敵の『毒ガス』も『機関銃』も、最強家族には一切通じなかった件 ~ついでに神様の愚痴(世界の真実)もスルーして、稼げる『ダンジョン』を爆誕させた~
銃声と同時に俺の頭が『蹴飛ばされた』。
痛みを感じたのは久しぶりだが、タンコブすらできないダメージだ。
しかし衝撃は消せない。
見た目だけは鎧の形に整えた『重り』ごと、俺は頭から地面に倒れた。
「あなた!」
マリーが血相を変えて俺を抱き起こす。
俺は無意識に両手で頭をかばっていたため、結果的にマリーに関節技をかけられるような体勢になる。
マリーの腕によるダメージの方が、銃弾によるダメージより桁一つは大きかった。
「敵襲! 敵技術レベル、上の中! 進軍停止! 防戦!」
クロが命令を下す。
コボルト中隊はここまで運んできた『木で作った銃弾対策の盾』を地面に突き刺し、その後ろへリックたち非戦闘員を隠す。
将来の大規模開拓計画立案のために必要と、神殿だけじゃなく複数の有力貴族にも主張されたから断りきれなかったんだ。
リックだけなら、移動速度以外は銀札冒険者並に戦えるから問題なかったんだがな。
「俺を狙うとは、ずいぶんと情報に疎い連中だ」
久々に「ケケケ」と嘲笑が口から出た。
俺を殺すなら剣も矢も毒も無意味。
酸欠なら死にそうだから、落とし穴で埋めるとかは有効だ。
そのことは家族だけでなく身内全員が知っているから、全員が徹底的に警戒しているがな!
「それでも万が一があります。わたくしに任せてくれればよいですのに……」
「数日前から体調が変化していると言ってたでしょう。万一があったら俺は立ち直れませんよ」
(ヤブ医者ではない)医者という超絶エリートは連れてこれなかったので、マリーを医者に診てもらうのは遠征から帰還した後になる。
正直、俺は浮かれている。
「負け犬ー! とっとと降伏するおー!」
シロがわざと『幼少時』の口調を使って煽っている。
クロが、亜人連合からの戦利品を修理した『拡声器』をシロへ渡す。
「今降伏したら敗軍の将として扱ってやるお! あたしたちは文明人だから、負け犬とは違って捕虜の虐待はしないお!」
シロの目が比喩的な意味で……いやマジで光ってやがる。
今さらどこかの神が加護でも与えたのかよ。
色は銀か。
聖女であるマリーが金だから、勇者か剣聖かそのあたりかね?
「シロは本当にアリタさまの娘ですね」
「血の繋がり以外は、はい。似なくていいところばかり似てますがね」
その美少女ヅラで「ケケケ」はまずいと思うぞ、シロ。
「シロ、来る」
クロが警告した数秒後、俺が知っている音が連続して響いた。
銃声だ。
しかも連続しすぎていて一つの長い音にしか聞こえない。
「機関銃、いや、機関砲か!?」
「負け犬、そこ!」
シロが指差す。
木々の間にちらりと見えた負け犬野郎は、ガスマスクを顔に被っていた。
「ガス!」
俺は悲鳴のように叫んでいた。
「毒ガスが来るぞ! 目と鼻と口をふさげっ!」
『ひゅるる』と、何かを封入した弾が空高く打ち上げられてこちらに落ちてくる。
何人生き残る?
レベルアップを無数に繰り返した俺たちは無事でも、マリーの腹にいるかもしれない俺たちの子供は?
生まれて初めて感じる巨大なストレスに、俺の心身が軋んでめまいがした。
「マリーさん、浄化!」
「ええ!」
金の光が全てを覆う。
慣れた俺たちにとっては『少しまぶしい』程度だが、おそらく初めて直視した負け犬野郎にとっては閃光弾の炸裂に等しかったはずだ。
光の効果はそれだけではない。
頭上で炸裂した弾から吐き出された無色無臭の毒が『この世界の異物』に対する憎悪にも似た何かに『塗りつぶされ』て消滅する。
何故それが分かったのかの理由は簡単だ。
俺も何度か同じものをくらったからだ。
「俺は許されるまで耐えたがな」
俺が得意げに言うと、金の光が一瞬だけ鋭くなって俺の肌を『ちくり』と刺激した。
分かってるよ。
調子に乗るなってことだろ。
「ふん!」
クロが久々に投石する。
負け犬野郎が取り出そうとした(おそらく毒ガス入りの)缶が、負け犬野郎の手から弾かれて森の中へ消える。
シロが『刀』を構える。
『お前なんてあたし一人で十分』と言いたげなシロの態度に刺激されたのか、負け犬野郎はガスマスクを投げ捨てて刀を抜いた。
「お前、あたしの母さんの部族にも見捨てられたんだろ? だからこんな場所へ逃げ込んだ。どうせお前のことだから「秘密裏に戦力を整えるのに向いている」とかなんとか言ったんだろうが、な!」
負け犬野郎の踏み込みは凄まじく、シロの防御は間に合わないかに見えた。
実際、シロは『刀』を無造作に突き出しただけだ。
「なっ」
負け犬野郎が目を見開く。
技では負け犬野郎が上回っていたのに、シロの『刀』に負けたのは負け犬野郎の刀だ。
先端は砕け、半ばまで大きな亀裂が生じ、既に武器としての機能を失っている。
「自分に有利な勝負に持ち込むのは基本中の基本だよ。ああ、この『刀』は神殿秘蔵の魔法金属製だから。頑丈でしょ?」
「卑怯な」
「あたしとクロの母さん、あんたに騙されて奴隷扱いされても泣き言は最期まで言わなかったよ」
シロは、実父に対して哀れみの一瞥を向けた後、負け犬野郎に対する興味を完全に失った。
なお、シロよりも徹底しているのがクロだ。
「確保! 自害防止!」
「「「うおー!」」」
余韻もなにもなく、コボルトたちとよってたかって負け犬野郎をロープでぐるぐる巻にして、舌を噛んだりしないよう拷問じみた拘束をしている。
俺が前世を思い出してからは負け犬街道一直線とはいえ、凄まじい能力と野心の持ち主ではあった。
なのにクロもコボルトどもも『敗軍の将』ではなく『危険なだけの普通の捕虜』に対する扱いをしている。
「勝った! 勝どき!」
「「「おー!」」」
あれこれ言葉にするよりも説得力がある。
音は威勢が良くても全く当たらなかった『機関砲』や、狙いは優れていてもなかなか撃てなかった『狙撃銃』も沈黙し、複数の白旗が遠くで上がった。
☆
捕虜も連れて遠征は続く。
とはいえ目的地はすぐそこだった。
負け犬とその直属の配下の拠点は、物はあるのに閑散としている。
負け犬がいるから存在できた組織なんだろう。
「わたくしがモンスターと戦ったのはあそこです。……今も、たくさんいます」
マリーは負け犬の拠点のさらに奥を見る。
何かが見えているのだろう。
だが、俺には何も、本当に何も見えない。
真昼なのに暗い、どころではなく、全ての光を吸い込む『黒』がそこに広がっていた。
「シロ、クロ、何が見える?」
「え、ちょっと待って」
シロは激しく困惑しているが、何かが見えているようだ。
「モンスター、見える! ダンジョン!」
クロは、予備の槍をコボルトに持ってくるよう命じている。
この場でモンスター狩りを始めそうな勢いだ。
「ダンジョン、ですか? クロ、古代の神殿をそう呼ぶのは、好ましいことではありませんよ?」
「神殿? そこ、あるの、ぴかぴかの迷宮!」
クロは迷いなく断言し、しかしマリーの困惑に気付いて目をまたたかせる。
マリーが嘘を言うはずがないと確信しているのに、クロの見えているものと食い違っているということに困惑しているのだ。
「父さん。あたしには『翼が生えてる人』が仕事に追われてる姿が見えるというか、あたしに呼びかけてるんだけど……」
俺には全く聞こえない。
クロが耳をすませるが聞こえないようだ。
「えっと、『これ以上チートを悪用しないで』と『見えるならこっちに来て手伝って』だって」
マリーが顔色を変えた。
瞬間移動じみた速度でシロの隣に移動し、シロの腕を掴む。
「行ってはいけません。シロは神に仕える生き方をするつもりはないのですよね?」
「労働条件によっては神殿づとめはありだよ、マリーさん」
「……それは神に仕えるとはいいません」
マリーは深くため息をついてから、自身がまとう光を自身の至近に集中させる。
特に目だ。
黄金に輝く瞳は神秘的で、この世に属さないものを見通せそうだ。
「やはり」
マリーは一言つぶやき、うやうやしい態度で『黒』に対し跪いた。
「父さん?」
「親父?」
答えを求めて俺を見るシロとクロに、俺は引きつった笑みを浮かべた。
「マリーに任せよう。俺たちが関わるには、でかすぎる案件だ」
何度か深呼吸して振り返る。
目しか動かせない負け犬野郎は、俺が『黒』として認識しているものに気付いていない。
「俺もお前も、世界の主人公じゃなかったようだな」
最初はうやうやしかったマリーが立ち上がり、誰かと激しく言い争っているように見えたが、俺には何も聞こえない。
いや、聞こえなかった。
「ですから、託宣で伝えてください! 間接的に力だけを与えられても……。そんな事情、神々の間で解決してください!」
うーん。
マリーの助けになりたい気持ちと、全力で聞かなかったことにしたい気持ちが拮抗している。
「父さん。『チート』の悪用でモンスターが増えすぎた? って翼の人が言ってる」
「倒したら報酬が出るなら嬉々としてぶっ殺しにいく連中は大勢いるんだがな。何か問題があるのか?」
「えっと、天界? が直接介入するともっと大きなバグとか『チート』とかが発生するから駄目なんだって」
なんだろうこれは。
トラブルが続いた会社がアルバイトに愚痴をこぼしているような印象がある。
「なら、増えすぎたモンスターが出現するダンジョンでも作っちまえばいいんじゃないか? その天界ってのはゴミを捨てる事ができてハッピー。俺たちは獲物が増えてハッピー。誰も不幸にならないだろ」
「親父! ダンジョンの中に翼の生えた奴が来た! 魔法使ってる!」
「クロ。魔法ではありません」
マリーは頭痛をこらえている。
まあ、神殿出身のマリーとしては、思う所があるのだろう。
それから少しして『黒』が消えていく。
代わりに現れたのは、ライトファンタジーに登場しそうな、清潔で壮麗な『ダンジョン入り口』だ。
クロが言うには、クロが見えていたのはこれらしい。
なお、俺には『翼のある人』は見えないんだが、マリーとシロは誰もいないはずの空間をじっと見つめている。
「わあ! すごい! ダンジョンだ! モンスターがいるなら倒さないとな!」
俺は棒読みで声を張り上げる。
俺の家族の不利益にならないなら、俺は裏の事情を知る気はない。
世界の真実などクソくらえだ。
「親父、いいの?」
「クロ、覚えとけ。家族を持つってのはそういうことだ。本当に覚えとけよ」
マリーとシロから冷たい目で見られたクロが、全力で首を上下に振っていた。




