聖女と『家族』の話をした直後に、双子の『実父』の悪巧みが判明した件 ~俺たちは幸せになるが、毒親の野望は物理で粉砕する~
「モンスターがいない?」
俺は予想外の報告に混乱した。
モンスターってのは前世のゲームのようにリポップはしない。
しかし他の縄張りから移って来ることはあり、アホみたいな数殺してからじゃないと、モンスターがいた場所を開拓なんてできない存在のはずだ。
「モンスターも生き物だお。絶対に勝てないなら縄張りを移すくらいすると思うお」
シロは平然と言って、几帳面にまとめた報告書を渡してくる。
俺が教えた地図の描き方を、俺より上手に実行した地図までついている。
「コボルトの数が部族単位になったのか」
この地域はこの部族の担当とか、色々書き込んでいるのに分かり易い。
これが『地頭』が良いってことかね。
「アレのスパイが少し混じっていると思うお」
既に「負け犬」とすら呼ばずにアレ呼ばわりだ。
事実上の育ての親である俺に配慮して、ってわけではない。
「他人への悪意は癖になるからほどほどにしとけ」と言い聞かせているのに「これだけは譲れないお」と「あうぅっ!」という反論で押し切られた。
あの負け犬野郎、シロとクロに何をやらかしやがったんだ。
「対策は?」
「この群れを見て従う気にならないコボルトがいたら、それはもうどうしようもないお。まともな部族なら『教育』か『排除』するはずだお」
「シロとクロの部下だ。好きなようにやれ。ただし、面倒くさい状態になる前に俺に教えろ」
「でもあたしたちの部下だお」
「今はまだお前もクロも俺の部下だろうが。利用できるうちは上司でも親でも利用しろ。いいな?」
「父さんって甘いお」
『むう』と喜んでいるような落差に落ち込んでいるような顔をしたシロは、報告を切り上げて出かけてしまった。
俺が、シロの態度をどう受け取るべきか悩んでいると、怪我人の『治療』を終えて戻ってきたマリーが『くすり』と笑った。
「シロは甘えん坊ですね」
「かなり突き放しているつもりなんですがね」
「アリタさまは冗談好きですよね。……子供がうまれた後が今から心配です。犬獣人の子育ては厳しいか冷淡なんですよ?」
マリーの態度が多少ふてぶてしくなっているのは、まあ、そういうことだ。
なお、まだできてはいないというか、体調の変化はないらしい。
「効率的なレベルアップの知識が日々更新されていますからね。犬獣人に限らず、子育ての仕方も変わっていくと思いますよ」
子供か。
全力で甘やかしてやりたいが、そんなことをすれば間違いなく駄目にする自信がある。
時代のせいかどうかは分からんが、もともと男尊女卑の傾向がある社会だ。
俺は『怖い父親』を演じて、マリーやシロやクロに『優しい家族』を担当してもらうかねえ。
「子供は大勢ほしいです!」
マリーは力強く言う。
相変わらず纏った光は強いが、俺に対する敵意は弱く……本当に少しだが弱くなっている気がする。
「安心して育てられる環境を用意するのも男の甲斐性です。そっちも頑張りますよ」
「そっち『も』だなんて、もう!」
超高速で放たれた照れ隠しのパンチを笑顔で受ける。
マリーは飛び抜けて強く、良くも悪くも神殿に純粋培養で育てられたので、悪意なしで暴力が飛んでくる。
本人にとっては悪意も敵意もない日常動作なのが本当にタチが悪い。
子供ができる前に、駄目な癖は直していかないとな。
「この件は夜に話しましょう。……シロが持ってきたこの報告書ですが、ちょっとまずいかもしれません」
マリーに報告書を手渡そうとする。
が、マリーは俺の気配から察した時点で、俺の横へ瞬間移動じみた速度で移動して報告書を覗き込む。
当然のように、横からぴったり密着していた。
「一回のパワーレベリングにかかる時間が増えますね。しばらくは問題ないでしょうが、移動に時間がかかりすぎると組織全体の負担が増えます」
マリーは政治から遠ざけられていただけで、頭がシロやクロと同等か、それ以上に良い。
毎回俺が詳しく解説しているうちに、すっかり『賢く』なった。
なのに調子には乗らないんだから、前世という『チート』がある俺とは違って本当の意味で賢いのだろう。
「モンスターが無限に湧いてくる場所があるなら、その近くに移住してもいいですね」
俺は、冗談のつもりで言った。
直後に『なんでご主人様が知ってるの!?』という顔になったマリーを見て、俺は失敗に気付いた。
「……一度、聖女になるための修行中に見たことがあります。神殿から、決して近づかないよう言われていた『禁域』の奥です」
「聞かなかったことにしたい情報ですね」
俺はふと気付いた。
マリー個人が特別優れた才能を持っているのは間違いない。
だが、マリーだけが才能を持っているとも思えない。
何かがあったのだ。
「マリーが聖女になれたのは、そこでモンスター狩りをしたからですか」
「はい。ですが、今思えば狩りと呼べるものではありませんでした。その頃は、同期が全員死んで、自棄になっていましたから」
無意識にマリーが預けていた体を、できるだけ自然な形で受け止める。
こういうとき、毎日体を鍛えていて良かったと実感できる。
「ただいま!」
階下でおかみさんに元気に挨拶したクロが、速度を緩めず階段を駆け上がり、戦闘装備のまま部屋に入って来る。
マリーは特に気にした様子はない。
高レベルの犬獣人の五感により、遠距離からお互いを認識していたのかもしれない。
「おうお帰り」
クロは雑に頷き、帰路で買ったと思われる『飴がたくさん入った袋』から複数飴を取り出し『噛み砕く』。
そして、背負っていた『箱』を机の上に降ろし、中から小さな部品を慎重な手つきで取り外していく。
「……クロ、最近そればかりやってるが、何をやってるんだ」
「んんっ(きかい)!」
「そりゃ確かに機械だが、なあ」
俺もガキの頃に親に詮索されるのは、心底嫌だったからな。
戦闘にも生活にも特に影響しないことを詮索するのはどうかと俺が思っていると、マリーがまるで戦闘時のような緊張をしているのに気付いた。
「クロ。それはどこで手に入れましたか」
クロが慌てて立ち上がる。
群れのナンバーツーであり、同族の圧倒的強者であるマリーからの真剣な問いに、それ以上に真剣に答える。
「俺、実の親父、亜人連合、ばらまいてる道具」
「負け犬野郎が亜人連合の兵士(有力種族のみ)に提供している道具です」という意味だと思う。
「実の親父」と言う瞬間、シロとよく似た嫌悪の表情を浮かべていた。
「アリタさま。『禁域』の奥で、よく似たものが散らばっているのを見ました」
第一次大戦やそれ以降の機械の『部品』か。
前世知識チートではなく、チートな装備がもとからこの世界にあったのか?
「一度調査に行く必要があるかもしれませんね」
神殿との交渉は極めて困難だろうが、放置するのは絶対にまずい。
簡易の通信機がばら撒かれるだけでも、少々の戦力の差など簡単に逆転されてしまう。
「しかし、あの負け犬野郎、刀で襲ってくるより手強い真似をしやがる。マリー個人には勝てないと判断して陣営全体の強化に走ったか」
前世なら称賛されただろう。
だがここは前世から見れば『古い』価値観の世界だ。
俺がデカイ顔をできるのも、体を張ってモンスターと戦い続けた上で、パワーレベリングという成果も出しているからだ。
亜人連合の強者が、マリーとの戦いから逃げて作ったものをばらまいても、実際にそれで戦況が亜人連合有利になっても評価されるか?
「奴が亜人連合内で評価を高める前に、仕留めたいもんだが……」
奴を殺すための具体的作戦は思い付かない。
だが、今の俺には頼もしい家族がいる。
知恵も借りて、力も借りて、必ずぶっ殺してやるさ。




