『ギルド長』扱いされていた件 ~「レベルとは往復回数のことだ」と教わり、文句を言う役人は「戦力(物理)」で黙らせた~
シロとクロが激しい競り合いを続けている。
ふたりの速度とフォームは短距離走のそれで、しかし走り出してから既に数分。
それぞれ『刀』と『投擲用の鉄』を装備し、防具は革の帽子と革の作業着で共通だ。
「シロさんがんばれー!」
「抜けー! クロー!」
『沿道』には最近戦い始めたばかりの人々が群がっている。
緑(戦士)や赤(魔法使い)の光を纏っている者も結構な割合でいて、純粋な武力としてはレベルアップしていない軍隊に匹敵するかもしれない。
パワーレベリングの際に護衛をしていたシロやクロへの好感度は高く、その応援にはちょっとびっくりするほど熱が籠もっている。
……娯楽が少ないからかもしれん。
「負けるかぁ!」
「あうーっ!」
シロとクロが加速する。
地面を蹴るたびに爆発するかのような爆音が響き、道に小さくない穴が開いていく。
スタミナを温存していたシロが頭ひとつ前に出たのは数秒の間のことで、直後に凄まじい形相のクロに追いつかれた。
こういう表情をしているとクロは実父(負け犬)似で、シロはおそらく母親似だな。
普段の言動と表情は「お前そっくりだろ」とバトルアックスの野郎に言われている。
「時間切れです!」
孤児院出身の『棒使い』(孤児院のお子様たちの一人)が旗を振って時間切れを宣言する。
シロは悔しげな表情で徐々に速度を落とし、クロは減速に失敗して転んで派手に『スライディング』していった。
「あと少しでレベル7だったな」
バトルアックスの野郎が大物じみた態度でコメントする。
実際、大勢の『モンスター狩り』を部下にしているので大物ではあった。
「レベルって何だよ」
俺は思わず突っ込んでしまう。
ステータス画面も見えないし、神々に祈っても現在レベルも必要経験値も教えて貰えないんだぞ。
バトルアックスの野郎は『分かっていないな』と憐れむような視線を俺に向けてから、興奮冷めやらぬ観衆にも聞きやすい大声で語り出す。
「門の跡から皮なめし工房……最近ここに来た奴は『買い取り所』の方が分かり易いか? とにかくそれを何回往復できるかって『数』だ」
この野郎、解説役ポジションでも手に入れるつもりか。
だがまあ、冒険者ギルド相手にどう揉めたとかいう陰気で陰惨な話をするよりはずっとマシだ。
俺はのってやることにした。
「走力の指標にはなるが『レベル』ってのは何なんだよ」
「まあ待て。白い嬢ちゃんと黒のクソガキをよく見てみろ。モンスターと戦うときと同じ格好だろう?」
帽子も作業着も、最初に俺が買い与えたものとは素材が変わっている。
パワーレベリングではない遠征で狩った希少モンスターの皮を使った、斬撃にも打撃にも衝撃にも強いインチキくさい性能の『装備』だ。
「実際の戦闘では、敵と殴り合うことより、敵を追いかけるのと敵から逃げるのが重要だ。俺たちがするのは決闘じゃない。狩りだ。勝てる状況に持っていくのも、楽に勝てない状況から逃げるのも『走る力』次第だ。だから、砂時計の時間で何往復できるかってのが重要なのさ」
「レベル差がありすぎる組み合わせを避けるためか」
「分かってるじゃねえか! 殺し合いの強さが知りたいなら『モンスター狩り』は辞めて傭兵にでもなっちまえ。俺たちゃモンスターを狩って社会を豊かにする『モンスター狩り』だぜ!」
ガハハと笑うバトルアックスの野郎は、頼れるベテラン冒険者、いや、ベテランの大物『モンスター狩り』に見えた。
実際、部下たちに足止めさせてから、危険を冒してバトルアックスで接近戦を挑んでモンスターを狩り続けて生き残っている凄腕だ。
「それだと俺はまだレベル2か」
俺は一昨日にぎりぎり二往復できた。
今朝が一往復と半分だったのは、マリーと、まあ、体力を使う色々があるからだ。
「『ギルド長』は特別枠だろ。……というかだな、お前の頑丈さで今の体制が成り立ってるんだから普段から護衛をつけてろ。恭順派(亜人に尻尾を振る派)どもはお前の首に金貨何十枚って賞金をかけたって聞くぜ」
「安いなあ」
「一昔前なら大金だったがな。今じゃ稼ぐ金も出て行く金も馬鹿みたいに増えやがった。若手に大量のメシを食わせる慣習がなければ多少はマシだったんだぜ、『ギルド長』さんよ」
「はっ。手下にメシもおごれない奴がデカイ顔するなってことだ。食わせた分、体が大きくなって強くなるのを見るのは楽しいだろ?」
「限度を考えろってんだ! 余所の街や村から来たガキなんて、最初は腹壊すこともあるんだぞ! お前の家族を基準にするな!」
マリーもシロもクロもとにかくよく食べる。
それでも太らないのは、脂肪として貯える前に超人的な身体能力を発揮するために使われてしまうのだと思う。
「基準にはしてないだろ」
「若手最強の二人組と聖女さまの影響はそれだけデカイんだよ! しかもお前がいいものばかり食わせているのが知られてるから、手下に奢るときに普通の内容だと舐められるんだよ! 金が、儲けが、消えるんだよ!」
バトルアックスの野郎の調子が以前の感じに戻ってくる。
これは、本気で困ってるな。
「大規模食堂でも整備するか? 共同購入すれば調味料や野菜の値段も抑えられるはずだ」
「買い占めると街のお偉いさんがうるさいぜ。そっちの面倒ごとを『ギルド長』が引き受けてくれるなら、俺も協力するけどよ」
毎回思うんだが『ギルド長』って何なんだ。
俺は神殿から依頼されて『戦士』や『魔法使い』の志願者や『モンスター狩り』の面倒を見ているだけの下請け業者だぞ。
「今日、街で会議があるから話を通しておく。午後のパワーレベリングは遅れるかもしれん」
「……お前も『レベル』って言ってるだろうが」
「……そういえばそうか」
一本取られた俺は肩をすくめる。
俺とバトルアックスの野郎の寸劇を見て満足した観衆は、街周辺のモンスターを狩り尽くす勢いで活動を再開するのだった。
☆
「止めろと言っているのではありません。既存の体制との連携を考えろと言っているのです!」
街の衛兵長だか兵士長だかいう人間が会議で騒いでいる。
俺がモンスターを初めて狩った後に俺に便宜をはかってくれて、街の防衛戦で戦死したあの兵士と比べると、言動があまりにも醜い。
「そのあたりのことを決めるのはお貴族さまや神殿の方々じゃないですかね」
俺はこの会議に神殿側として出席している。
老シスター(この街の首席異端審問官)は本来は表に出ずに活動する立場なので、俺が傀儡として出ているわけだ。
『ここまでは譲歩してよい。あれは絶対に確保しろ』という雑な命令しか出されていないので、傀儡の割に自由にさせてもらっている。
「あなたは神殿の代表として参加しているのではないかね?」
表面上は礼儀正しいが、もとはただの冒険者だった俺を舐め腐っているのが分かる。
俺個人ならこの場だけ卑屈に応対しても良いが、マリーの旦那としては舐められるわけにはいかんのだ。
俺はにこやかに微笑む。
パワーレベリングが減速するだけでも今の戦線は崩壊する。
『戦士』も『魔法使い』も大部分は『モンスター狩り』として活動している。
対亜人連合戦に参加している少数の『戦士』と『魔法使い』は、既に敵味方誰も無視できない活躍をしていた。
「パワーレベリングについて最も良く知る者として参加させてもらっています」
俺に無駄な時間を使わせるのは人類の足を引っ張るのと同じだ。
お前は『恭順派』か?
「っ……。アリタ殿の御貢献は、十分に理解しているつもりです」
俺の言外の脅迫を理解した奴が、怒りを腹に押し込めて譲歩する。
俺に対する暗殺フラグが立ちまくっている気がするが今さらだ。
冒険者ギルドなんて明らかにヤる気だしな。
「ありがとうございます。俺も皆さんの役に立ちたいと常々思っていますよ」
まずは味方を増やす。
次は敵の数を減らす番だ。
政治的にも、物理的にもな?




