雌伏の時
翌日から俺は、働きに働きまくった。
敷地はかなり広く、ナギは両親を早くに亡くしてから一人で家を守ってきた。
商人としての側面も持ち合わせる彼女だが、魔王によって年々厳しくなる財政状況に苦しめられ、家を守るというよりは衰退を遅らせているという方が正しい。
魔王に関しては後々に考えるとして、まずは目先のことだ。
敷地内で手がつけられておらずボロボロになっていた倉庫などを片っ端から修築し、なんなら近場の住人の畑も耕している。
前者がナギのためになるのはもちろん、後者もナギの家への評価へ繋がる。
俺の記憶が確かなら、ゴウラはナギの家を建て直すことを条件に、彼女に嫁ぐように迫る。
俺と同じで何もできないジョンはマトモな解決策を見つけることができず、ナギは逃げられないよう足の腱を切られ――ゴウラを慰めるだけの道具にされてしまうのだ。
想像するだけで虫唾が走る。
ゴウラを倒す方法についても後々で考えていかなければ。
ともかく今は働く。
働きまくってナギに認められつつ、彼女を救う方法を探すんだ。
「……ふぅ、ちょっと休憩するかな」
一週間が経過した。
ミツキは和の街ということで、当然この家もジャパニーズ風だ。
今は十五時くらいだろうか。
縁側に座って休憩していると、誰かが近づく足音が聞こえた。
足音といっても、意識しなければ気付かないほど静かなものだ。
幼い頃から躾けられているのだろう。
足音の主が誰かは見ずとも理解できる。
「リノンさん、お疲れ様です」
「このくらいお安い御用だよ。ナギが助けてくれなきゃ、今ごろ俺は死んでいたんだから」
ナギが俺の隣に腰を下ろす。
今日も乳がデカ――一分の乱れもないお淑やかさ。
こちらへ向けられる視線には優しさが詰まっていた。
「それにしても……リノンさんは働き者ですね。ウチの荒れていた部分が見違えるようになりました」
「はは、流石に褒めすぎだよ。俺なんて役立たずさ」
俺は事実を言っただけなのだが、ナギは怒ったように口を膨らませた。
「そんなこと言ってはいけませんよ? リノンさんの動きは計画的ですし、力持ちじゃないですか。本当に冒険者の素質がないんですか?」
「ないんだよ、マジで。死ぬ気で頑張って、ようやく小さい獣が倒せるくらいだ」
嘘だ。何日か前に近くの森で狼のような魔物とカチ合い、素手だったことも災いし余裕で殺されかけた。
たまたま俺の蹴りが当たったおかげで逃げることができたが、次はないだろう。
「そうなんですね……」
俺の顔があまりにも真に迫ったいたからか、ナギは信じてくれたようだった。
「なら、いざという時は私がリノンさんを守ってあげます」
「ナギが?」
「はい。こう見えても私、魔術が使えるんですよ?」
そう言ってナギが手のひらを上に向けると、ぼうっと火の玉が出現する。
「すごいな! 魔術が使えるのか!」
「ふふっ、驚きましたか? 火だけじゃなくて、風属性にも適性があります。だから……困ったら私に任せてくださいね」
俺が頷くと、ナギは満足そうに微笑んだ。
彼女の言う通り、彼女には魔術の才能がある。
異世界ファンタジー作品だし、魔術を使える人物は数多く登場するが、彼女はその中でも上位の素質を持っている。
人並み外れた魔力量、鍛えれば鍛えるだけ精度も上がっていく。
ミツキの街だけでなく世界的に活躍することのできる腕だ。
そんな彼女がゴウラに――自分よりも遥かに弱い男に組み伏せられ、好きに扱われるというのが、このルートのある種の「醍醐味」でもあった。
(……クソが。俺が絶対にどうにかしてみせる)
ナギと言葉を交わすたび、笑顔を見るたびに、その悲惨な結末に胸が締め付けられる。
だが、明確な指標がないのが現実だ。
彼女が本編に登場するまで数年の猶予があり、その時のストーリーなど製作者でもなければ知りようがない。
(しばらくは雌伏の時だ)
結論から言うと、俺たちがゴウラと対面するのは一年後だ。
それまでに俺とナギの距離は、少なからず縮まることになる。
終わりです
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