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拡声器を持った『裏切り者』が演説してきた結果 ~マリーが音速の投石で黙らせ、近代装備の騎兵隊が石ころで全滅した~

「親分」


 シロが緊張した顔で俺に話しかける。

 俺にしか聞こえない……少なくとも俺以外の人間には聞き取れない音量だ。


「犬獣人の集団が東の開拓村へ接近中だお」


 コボルトによる偵察結果だ。

 シロの脇には実際に偵察してきたコボルトが控えている。

 毛並みはツヤツヤだ。

 温かな食事(モンスター肉が中心)と安全で温かな寝床(モンスター革製のテントとモンスター毛製の毛布のおかげ)の効果は大きく、忠誠心も能力も今でも上昇中らしい。


「敵側のコボルトは?」


「もう偵察は任されていないお。重要な仕事は全部犬獣人がしてる」


 俺の口元が邪悪な角度に釣り上がる。

 コボルトの立場向上を嫌って仕事を独占したか。

 コボルトが犬並みの速度で数を増やすならともかく、人間とそう変わらないんだから有効利用すればいいものを。


「朗報だ。亜人どもの連合……もう亜人連合でいいか。奴らの『目』や『鼻』はシロとクロ(配下込み)に劣るってことだ。有利に戦えそうだな、えぇ?」


 シロの口元も釣り上がる。

 ふたり揃って似たような表情になってるんだろうな。


「奇襲はできると思うお」


 シロはやる気だ。

 マリーを筆頭に、俺、シロ、クロ、お子様たち、そして『魔法使い』や『戦士』がいるんだから勝利は確実で被害だって少ないだろう。


「犬獣人を一人も逃さず殺すのは難しいだろう。『魔法使い』や『戦士』の存在はまだ伏せておきたい。負け犬を舐めるなよ。奴は『知識』持ちで才能はお前らに近いはずだ」


「あいつ、クソ面倒くさいお」


「同感だ」


 うんざりした表情のシロに本心から同意する。

 奴にはまだ奥の手があるはずだ。

 生物や化学を悪用した毒を、水源地などへの攻撃を奴が使い始めれば、人類は戦いにすらならずに滅びる可能性がある。

 俺があの老シスターをある程度ではあるが信用しているのは、そういう本当にヤバイ知識を知った上で封印を選択しているからだ。

 もっと不利になればどうなるかはわからないがな。


「コレットさん」


 俺はシロを連れてコレットのもとへ向かう。

 コレットは、太陽が雲に隠れているときにかろうじて分かる程度の淡い緑の光をまとっている。


「はい、ええ、あの」


 コレットは困惑しきりだ。

 『戦士の加護』が与えられた結果、腕力や体力がいきなり跳ね上がったらしい。


「文官から戦士への転職を考えるのは、街に戻って安全な場所でゆっくりしながらでいいと思いますよ。他の皆さんもね」


 俺が丁寧に接するのは『加護』を得た神殿関係者だけではない。

 『加護』を得なかった連中も、神殿で教育されたエリートであると同時にレベルアップした戦力なんだ。

 コネと文武の両方を持つ奴らを軽視するのは馬鹿だぜ。


「あの、がんばります?」


「ええ、お互い色々大変ですが頑張りましょう。なあに、この調子で頑張れば亜人連合……んんっ、亜人どもなんて簡単に押し返せますよ。慎重にやれば、ですがね」


「……はい。そう、ですね」


 コレットは冷静になれたようだ。

 俺の意図を察して、おそらく同じ場所で学んだであろう連中に話をしに行った。


「シロ。街の神殿と、犬獣人が近付いている開拓村へ、犬獣人の接近を知らせろ。神殿にはシロが直接行け」


「ん。開拓村は逃がす?」


「多少の備えはあるはずだ。頑丈な家屋に籠城させろ。俺とクロで迎撃に向かう」


「わたくしも参ります!」


 俺の言葉を遮るように、マリーが自己主張する。

 最初出会ったときよりも濃く強くなった金の光が、俺の肌をちくちく刺す。

 これでも『好意的』になっている。

 俺ならマリーと仲良くなれるが、俺以外なら下手すりゃ死んでるぞ。

 なお、下心がないなら無傷だ。


「マリーさんの顔を見たら怯えて逃げそうですね。じゃあクロは残りを引率して街へ戻れ。いいか、途中で美味しい獲物を見つけても手は出すなよ」


「あう?」


「誤魔化そうとするな。どうしても狩りたいなら目印でもつけて後で狩れ。いいな」


「わかった!」


 クロも人間の言葉が使えるようになったので、やりやすくなった。

 その分生意気にもなってはいるが、この歳ならまだこれでも大人しい方だろ。


「マリーさん」


「はい!」


 マリーは『御主人様とふたりきりで嬉しい大型犬』の態度だ。


「シロとクロと合流する前に、俺が少しでもおかしくなったら、問答無用で俺を連れて下がってください」


「はい! 理由は教えて頂けますか!」


 俺を信頼した目でまっすぐに問いかけてくるのが『いちゃいちゃ』すること以上に心地よい。

 信頼と尊敬を向ける相手から信頼(信頼してるけど意味は分からないから教えて!)されるのは、最高だ。


「知識や技術だけでなく、特殊能力の面で俺の上をいっている奴がいるかもしれません。念のためです」


「分かりました。絶対にお守りします!」


 気合いを入れたマリーから金色の輝きが広がり、俺の髭や髪が少しだけ縮れた。



  ☆



「親分の親分、こっちです」


 コボルトが俺に従順なのか従順なふりをしているだけなのか、俺には分からない。

 ただ、マリーに向ける視線が神話の英雄や民族の英雄に向けるそれなので、少なくともマリーの敵にはならないと思う。


「ご主人様。普通の犬獣人と様子が違います」


 開拓村に『行軍中』の犬獣人はちょうど二十名。

 革鎧で帯刀しているのは以前見かけた犬獣人どもと同じだが、背負っている装備の見た目も雰囲気も違う。

 銃がないだけで第一次大戦あたりの兵士っぽい。

 明らかに俺より軍事や技術に詳しい『知識』または『チート』持ちが敵側にいる。


「ありがとうございます。マリーさん」


「ご主人様。ここは身内と部下しかいません」


 マリーが可愛らしい表情で不満を表明する。

 近づくと見上げる必要があるほど大柄だが、こうしていると幼い印象すらある。


「奥さん相手にも敬意は重要ですよ。マリー」


「……もうっ」


 照れ隠しで胸を(マリー視点で)軽く押されただけなのに、一瞬息が物理的に詰まった。

 マリーもレベルアップして強化されてるってことだ。


「じゃあいきますか」


 俺は大きく息を吸う。


「おーい、そこの犬獣人! それ以上進んでも人間の村しかないぞ? 取り引きする目的ならもっと武装と人数を減らせ。それとも略奪目的かぁ?」


 俺が言っている途中でマリーが俺を脇で抱えた。

 視界が九十度変わるだけでなく、文字通り飛ぶように視界が動く。


「ご主人様の目が『とろん』としました。強力で特殊なモンスターの影響かもしれません」


「本当にありがとう、マリー」


 形だけでなく心からの感謝を口にして、俺は目をこらして周囲を見る。

 移動中だった二十人の犬獣人とは別に、シロの『六本足』ではない六本足のモンスターが複数見える。

 そのどれにも、犬獣人ではなく人間が乗っていた。


「女に抱えられて逃げるとは無様よな! 貴様がチートを悪用するアリタという冒険者か!」


 声が大きい。

 まるで拡声器を使っているかのような大きさだ。

 無視して撤退して、追ってくれば迎撃してもよかったんだが、マリーの機嫌が急降下したことに気付いて俺は『会話』することにした。


「そういうあんたは他種族に尻尾を振る同族殺しか。どーせ『野蛮な人間に鉄槌を下す』とかなんとか言ってるんだろうが、やってることは同族が使うはずだった資源や知識を強者に差し出す裏切り者だわな」


 この手の奴が『自分の力で手に入れた物のみを持って余所へ行く』ことは滅多にない。

 だからカマをかけたんだが、俺の予想は的中していたようだ。


「貴様こそ神殿に尻尾を振る飼い犬だろうが!」


 声が裏返りかけたな。

 平然と鼻で笑うような奴には通用しないが、これなら俺の話術もいけるか。


「この世界の一般的な人間と言ってほしいね」


 マリーに目配せする。

 即座に頷いたマリーは俺を降ろし、少し遅れて合流したコボルト(シロとクロの部下)と協力して周囲から石を拾う。


「聖女マリーゴールド! 我々と共に来るがいい。人類と犬獣人、否、すべての知性持つ者が平等に生きる世界を建設するためっ」


 マリーが振りかぶって、投げた。

 投球技術はクロより劣るが、身体能力が比喩でなく桁違いだ。

 音速超えの豪速球が、メガホンを手に俺と舌戦を繰り広げていた人間に直撃し、吹き飛ばした。

 当然、『裏切り者』の口上も強制終了だ。


「頭から落ちたか。御冥福をお祈りするぜ」


 マリーの投球は止まらない。

 コボルトから渡された石を投げるたびに、おそらく『チート』な武装をしていただろう騎馬兵が落馬し大怪我か戦死していく。


「どうせマリーを捕らえるために罠か何かをしかけてたんだろ? 誰が近づくかよ」


 俺が下品なジェスチャーをしている間に、六本足(推定ロボトミーされたモンスター)全てが騎手を失う。

 残った徒歩の犬獣人は、頑丈な囮である俺と、圧倒的な強者であるマリーに、抵抗もできずに全滅した。

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― 新着の感想 ―
>コレットは、太陽が雲に隠れていないときにかろうじて分かる程度の淡い緑の光をまとっている。 文章の流れとかろうじてレベルでしたら「太陽が雲に隠れているときに」かなとも思ったのですが、いかがでしょう。 …
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