世界が『三流の喜劇(ライトファンタジー)』になった日 ~不死身タンクと犬耳姉弟の成り上がり、あるいは最強家族の温かい食卓~
五年が経っても俺たちは戦い続けている。
「気を抜くなよ紳士淑女の諸君! 敵は前だけではないぞ!」
アイアンベアより一回り大きなミスリルベアに足止めのために関節技をかけながら、俺は新世代の『冒険者』たちに声をかける。
俺みたいな元冒険者の目には『派手な仮装』にしか見えない武器防具を構えた、『冒険者学校』卒業試験中の少年少女たちだ。
「ひええ」
「こんなに怖いなんて聞いてないよぉ」
ぷるぷる震える手で構えているのは、シロとクロがダンジョン深層で狩ったモンスターから『ドロップ』した初心者用剣や初心者用杖だ。
そう、『ドロップ』だ。
俺が冒険者時代にシロやクロに話していた『前世における架空の冒険者物語』や『前世における架空のダンジョン物語』が、シロ経由でダンジョンの『管理者』側に伝わった翌日には『ドロップ』方式に切り替わっていた。
神殿といい天界(『管理者』)といい、使えるものはなんでも使うらしい。
「おいおい、丸一年学校に通って手に入れた卒業資格を手放すつもりか? 俺はそれでも構わないぜ? お前らは入学試験からやり直しだがなあ!」
頼む。戦ってくれ。
天界が調子に乗ってダンジョンを拡張し続けているから、『冒険者』を増やしてモンスターを狩る速度を上げないとモンスターが地上にあふれるんだ。
俺が『性格の悪い試験官』をしているのはあくまで仕事だ。
俺たち家族は事実上神殿からは独立したが、天界の下請けで『冒険者』(ダンジョン攻略者)の育成とダンジョンの悪用阻止をしている。
「たぁっ! いたぁい!」
『冒険者』の剣が弾かれる。
「炎の矢が全然きかないよぉっ」
『冒険者』の魔法がモンスターの表面で弾けても、モンスターの外見に変化はない。
少年少女がが装備している武器には初心者用という名前がついてはいるが、実際は天界が関与した強力な武器だ。
だが、レベルアップ未経験者がいくら下駄をはかされても、ミスリルベアという本来なら軍が相手にするようなモンスター相手には『ほとんど』通じない。
「効いてる効いてる! 卒業試験の最短記録は半日だ。試験開始から三日以内に倒せば合格だからな、この一年を無駄にしたくないなら死ぬ気で……いや死ぬ気は必要ないが健康を犠牲にするつもりでがんばれ!」
俺の言葉を理解はしていないんだろうが、ミスリルベアが怯えたように体を震わせて、力を振り絞って俺を振り払おうとする。
しかし俺の腕と体はびくともしない。
あれからさらに強化された耐久力と、魔法金属(シロが使用したものとは違って体積あたりの重さがすごいだけの金属)製の俺の鎧の重さのおかげだ。
「うおー!」
「しねー!」
だんだん余裕がなくなってきた『冒険者』たちが、この世界で学校に通えるエリートから、生きるために戦う『冒険者』に少しずつ変わっていった。
☆
ダンジョン入口を目指す隊列は綺麗な二列縦隊だ。
前世代の冒険者どもの民度の低さと教育水準の低さを知っている俺としては、これだけで感涙ものだ。
なお、全員がうっすらと光に包まれている。
赤、緑、青などの基本色がほとんどだが、十人に一人くらいの割合で変わった色の光も混じっている。
「冒険者カードを受け取るまで気を抜くな! 卒業試験は突破したが寝過ごして卒業手続き忘れてもう一年って馬鹿の話を聞きたいか?」
『冒険者』たちが『ぶるり』と震え、周囲に対する警戒も少しはマシになった。
「パパー!」
ダンジョンの奥から馬鹿デカイ声が響く。
俺にとっては聞き慣れた声だが、『冒険者』たちにとっては圧倒的な『力』を感じる恐ろしい声なのかもしれない。
「たー!」
殺意というには温い気配が俺の顔に集中する。
俺の目では追いつかない速度で『蹴りの姿勢の犬耳幼女』が突っ込んでくるが、シロやクロやときどきマリー相手に稽古をしてきた俺にとっては隙がありすぎる。
ああもう。
アダマンタイト装備のスケルトンアーチャーに狙われて、こっそり護衛している犬獣人が大慌ててアーチャーを仕留めてるじゃないか。
「はい残念」
防ぐのではなく相手にダメージを与えないことを最優先に、キックを手のひらで受け止め、掴む。
黒に近い栗色の髪の、見た目は幼女でも身長は少女ほどもある俺の娘が、足先を固定された状態で『じたばた』と逃げようとした。
「また無許可で潜ったな、サキ?」
「おばあちゃんに許可とったもん!」
アホみたいに頑丈なのは俺の遺伝だな。
シロやクロみたいに『圧倒的に速くて器用だが頑丈さは普通』だと、目を離すのが怖くて仕方がないだろうから助かったぜ。
「校長(老シスター)は、サキ限定で現場の指揮権を返上してもらった方がいいかもしれんな」
俺は出口への移動を再開する。
サキは器用に『肩車』の体勢へ移行して、俺の頭相手に関節技を試し始める。
「すみませんおじさん。サキちゃんが突っ込んじゃって……」
サキが跳んできた方向から、サキと同い年でサキと比べれば常識的な身長の子供が駆けて来た。
犬耳と犬尻尾がないのを除けば、出会った頃のクロそっくりのクロ二世だ。
クロの嫁であるアリサ嬢の親御さんには本当に迷惑をかけたが、この二人が『冒険者学校』に入学する頃にはある程度友好的な関係を築くことはできた。
クロは嫁さんたちの尻に引かれているがな。
「本当にまずいなら護衛が止めるはずだから問題ない。……悪いが君も反省文提出だ。サキは十枚は覚悟しとけ」
「なんでっ!? ちゅーそーにいけたのに?」
「……マリーからの説教も覚悟しとけ。許可もないのに中層まで行ったら俺でもかばいきれん」
厳しい父親になろうと誓いはしたが、サキがとんでもない『わんぱく』で、俺には戦力的な意味で無理だった。
力尽きたように力を抜いたサキを背負い、おずおずと手を伸ばしてきたクロ二世の手を引いてやりながら、俺は新人『冒険者』を先導する。
ダンジョンのゲート(出入り口)を通過すると、そこは清潔で真新しい市街のど真ん中だ。
『冒険者学校』
正式名称は神を称える言葉が大量に連なっている長ったらしい名前だが、人類領域だけでなく他種族の支配領域まで名が知られた新しい街だ。
ちゃっかり初期から関与したエルフがでかい態度で歩いているし、元亜人連合所属の種族から留学生として送り込まれたらしいオーガやオークも少数だが見える。
「よーし、全員いるな。受付のおば……お姉さんに報告して冒険者カードを受け取れ。それでお前ら全員『冒険者』だ!」
それまで上品に隊列を作っていた少年少女が、歓喜の表情で隣の級友と騒ぎ出す。
俺は娘と義理の孫を連れて、ひときわ目立つ校舎……ではなく、事務的な作りをした学校付属病院へ足を向けた。
☆
『冒険者学校付属病院』は通称であり、正式名称は『竜殺しの聖女マリーゴールド記念病院』だ。
そろそろドラゴンという種族相手に講和が成立しそうなので、そのときは改名されることになるはずだ。
なお、この病院は、金の光で覆われていてまぶしい。
力が強まったマリーがリラックスして光の制御を手放すと、金の光の強さも範囲も大規模病院を覆う規模になってしまうらしい。
受付は負傷した『冒険者』でごった返している。
マリーの力によりそれ以上悪化しないので、駆け出しの『神官』や医者の練習台になるか、ダンジョンで稼いだ金の大部分を払って高レベルの『神官』や医者に診てもらうかの、どちらかを選んだ連中だ。
俺は関係者専用のドアから居住区画へ向かう。
不運にもダンジョンで命を落とした『冒険者』(最近では若者が多いが初期は元兵士も元冒険者も大勢いた)の遺児たちが過ごす孤児院も兼ねている。
聖女マリーゴールドの厳しくも優しい秩序のもと、マリー基準での十分な食事と学びを課されているわけだ。
「父さん、お帰り」
シロが俺の長男のおむつをかえていた。
「浮気男なクロおじさんの真似をしちゃだめだよー。一途な父さんを見習うんだよー」
「シロ。久々に帰省したんだからゆっくりすればいいだろ」
「クソ性格の悪い男どもをあしらった後だから心がすさんでるの。好きにさせてよ」
黙っていれば冷たい美貌がしおれている。
最近は王族にまで求婚されてるらしいから、俺には想像もできない面倒事があるのだと思う。
「親父いるー? ダンジョン深層がまた増築されたっぽい……げえ、シロ!」
いきなり現れたクロが、シロに気付いて動揺している。
俺は、何か言いたそうにしたクロ二世に気づく。
「クロ。どうせダンジョンに潜りっぱなしで親子の時間が少ないんだろ。たまにはじっくり話を聞いてやれ。いいな」
「あう……」
この野郎。
実家だから気が抜けてやがるな。
子供の前では見栄を張れ、見栄を。
「あなたー! そろそろ昼ご飯ができますよー!」
「ああ、今行く!」
俺は娘を背負ったまま、息子を慎重に抱き上げ、家族の食卓に向かう。
忙しい日々に前世の記憶や知識が薄れても、俺の大事なものは全てここにいる。
ここまで『攻撃力ゼロの異常耐久タンク、異世界で「絞め殺す」ことにした ~捨てられた最強種族の双子を拾ったら、懐かれすぎて「毒親」の将軍が攻めてきたので物理で返り討ちにする~』をお読みいただき、本当にありがとうございました!
無事に完結まで走り切ることができたのは、皆様の温かい応援のおかげです。
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【超重要なお知らせ!】
皆様、実は本日より、完全新作の連載をスタートいたしました!
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今作はSFの世界を舞台にした成り上がりコメディです。
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改めまして、長らくのご愛読ありがとうございました。
新作でも皆様とお会いできるのを楽しみにしています!




