プロローグ/それって、俺が強すぎるってことだよな?
ゴウラが刀を振り上げた瞬間、俺の目には、世界がスローモーションに映っていた。
ゆっくりと地面へ向けてジャンプする雨粒、怒りに支配されたゴウラ。
そして――全てを諦めたように目を閉じるナギ。
(俺が男を見せるなら。やるなら――――ここしかないだろ)
俺は迷いなく駆け出すと、ナギを突き飛ばしてゴウラの前に躍り出る。
ナギが小さく「えっ」と声を漏らすのが聞こえた。
どうやら神様は俺に甘いらしい。
命を失うまで、まだ猶予がある。
俺は尻餅をついたナギの方へ顔を向け、
「短い間だったけど、楽しかったぜ。幸せになってくれよな」
そう言った次の瞬間、身体に一本の線が入る感覚。
傷口を確認する間もなく全身から力が抜け、硬い地面に背中から倒れる。
「……はっ、雑魚が一丁前に命を張ったか。無駄な事だがな」
ゴウラに言い返してやりたかったが、もう俺の身体はピクリとも動かない。
意識を失うのも時間の問題だろう。
「あ…………ああぁ……リノンさん! いや、いやぁぁぁぁあぁぁ!」
這うようにして、ナギが俺の元へ来てくれた。
はは、美人は泣いてても見てられるなぁ。
…………気が遠くなってきた。
ラジオのツマミを回すように周囲の音が聞こえなくなり、急激に寒気がしてくる。
ナギが触れていてくれる部分だけは暖かいな。
美人の、それも俺に優しくしてくれた女の盾になって死ぬ。
二度目の命の使い方としては上等だ。
全てを受けれて目を閉じる。
俺は少しだけ、カスみたいな運命を変えられたかもしれない。
そうだったらいいな。
だが、真の意味で俺が運命を変えてしまったのだと理解するのは――この後だった。
・
「今どき異世界転生なんて古いだろ……」
異世界に転生した俺が最初に言ったのがこれだ。
目を覚ますと草原にいたとか、水辺で顔を確認してみたらイケメンになっていたとか、ありきたりが過ぎる。
そして、その「ありきたり」を網羅してしまっているのが俺であった。
俺が死んだのは2026年だぞ。舐めんなよ。
ただ、一つだけ予想外の事態もあった。
適当に歩いて街に着いたときだ。
「やぁ、君は冒険者かい? 珍しいな、こんな田舎にやって来るなんて」
門番ではなく町人A。
コイツは俺のどこを見て冒険者だと思ったのか聞いてみたい気分ではあったが、俺の脳裏に過ぎる言いようのない何かのせいで集中できない。
その謎を解決してくれたのは町人Aだった。
「ここはミツキ。ゴウラ様が治める街さ」
ここでピンと来た。
神は不親切にも――エロゲーの世界に転生させてくれたのだ、と。
「なぁ君、大丈夫かい? なんだか顔色が悪い気がするけど……」
「あ……あぁ、大丈夫だ。心配かけたな」
眩暈がした。本来であれば、エロゲー世界への転生なんて喜ばしい事この上ない。
ムチムチでスタイルのいい美少女たちと、あんなことやこんなことがし放題なのだから。
だが、それは「普通の」エロゲーでの話だ。
この世界はエロゲーはエロゲーでも――NTR系であった。
主人公はある日、勇者としての素質を見出される。
しかし、怠惰な彼は魔王との戦いを拒み、世界が魔王に支配されるまでの間、各地で女遊びを始めるのだ。
ここからが問題。主人公がいい感じの関係になる女は全員寝取られる。
なんなら、ヒロイン達はだいぶ悲惨な目に遭う。
めちゃくちゃ頑張ればハッピーエンドへも到達できるが、攻略サイトと睨めっこしなければ鬱ENDまっしぐら。
「カスみたいな世界に転生しちまった……」
俺はそこら辺の壁に手をつき、絶望で項垂れていた。
容姿からして俺はモブ。
この世界の支配階級はクソ人間ばかりでモブが生き抜くには厳しい。
仮に恋人を作ろうものなら……誰かしらに寝取られるのが容易に想像できる。
「俺は一体、どうすればいいんだ?」
前世での俺の記憶はあまりないが、いい人生送っていないという実感だけはある。
だからと言って、この世界を幸せに生き抜ける気もしない。
ひとまず、この世界の情報を脳内でかき集めてみる。
その中から俺にもできそうで、かつ食っていけそうな職を考えた結果――
「……冒険者でも、してみるか」
これしかない。
勇者が魔王を倒しに行かないなら、俺が倒してやるんだ。
絶対的な力を手に入れたら、きっと恋人だって守れる。
「よし、俺は冒険者になる。最強の冒険者だ。そうと決まったら……」
俺が向かったのは冒険者ギルドだ。
現在地であるミツキという街は、西洋風の今作において数少ない「和」を感じさせる場所であり、ゲーム中盤あたりで訪れる場所。
とはいえ街としての機能は他の変わらず、冒険者ギルドも存在している。
盤の目のような街の中でも一際目立つ建物。そこが目的地。
善は急げだ、手早く済まそう。
ギルドの扉に手をかけ、勢いよく横に引く。
そのまま堂々とした足取りでカウンターまで行くと、着物を纏う受付の女性に声をかけた。
「すみません、ここで冒険者登録をしたいんですけど」
「わかりました。それではまず、こちらの水晶に手をかざしていただけますか?」
彼女に言われるがまま、片手で持つには大きいくらいの水晶玉に手をかざす。
この工程で冒険者が持つスキルや素質が表示されることになり、主人公――ジョンは《勇者》スキルの持ち主だと発覚する。
さて、俺はどのようなスキルを所持しているのか。
わざわざ転生させてきたくらいだ。
神は俺にチート能力を授けているはず。
期待と僅かな不安を胸に様子を見ていると、水晶が眩く輝き出した。
「こっ、これは――――!?」
光が収まると、受付の女性が驚愕を声に乗せる。
「あ、あなたは規格外です……少なくとも私はこれまで、あなたのような方を見たことがありません……」
恐怖なのか、尊敬なのか。
震える声に気をよくした俺は、ニヤリと口の端を吊り上げる。
「それって……俺が強すぎるってことだよな?」
彼女は一歩後ずさった。
自分が、世界を変える人間を見つけてしまったとでも言わんばかりに。
そして、意を決したように胸に手を置くと、俺へ向けて――
「――あなたは何の素質も持っていないです。スキルも何も、こんなに無能な方は、きっとこの世界にあなたしかいません」
「………………ふぅん?」
かくして、俺の魔王討伐の旅は終わりを告げた。
あらすじにも書いていますが、この設定でもっと広げられそうな展開を思いついたため、こちらは供養版として投稿します。全3話。
星をいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!
伸びたらこっちも投稿するかもしれません。




