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新人が死にまくる『ダークファンタジー』を終わらせる ~神殿の戦力を『パワーレベリング』で強化して、世界をライトに変えてやる~

「髭がうっとうしい」


「髭より眉じゃねえか? 俺より山賊みたいなツラってのは初めて見たぜ」


 ガキどもを率いて狩りから戻ってきたバトルアックス使いが、俺の顔を見ての第一声だ。

 そして、ドラゴンの死体に気付いて歓声をあげる。


「聖女さまが仕留めたのか!」


「ごしゅっ……アリタさまと一緒に仕留めました!」


「……おいアリタ。もう手遅れだから『手を出すな』とは言わんが、聖女さまに妙な趣味を植え付けるなよ」


「俺にその手の趣味はない!」


 敬意と愛情の両方を向け合える関係が、一番無難で一番幸福に繋がると思っている。

 平凡と言われてもチキンと言われても構わん。

 俺は少し特徴があるだけの、平凡な男なんだ。


「しかし派手に燃えたな。さすがドラゴン。……おいお前ら、ぼんやり見てないで消火を手伝って来い!」


「でも、荷物がいっぱいっす!」


「皮なめし職人の連中に全部渡してからにしろ! おら急げ!」


「へい!」


 バトルアックスの奴もすっかりパーティーリーダーが板についてきたな。

 数を考えるとクラン長か。


「しかし、この状況で金札連中が出てこないとは思わなかったぜ。何を考えてるんだか」


 バトルアックス使いは苛立っている。

 俺とは違って冒険者稼業に思い入れがある奴だ。

 街のピンチに動かないのが信じられない、いや、信じたくないのかもしれない。


「金札ならドラゴンに勝てたか?」


 俺が質問すると、バトルアックス使いは考え込んだ。


「分からん。どいつも奥の手は隠してやがる。どこまで本気で戦うかも、分からん」


 バトルアックスの野郎は心底不愉快そうだ。

 乱暴だし人の扱いも雑な奴ではあるが、冒険者という存在に夢を見ている奴でもある。

 住んでいる街を守ろうともせずに引き籠もる金札冒険者を冒険者扱いする気はないのかもしれない。


「マリーさんは関わらない方がいいでしょう。おそらく、冒険者個人ではなく、冒険者ギルドが関わっています。いくらなんでも俺とこいつ以外誰も冒険者が出てこないというのはおかしい」


「俺の手下にも冒険者がいるぞ!」


 バトルアックスの野郎は冒険者ギルドではなく冒険者を擁護しようとする。

 もっとも、本人もその擁護が成功するとは思っていない。

 苦々しい表情をしている。


「悪かった。あんたの部下の冒険者は、格好良い冒険者だ」


「ちっ。そうだよ畜生! 冒険者は格好良いもんなんだよ! 臆病者じゃねえんだ!」


 怒鳴っているのに、泣いているように見えた。



  ☆



 ドラゴン襲撃の物理的な後片付けが済むと、俺たちはそれぞれの本拠へ帰還した。

 街の人間は街にある家に。

 バトルアックス使いのような『モンスター狩りに従事する者たち』はそれぞれの宿へ。

 俺とマリーは、いつもの宿だ。


「さすがに疲れた……」


「あいよ、茹でた布だよ」


 蒸しタオルではないがそれに近い機能がある。

 一枚目で顔や手足を拭いて、二枚目は畳んでから顔に貼り付ける。


「くあー……」


 熱が染みこんでくる。

 風呂ほどではないが、心身の回復に強烈に効くのがこれだ。


「聖女さまの分もあるよ!」


 おかみさんがマリーに手渡ししている気配がある。

 俺は二枚目の布が温くなってきたので、二枚目を外して三枚目を手に取ろうとする。


「聖女さまがドラゴンを倒したんだって? すごいねえ。アリタも役に立ったのかい?」


「はい! ご主人様と一緒に戦いました!」


「……本当かい?」


 おかみさんが疑わしげに俺を見る。

 基本的にマリーのことを信用も信頼もしているおかみさんだが、マリーが俺について発言するときは別だ。


「マリーさんが中心で俺は補佐です。飛んでいるドラゴンを地上に落とすのも、止めをさすのも全部マリーさんですよ」


「そりゃそうだろうね。アリタは剣とか弓とか使えないし」


「剣は一応使えますよ!」


 考える前に言い返してしまった。

 実際、毎日なんとか時間を作って鍛錬は積んでいるんだ。

 隣で見ていて少し剣を振っただけのシロのほうが数段上の使い手になってしまったという悲しい現実があるが。


「ただいまだおー」


 疲れた声のシロが宿に戻ってくる。

 血の臭いはしないが、疲れっぷりが尋常ではない。


「クロはー?」


「あいつはコボルトのキャンプで面通しだと。また移住者が増えたらしい」


「ドラゴンを殺した群れだお? 足を舐めてでも傘下に入りたい奴はいくらでもいるお」


「はいよシロちゃん」


「ありがとうございます!」


 シロは皿に載せた茹でタオルを受け取り、適度に絞ってから手足を拭いて、その後で二枚目を顔に当てる。

 俺自身やっていることだが、あまり格好良くはないな。


「えーっと、他に何かあったような気がするお」


 こほん、と咳払いが聞こえた。

 宿の窓から、老シスターとその護衛たちの姿が見える。

 殺意も敵意もないが、厄介ごとの気配だけは目に見えると錯覚するほど濃厚だ。


「どうぞお客さん! 入って入って!」


 面倒事は俺に押しつければ良いと考えているおかみさんが、異端審問官集団を招き入れていた。



  ☆



 茹でた布は大好評だった。

 質の良い井戸の水を煮沸して軽く塩と甘味を加えたものも好評だったので、かなり激しい活動をしていたと予測できた。


「聞かない方がいいか?」


「うん。あたしも今日のは忘れることにするお」


 シロは席についてぐったりしている。

 マリーはシロを労ってベッドに連れて行こうとしたが、シロは「話を最後まで聞きたい」と言ってこの場に残る。


「ドラゴンは人間によって誘導されていました」


 老シスター(この街の首席異端審問官)は結論を口にする。

 俺は、ため息を我慢するので精一杯だった。


「犯人についての情報、俺が知ってもいい情報ですかね?」


「自称『平等派』。他称『恭順派』です」


 正直、聞きたくないんだが。

 マリーをちらりと見ると、全く驚いていない。

 知識として知ってはいるということなんだろう。


「詳しい説明は必要ですか?」


 老シスターが俺を真正面から見る。


「マリーと一緒になりたい俺が見て見ぬ振りってのは無理でしょう。……詳しい話を聞く前にひとつだけ聞かせてください。人類と亜人、今、どちらが優勢ですか?」


「人類と亜人もどちらも統一されていませんが、この地方に限定すれば亜人が優勢です」


「ありがとうございます。自勢力が不利だから敵勢力に尻尾を振るっていうよくある奴ですね。敵の裏切りは有用でも、裏切り者は不要でしょうに」


 今の自分が不遇な理由を環境に求めるのは構わない。

 だが、明らかに『それが実現したら自分自身が破滅する』思想や主義に傾倒するのは、少なくとも俺の好みではない。

 敵国どころか敵種族の利益になることをするってのは、それほどのことだ。


「……やはり、アリタさんは最初から知っていたのでは?」


 いや知らないって。

 前世に似たような状況や人間がいたから、それを参考にして喋っているだけだ。


「最初から知っていれば、もっと神殿に警戒されないよう動きましたよ。俺、アホみたいに怪しかったですよね?」


「怪しかったではなく怪しい、ですね」


 微笑みながら物騒なことを言う老シスター。

 ただ、老シスターを筆頭に、異端審問官から俺に対する敵意は感じない。

 神殿に利益を与え続けた効果があったかね?


「勘弁して下さいよ。俺の頭に入っている知識にそういうのがあるってだけの話です。……ところで、どの程度人類が不利か聞いても?」


 老シスターの微笑みが濃くなる。

 まずい、と直感したが既に遅い。

 黒装束のひとりがテーブルに広げた地図には、記号の読み方を知らなくても察することができる程度に人類全体が追い詰められていた。

 俺がいる城塞都市が唯一の希望って状況だ。


「こりゃ、半端な手段を使ってもどうにもなりませんね」


 冒険者ギルドも恭順派(亜人に尻尾を振る派)かもしれんな。

 亜人と人類は子供を作れるんだから『名誉亜人』にでもなる気かもな。

 人類が亜人に負ければ、人類は最悪の場合殺処分。

 『名誉亜人』も二級市民か奴隷扱いまで扱いが悪くなるだろうに。


「マリーさん」


「はい」


 マリーは緊張している。

 全身に力を込めて、いざというときは俺やシロやクロだけを連れて遠くまで逃げる気だ。


「神殿ではパワーレベリングは一般的ですか?」


「ぱわーれべりんぐ? 神殿の子たち(孤児たち)にした鍛え方、ですよね? モンスターを弱らせてから倒すのは、最終的に到達できる強さが『低く』なるので避けるべきだと教わり……あっ、これ、神殿の秘儀でした」


 老シスターの微笑みがひきつった。

 黒装束たちも知らない者がほとんどだったようで、聞いてしまった情報の重大さに動揺している。


「じゃあ、神殿の人たちの中で最終的に『高く』する予定のない人を全員、パワーレベリングしてしまいましょう」


 俺は軽い口調で言う。

 別に難しいことじゃない。

 俺はマリーと一緒になりたいし、シロやクロに対してそこそこ甘い神殿にも没落して欲しくない。

 まあ、神殿が『友好的な亜人など用済みだ』と思わない程度に、亜人勢力を残しておきたいがな。


「新人が死にまくるダークファンタジーを、新人が気楽に戦って『五体満足』で引退できるのが当たり前なライトファンタジーに変えてしまえばいいんですよ」


 ガキを一回か二回引率パワーレベリングしただけで、集団による投石でモンスターを殺せるようになる。

 引率対象が高度に組織化された神殿ならどうなる?

 少数の強者を『対抗は可能な質』と『圧倒的な数』で圧倒できるようになると思うぜ。


「やはりアリタさんは『チート持ち』と同じ場所の出身ですか」


 老シスターが、そう言った瞬間、俺は勝利を確信した。

 ここまで言って俺を排除しないというのは、つまりそういうことだ。


「俺はこの世界で生まれ育った記憶がありますよ。頭の中にある知識も、前世じゃなくて誰かか何かが俺の脳に焼き付けたものかもしれませんしね」


 俺にとって大事なものは全てここにある。

 マリー、シロ、クロ、そして俺自身だ。


「改めて提案します。モンスターを利用して神殿戦力を強化しましょう。神殿戦力強化完了後は、神殿の思想に賛同する個人や組織にパワーレベリング対象を拡大。並行して敵対的な亜人やモンスターの排除を行うというのはいかがでしょう」


「……聖女マリーゴールドの嫁ぎ先としてふさわしい活躍を、期待します」


「もちろんです!」


 歓喜で声が、裏返りそうになった。

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