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ドラゴンを屠りながら『家族会議』を開催する ~クロが貴族令嬢を口説き落としたと発覚し、父(俺)の説教が始まった~

 『禁域』への遠征は、強力なモンスターが棲む森の突破と同じ意味だった。


「クロのアホー!」


 シロの怒声でコボルト中隊全体が『びくり』と震えた。

 その数秒後に上空のドラゴン一体が弾けて血と肉片の雨が降る。

 クロが投擲した、モンスター素材(ダイヤエレファントも含む)の投げ槍の威力は相変わらず凄まじい。


「ドラゴンの死体は高く売れるの!」


 冷たいほど整った美形が怒ると迫力がある。

 文字通り影に潜って忍び寄るモンスターを、シロは『スパスパ』刀で斬り捨てながらの大声なので、十分な訓練を施されたはずのコボルトが動揺して使い物にならなくなっている。


「これ、戦い! 手加減、無用!」


 クロは同型の槍を数本背負っている。

 一年以上前にマリーが使ってドラゴンを仕留めた槍がもとになった槍だ。

 研究室段階のものを除けば最新版であり、威力はそのままに、マリーほどの身体能力がなくても使用可能な程度に軽くなっている。

 それでも、膨大なモンスターを狩って強くなったクロでようやく実用可能になる程度には重い。


「手加減して勝てるから言ってるの! クロあんた女癖よくないんだから、今のうちに金ためておかないと酷いことになるよ!」


 毎度恒例の姉弟喧嘩に、新たな要素が加わった。

 女癖、だと!?


「シロ! それ、紳士協定違反!」


 クロが慌てている。

 異性に……たまに同性の場合もあるが、とにかくそういうつきあいがあるのは健全なことだ。

 人間社会に溶け込むために推奨したいくらいだが……。


「あたしも一人二人くらいじゃ文句言わないわよ! クロあんた隣の街の貴族令嬢を口説いて……おいその顔、手を出したな!」


 シロが白い歯を剥き出しにする。

 白い犬歯が少し大きく、威圧的だ。


「あうっ!?」


 慌てたクロの第二投。

 一回り大きなドラゴンの翼の端をかすめ、ドラゴンの姿勢を大きく崩してドラゴンを驚愕させた。


「それは後で聞かせてもらおうか。親御さんに頭を下げに行く必要もあるしな」


「口説き落とした! 俺のところへ来るって、言った!」


「やるじゃねえか」


 不満いっぱいのクロに、俺は改心の笑みを向ける。

 まだ俺よりは小柄だが、激しい実戦と訓練と適切な栄養によりムキムキになった体は頼もしい。

 行動力があることも今回の件で証明した。

 それ『は』本当に喜ばしいことだ。


「父さん!」


「分かっている。あのなクロ。俺たちの武力とノウハウが商売道具であるように、貴族にとっての商売道具は伝統と権威なんだ。分かるか? 伝統と権威」


「えっと。はったり?」


 なお、家族の会話の最中もクロの戦闘は継続中だ。

 非常識な威力の槍が、大きなドラゴンに次々突き刺さって悲鳴をあげさせている。


「クロ……」


 シロは肩を落とす。

 シロもまた、忍び寄る脅威を蹂躙し続けている。

 俺はたまに隠密系モンスターに気づかず襲われるが耐久力で耐えた上で絞め殺し、マリーは纏った金の光に触れたモンスターが次々消滅していっている。

 コボルトの中隊は、俺たち家族まで辿り着けなかったモンスターを相手に集団戦で対抗している。


「はったりの一種ではある」


 シロが『クロを甘やかしすぎ』という目を向けてくる。

 俺は『褒めて聞く気にさせてるだけだ』と目だけで返事をする。


「長く続いてるのはすごい。だから長く続いている俺は偉い、って奴だ。実際、同じ商売を長く続けるのは大変だ。俺が仕事を続けるために冒険者ギルドから神殿に移ったのも知ってるだろ? 商売上手なリックだって危ない場面は何度もあったんだ」


 護衛されているリックが(おそらく)過去を思い出して懐かしむ顔になっている。

 たった一年なのにイベントが多かったぜ、本当にな。


「そんなのを親から子に何世代も受け継いできたんだ。デカイ顔したくなるし、有難がる奴も多い」


「親父も? 新しいこと、ばっかりなのに?」


 クロが不思議そうな顔をする。


「俺が新しいことをしたなら、それは『新しい』からではなく『効率が良かった』からだ」


「あっ。猫がどうとか、あれ?」


「そう。あれ。話を戻すがな。貴族の商売道具ってのは『昔からこうだから偉い』だ。犬獣人の立場が強くなったのもここ一年くらいだろ? 犬獣人であるクロを認めるのは、貴族が一番最後なんじゃないか」


「おー」


 クロは納得顔になる。

 何体も討ち取られてボスもぼろぼろになったドラゴンが命乞いっぽいことを言っているが、今重要な話をしている最中なのでシロに任せる。

 マリーは……交渉を任せると神殿のときのノリで一刀両断しかねないから、俺かシロに交渉を委任というのが基本だ。


「でも、アリスは、俺に着いてくるって言ったもん!」


「だーかーらー。その貴族令嬢のアリスさんの親父さんのメンツにも配慮しろって言ってるんだよ。別れろって言ってるんじゃない。順番を考えろって言ってるんだ」


 分かり易い例を考えてみる。

 あれでいくか。


「そのアリスさんとシロを置き換えて考えてみろ。シロが無責任な男に手を出されたらどうする?」


「男を殺すよね」


「うん、殺すな」


 クロも俺も、一瞬も迷わない。

 ふたりとも殺意が漏れてしまったようで、シロと交渉中だった大きなドラゴンが『びくり』と震えた。


「だからな。クロが無責任な男じゃないと証明する必要があるんだよ。クロ、お前は『モンスター狩り』として名声も実績も実力もある。それを義理の親父に証明できないってのは、夫や親になる男としては恥ずかしいぜ」


「むう。分かった」


 これで説得完了だ。

 ほっと息を吐いた俺に、マリーとシロのあまり友好的ではない視線が突き刺さった。


「あなた。無責任に手を出したクロを叱るのではなかったのですか?」


「これじゃクロが絶対に調子に乗るよ。そのアリスさんだけじゃないって、あたし、言ったよね」


「あ……」


「くぅん」


 男ふたり、女性陣に説教されていた。



  ☆



 バトルアックスの野郎は木にも強い。

 太い幹も根も徹底的にズタズタにして、金で雇った集団(人類が劣勢だったときに生じた難民も多い)に運ばせる。

 既に遠征というより、超大規模開拓事業かもしれない。


「しかしドラゴンまで住み着いてるとは、この奥には何があるんだ?」


「知らないで済むならその方がいいと思うぞ」


 俺はバトルアックスの野郎に端的に答えた。

 察した野郎も、俺と似たような渋い表情になる。


「政治と宗教には関わりたくねーな」


「同感だ。旨い汁を吸えるときは別だがな」


「アリタがこれまで巻き込まれたトラブルの数を思い出せ。その旨い汁を我慢できる程度のトラブルだったか?」


 俺は、前世を思い出してからのあれこれを思い出す。

 楽しくはあったが、苦労の結構な数……いや、可能な限り他人や神殿に投げたが、苦労が多いな。

 マリーとの出会いがなければ、途中でシロとクロを連れて、確実に街から逃げ出していた。


「ほれ見ろ。普通はできねーんだよ」


 バトルアックス使いは次の大木へ向かう。


「父さん、なにたそがれてるの?」


「親父! メシ! 早く!」


 シロとクロが迎えに来る。

 今日は珍しくマリーが料理を担当している。

 マリーはおかみさん(宿を高級店に改装してボロ儲け中)に料理を習ったが、おかみさんとは違いつまみ食いを絶対に許さない。

 だからシロとクロは俺を野外厨房まで連れて行って、俺のついでの『試食』したいのだろう。


「分かった。今行く」


 それだけ苦労したかなんてどうでもいい。

 俺は今、家族とともに立っている。

 家族を守るために戦う。

 それだけだ。

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