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平和な日常と、育ちすぎた手下たち ~シロが『レベル9』になり、女将軍からは『責任とれ』と恨み節が届いた~

 平穏な日常こそ幸せという言葉には心から同意する。

 だが、パワーレベルングと夫婦生活と家庭生活と老シスター(この街の首席異端審問官)の傀儡生活を並行して行うのは、常識外の耐久力を持つ俺でも大変だった。


「『禁域』の調査許可が出ましたね」


 そう言うマリーは、初めて会ったときよりも艶々している。

 特に色っぽい話ではない。

 食事の量と質の改善と、最近神殿傘下の店で売り出されたリンスやシャンプーや化粧品の効果だ。

 『昔』の人間も馬鹿ではない。

 『未来』の情報の断片があれば、しかも権威と権力と財力を兼ね備えたパトロンの庇護があれば、『チート持ち』ほどではないが高速での開発が可能だ。

 いや、可能であると証明された。

 実際に出来上がった商品の性能を確認したときの、異端審問官たちの『ほっとした』ような『拍子抜け』したような表情が、今でも目に焼き付いている。


「ようやくですよ、本当に」


「あら。季節が一巡するだけで済むなんて、とっても早いですよ、あなた」


 幸せそうなマリーを見るのが、俺にとっての一番の幸せだ。

 マリーたち家族を支えるために働く気力がいくらでもわいてくる。


「うおおおっ!」


「シロさますごいっ!」


「やりやがった! レベル9だっ!」


 門は『まだ』再建されていない。

 いや、『もう』再建する必要がなくなったのだ。

 神々の加護を得た『戦士』や『魔法使い』だけでなく、半年くらい前から現れるようになった『斥候』や『神官』などが集うこの場所は、あらゆる城塞都市より堅固に守られている。


「ところでクロさんは?」


「ほら、装備の差が」


「クロさんって最近ちょっと太ってるから」


「お前、『モンスター狩り』の男に細さを求めるのはやめろよ」


「クロの兄貴は太ったんじゃなくてムキムキになったの! 筋肉がついたんだよ!」


 かつて見た浮浪児じみた新人冒険者たちとは違い、新人の『モンスター狩り』たちは華やかで実用的な装備で身を固めている。

 シロやクロの作業着も「聖女マリーゴールドさまに次ぐ実力者がいつまでも貧乏くさい格好はやめてくれ」と神殿から強い要請があってスタイリッシュなものに変わった。

 いや、本当にスタイリッシュとしか言えないんだ。

 ライトノベルで主役を張れそうな格好なんだからな。


 そう。

 シロもクロも俺を超えた。

 まあ、手段を選ばないなら一年前でも『落とし穴を掘って、そこに俺を突き飛ばしてから土で埋める』だけで俺に勝てただろうが、それはそれだ。


「父さん! またひげ剃りさぼってる。……さぼってるお」


 書類カバンを肩から下げ、腰には『刀の形に成形された魔法金属製武器』を下げたシロがやって来る。

 徹底的に手入れされた白髪と鋭い美貌の組み合わせは、男だけでなく女も惑わせる魔性としても有名だ。


「別に言い直さなくていいだろ、シロ。そういえば最近親分と呼ぶの忘れてないか?」


「気づくの遅いよ」


 背が伸びて美しく育っても、俺に呆れた目を向けるときの表情は以前と変わらない。


「シロ。おひげも、いいものですよ」


 マリーが、世界の真理を語るかのようにシロに告げる。

 シロは「ない方が清潔を維持しやすいよ」と実用一辺倒な回答だ。


「忘れないうちに渡しておくね。これコレット将軍から」


 書類カバンから厳重に封印された封書を取り出す。

 封書に記入された場所は、早馬でも数日かかる距離にある城塞都市で、日時は昨日。

 シロが『チート』じみた『実力』で運んできたのだ。

 戻ってきてから俺へ直接渡さずレベル測定していたのは、俺とマリーが会話する時間を少しでも長くするためだろうな。


「助かる。……初っ端から恨み節か」


 コレットはもともと知的エリートであり、その上で『戦士』の力を得た。

 つまり、神殿視点でのコレットは『士官候補』になった。

 それからはトントン拍子だ。

 コレットを『群れの一員』扱いするシロとクロから情報やコボルトの支援を受けたコレットは、神殿の中で活躍した。本当に活躍した。


「正規ルートで出世しようとしたら、犬獣人と家族でない方がいいですから」


 マリーは寂しそうだ。

 コレットを第二夫人にする気満々だったからな。


「コレットは父さんのお手つきあつかいされてるから……」


 シロが肩をすくめる。

 俺が指一本触れていないのを知っているのは家族と異端審問官連中だけ……いやかなり知ってるな。

 多少改善されたとはいえこの世界の価値観は『古い』から、持ち込まれる縁談の質が地位の割に酷くなり、その結果が『命令書』に混じった『恨み節』だ。

 「責任とれ」と書かれても、困る。


「やはり群れに迎え入れましょう」


 俺と寄り添って『命令書』を読んだマリーが真剣な顔で言う。


「マリー、神殿の超エリートを引き抜いたら今度こそ暗殺者を送り込まれるよ。だから落ち着いて、ね?」


 俺はマリーを宥めながら移動する。

 もとからある城塞都市よりも『街』らしい外見だ。

 周辺のモンスターはほとんど狩り尽くしてしまったから、普段は激戦地区で戦っている連中の保養地兼、新人『モンスター狩り』の訓練施設兼、俺の前世知識由来の製品の生産場所になっているのだ。


「じいちゃんこれちょうだい!」


「あたしこれっ!」


 『モンスター狩り』を目指して訓練中らしいお子様たちが、見覚えのある爺さんの屋台に群がっている。

 なお、見覚えがあるのは爺さんだけで、屋台は新型の『軽いのに頑丈』な奴だ。

 バイトとして雇われたらしい『戦士』の警備までいる。


「おまけだ」


「ありがとう!」


「ありがとうございます!」


 孫を可愛がっているつもりかよ。

 この爺さん、積極的に俺に出資して、死ぬまで贅沢三昧しても使い切れない金を稼いだからか、好き勝手やってやがる。

 まあ、これも良い老後って奴だろう。


「リック! いるか!」


 マリーとシロを連れて向かったのは、リックたち皮なめし職人の仕事場だ。

 俺の知識をもとに神殿のエリート連中により考案され、リックたちが元冒険者の怪我人などを集めて作った工場でもある。


「先輩が直接来るとは珍しいっすね」


「相談があってな。モンスターがまだ残っている場所へ遠征する予定がある。体力のある職人を何人か派遣してくれないか」


「なら俺が行くっす!」


 俺はまたたきをする。

 健康的に見えるリックだが足に後遺症があり、無理して動けば後がキツイはずだ。


「モンスター素材は街の外から入ってくるっすけど、運ぶ手間の分高くつくんっす。遠征じゃなくて拠点を作るのが目的だと行くっすよ!」


 リックはここまで勘が良かったか?

 いや。

 職人として、経営者として、俺とは違った形で成長したとみるべきか。


「詳しく相談していいか?」


「もちろんっす!」


 『禁域』への遠征に出発する、数日前の出来事だった。

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