オレンジ色の車両がダイヤ通りに東京方面へ進んでいく。
規則正しい電車らしい音を鳴らしながら快速電車は進む。
そして国立辺りで見えなくなった。
包み込まれていた感覚はなくなり、もう何もなかった。
守ってくれるものも、押さえつけるような圧もなくなった。
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羽田に到着し、なれない荷物検査に緊張しながらも、搭乗手続きをすませる。
呼び出しのアナウンスがなり、窓際の席に腰を落ち着けた。
札幌行きの飛行機が飛び立つ。
空から東京スカイツリーが見えた。




