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ドラゴンを討伐してレベルアップした結果 ~聖女が死体を破壊しすぎて素材が減り、街からは『子供のドラゴン』の匂いがした~

「マリー! レベルアップがまだだ!」


 普段はつけている『さん』が抜けているが気にしている余裕はない。

 明らかに死んでいても動くことがあるのがモンスターだ。

 モンスターの中でも特別に強いドラゴンが、心臓が吹き飛んでも戦い続けたとしても俺は驚かない。


「はい!」


 やる気満点のマリーの全身から黄金色の光が湧き上がった。

 マリー自身は俺に猛烈な好意を向けているのに、光が『ほんの少し』俺に敵対的だ。


「退避ぃっ!」


 情けないとかみっともないとか余計なことは考えずに、死体にしか見えないドラゴンの体から逃げ出す。

 心臓があった場所に開いた大穴から炎が吹き出した。

 ドラゴンは全身を焼きながら、肺も残っていないのに口から甲高い叫びをあげる。


「えい!」


 マリーが槍を投げる。

 初撃ほどの威力はないように感じるが、狙いの精度は明らかに増している。

 俺の目では追えない速度でドラゴンの頭部に着弾。

 ドラゴンの頭は少し揺れただけだが、槍は頭の左右に穴を開けて、穴にあったはずのものを消滅させていた。


「ぬっ」


 俺の体に『力』が湧き上がる。

 初めてモンスターを倒したときに匹敵する、体と五感が強化される感覚だ。

 一歩で進む距離で三割は増え、体の疲労も急速に消えていく。

 だが、頭を覆うドラゴンの臭気が耐え難いほど臭い!


「ははっ。やはりレベルアップはいいな!」


 テンションが上がるままに叫ぶと、口の中にドラゴンの唾液が入って、舌から脳みそへ衝撃が突き抜けた。


「えい! えい!」


 槍の投擲は止まらない。

 ドラゴンの体がもとの形と体積を失っていく。

 つまり、超高級素材もその分減っていく。


「マリーさん! もう倒せました! やめてください! やめて!」


 必死に止めはしたんだが、半分も残っていなかった。



  ☆



「聖女さま。ご無事で何よりです」


 一番に駆けつけたのは、シロとクロを除けば老シスター(この街の首席異端審問官)とその護衛たちだった。

 まだ火災が続いていて危険なのに、全く怯んではいない。


「はい。ドラゴン一体の討伐に成功しました。街の状況を教えてください」


 今のマリーは清楚で凛々しい聖女だ。

 ただし、俺に密着して離れない。

 老シスターもその護衛の黒装束たちも何か言いたげだが、長年『撃退だけでも快挙』だったドラゴンを討ち果たしたという事実が重すぎる。


「ドラゴンブレスが街に向かなかったため被害は最小限です。急報を届けた者にも感謝すべきでしょう」


 あの金貸し、態度がでかいだけじゃなく、いい仕事もするな。

 材料は俺やバトルアックス使いが提供したとはいえ、職人に無理をさせてドラゴンスレイヤー(対ドラゴン兵器)を調達した功績はデカイ。

 まあ、マリーの功績はそれよりはるかにデカイわけだが。


「意見を述べて良いでしょうか」


 俺は小さな声で発言する。

 マリーが『なんで御主人さまは低姿勢なの?』という雰囲気になっている。

 これは、神殿ブチ切れかもしれん。


「ドラゴンもモンスターの一種なので、冒険者ギルドが口を挟んでくる可能性があります。ドラゴンの死体の回収を始めてよいでしょうか。物理的な証拠があれば、より神殿のお役に立つと思います」


 あくまで神殿が上、俺が下だ。

 俺の利益を冒さないなら、という条件はつくがな。


「アリタさんも、聖女さまと戦われたのですね。前にお会いしたときとは気配が違います」


 穏やかな表情なのに目は鋭い。

 マリーは『御主人さまはすごいんだぞ』という大型犬の態度だ。

 俺は、なんとか神殿と揉めずに目的達成(マリーの寿退社)をさせようと、必死に考えている。


「囮にしかなれませんでしたがね」


 囮にはなれた。

 レベルアップや奇跡や魔法があるとはいえ中世か近世の世界で暴れるドラゴン(空飛ぶ野生の戦車)相手に、聖女マリーゴールドと同じ戦場で戦ったのは俺一人だ。

 そのことをお互い理解していることを確かめた上で、俺は舌を動かし言葉を紡ぐ。


「全ては聖女マリーゴールドさまと、聖女さまをここまで育て上げた神殿の皆さま方、そして何より……」


 マリーが纏う黄金の光をじっと見つめる。

 それが神か悪魔かそれ以外の何かの助力によるものかは分からない。

 ただ、基本的にいいものではあると思う。

 俺に対しては塩対応だがな!


「いえ、これ以上は俺の口から言うことではないでしょう。とにかく、俺の貢献の割合は小さいですよ」


 営業用スマイルで微笑む。

 割合が小さいとは言っているが功績が小さいとは言っていない。

 だが、俺の演出過剰気味の『小芝居』は、まだスレていないこの世界の人間には効いたようだ。

 マリーは目をきらきらさせているし、黒装束たちも神威だか何だかを感じ取ったかのように厳粛な態度で聞き入っている。


「本心から言っていないなら断罪すべきでしょうが……」


 ただ一人老シスターだけが『気に入らないけど使える道具だから捨てられない』という目を俺に向けている。


「親分」


 シロが音もなく近付き俺に囁いた。

 街の外ではあるが、近くに神殿の人間がいるので犬耳を帽子で隠している。


「そのドラゴンと似たにおい、弱いけど街からする。多分、子供のドラゴンだお」


「なんだと」


 営業用スマイルが崩れた。

 シロの小声を聞き取れなかった神殿の人間たちも気づく。


「勘でいい。そこのドラゴンの死体の子供か?」


 俺の問いに、シロは頷くことで答えた。


「アリタさま。心苦しいことではありますが、ドラゴンはモンスターです」


 シロクロ以上に優れた耳を持つマリーが、沈痛な表情で言う。

 モンスターならどんな相手でも倒すが、子供のモンスターと戦うのを好んではいないというところか。


「はい。俺もそうは思いますがこれは別の問題です。単に敵対している相手と、子供を攫って痛めつけてくる相手だと、どちらが憎いかという話です」


「あっ……」


「俺たちだけじゃなく、下手するとこの地方全体に影響する話です。……少し、いいでしょうか」


 内容を察した老シスターが即座に頷く。

 シロから直接話を聞いた老シスターは、微笑みはそのままに冷たい殺意を撒き散らした。


「絶滅させる準備が整っているならともかく、ドラゴンという種を無意味に刺激するとは……」


「最悪、意図的なものかもしれません」


「分かっています。この子を借りていきます」


「まだ子供です。手加減をお願いしますよ」


 シロを連れて、老シスター(この街の首席異端審問官)率いる武装集団が街の中へ戻っていく。

 その速度は、何度も強力なモンスターを倒していないとあり得ない速度だ。


「クロ! リックや職人衆をコボルトどもに呼びにいかせろ。ドラゴンの素材回収は専門家に任せる」


「あう!」


「マリーさんはこの場で待機をお願いします。ドラゴンの死体目当てに有象無象が来るでしょうから、マリーさんの威光で対抗します。実際に追い出すのは俺とこいつらでやりますので」


 クロと、クロに呼びつけられたコボルトどもが従順に『マリーに対して』頷いた。


「あの、アリタさま。わたくしは何をすれば」


 これまで現場で戦い成果をあげてきた聖女マリーが、心底困った顔をしている。

 その姿勢自体はとても好ましい。


「どんと構えておいてください。アホにアホなことをさせないためにも、ドラゴンを倒した聖女マリーゴールドがここで見ているというのが重要です」


「そう、なのですか?」


「はい」


 マリーは政治や宣伝を理解していない。

 この調子では、神殿にとどまっても利用されるだろう。

 なんとしても円満に退職させると心に決めながら、俺は『わらわら』と集まってくる街の人間を言いくるめては片付けや消火に従事させていた。

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