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ドラゴンの極大ブレスに耐えた結果 ~丸呑みされかかったが、口の中から聖女のトドメを目撃した~

 前世の最先端の兵器でも、遠く離れたものに当てるのは大変だ。

 この世界の、辺境の城塞都市にいるような職人の技術では、モンスター素材を使っても『百発百中』どころか『百発一中』だって難しい。


「アリタさま! これ、いいです!」


 そんな常識は聖女には通用しない。

 圧倒的な腕力と体力と体格が『アホみたいな連射速度』を実現する。

 鉄と鳥モンスターの矢羽でできた矢をつがえ、狙いをつけ、音速の壁を軽々突破する速度で放つまで十秒もかからない。

 最初はドラゴンの下方百メートルや上方数十メートルを飛んでいた矢も、放つたびに狙いが正確になっていって今ではドラゴンが全力で回避しても『鱗と肉をえぐる』至近弾が出ている。


「すごいお!」


「あーう!」


 シロもクロも『憧れのレジェンド選手』を見上げるような顔になっている。

 コボルトどもの方がよっぽど真面目に仕事をしていて、鈴の音を響かせながらつきあいのある人間にドラゴン襲来の情報を伝えている。


「ドラゴンとくればどでかい火炎放射か。対策はあるか?」


 俺が金貸しに聞くと「そんなものあるわけないだろ馬鹿野郎」と怒鳴られた。

 まあ、この質問は俺が悪かった。

 街を焼くような炎を防ぐのは、奇跡とか魔法とかの領分だな。


「マリーさん。ドラゴンの炎、マリーさんだけなら耐えられますか」


「はい! でも他の方を守ることはできません」


「十分です。シロ、クロ、あんた(金貸し)もだ。俺とマリーさんは街から離れながら戦うから、巻き込まれないよう財産を持って移動しろ。優先するのは俺たち、関係者、それ以外の順だ」


「はい!」


「あう!」


「神殿は関係者でいいな? 街の中は任せろ」


 どいつもこいつも察しが良くて頼もしいぜ。

 俺は、俺一人で持ち運べるだけの矢と槍を背負子も使って集め、全くペースを落とさず対空射撃中のマリーに頷いた。

 『むふー』と上機嫌な鼻息が聞こえた気がする。

 犬耳も尻尾も、戦闘の最中とは思えないほど上機嫌だ。


「ドラゴンの野郎、そろそろ逃げるでしょうか」


「無傷で撃退できれば、史上初かもしれない大戦果です!」


「是非そうなりたいもんですが……」


「おやぶん! くち、ひかった!」


「全員離れろ!」


 俺が命令を下す前に、マリー以外は逃げ出した。

 非戦闘員も速い。

 以前は孤児や貧民だった者も、最近ではたっぷりモンスター肉料理を食っているからかもしれない。


 光が近付いてくる。

 火炎放射器による残虐シーンは直接でも映像でも見たことはないが、普通に考えれば凄まじい残虐シーンのはずだ。


「アリタさま!」


「心配なのは熱と酸素ですよ。ちょいと隠れます」


 マリーが射撃を止めて金の光を強めようとしていたので、攻撃を続けるよう伝えてから倉庫の陰に駆け込む。

 末広がりに広がる炎が到達する。

 マリーが纏った金の光は揺れはするが熱も打撃も通さない。

 仮設店舗や少し立派な小屋も、数秒で表面が焼け焦げて本格的な炎上が始まる。


「さて。どの程度耐えられますかね、っと」


 大きなくぼみに背負子を下ろして、近くに放置されていたテーブルをひっくり返して蓋にする。

 俺個人は口を閉じて目と鼻と耳を両手で覆うだけだ。

 ドラゴンの攻撃にも耐えられると断言はできないが、これまであらゆるモンスターに対して『窒息』を除けばほぼ無敵だった実績があるんだ。

 最悪でも肌に焦げが残る程度ですむだろう。


「よくも、アリタさまを!」


 マリーの気合いの入った声と、力が入りすぎてしまってぶっ壊れた弓の音が聞こえた。

 明後日の方向へ飛んでしまった矢が、俺の側を通過する気配がある。

 全身がほんのり温かくなっているだけのドラゴンブレスより、よっぽど命の危険を感じたぞ!


 目を開く。

 視界は炎の色に染まってはいるが、目が少し乾く気がするだけで他に被害はない。

 少し耳から手を外す。

 特に影響なし。

 少し口を開ける。

 乾く感じがするが戦闘継続に影響なし。


「マリーさん、槍を!」


 テーブルを短時間だけずらして槍を穴から回収。

 柄をマリーがいる方向へ向ける。

 炎の色はかなり薄くなり、マリーの姿も焼けた周囲の光景も目に見えた。


「アリタさま!」


 文字通り跳んできたマリーは、槍の柄と無事な俺の姿を見て何をすべきか思い出したようだ。

 『任せて』と微笑んで、槍を振りかぶって、投げた。


 金の光が『うちの聖女になにコナかけてんだテメェ』と俺をちくりと刺した気がした。

 また、金の光以外にも、原始的なカットを施された穂先ダイヤモンドがひときわ禍々しく光った気もする。


「ガァァァ!?」


 モンスターの絶叫と呼ぶには知性を感じさせる音が、上空から響き、しかも近付いてくる。

 これは、まずいかもしれん。


「アリタさま! わたくしがおんぶして運びます!」


「こいつを持っていってください」


 テーブルを完全にどかして残りの槍をマリーに渡す。

 空を見上げると、右側の翼を胴体に『縫い止められた』ドラゴンが、落下を防ごうと必死に羽ばたいているが近づく速度は加速度的に上がっている。


「この程度で壊れるほどヤワじゃありませんよ。それより、ここでドラゴンを確実に仕留めないと弱いところを狙ってきそうだ。俺が囮をしますから、お願いします」


 俺はマリーに賭けてるんだ。

 できればマリーも俺に賭けて欲しいもんだね。


「アリタさんは、本当にっ」


 マリーの体が『ぶるり』と震えた。

 主に甘える大型犬ではなく、主の猟犬として猛る大型犬のように『笑う』。


「はい! 行ってまいります!」


 槍を受け取った直後、『どん』と地面全体が揺れるような衝撃が突き抜けた。

 こんがり焼けていた小屋や屋台が崩れるだけでなく、俺も衝撃に押されて倒れそうになる。

 遠くからもよく見える、つまりどこへでも攻撃できる位置で、マリーが槍を構えようとしていた。


「ガァァァッ!」


「来やがったなドラゴンさんよ!」


 見上げると目があった。

 怒り狂って血走った目も、格好良いじゃないか。


「ぐっ」


 ドラゴンは着地ではなく『蹴り』を選択した。

 足の爪に巨体の全体重と速度が集中し、俺が両腕を十字に重ねた防御に突き刺さ……りはしないがいい角度で命中した。


「やるじゃねえか!」


 ドラゴンごと、地面に押し込まれる。

 固く踏み固められた地面に数メートルは埋まるが、俺はドラゴンの脚から胴へと関節技を掛け続けるように這い登る。


「だが、火も吐けず空も飛べないザマではなあ!」


 口や目を目指す。

 そう見せかける。

 ドラゴンはいちいち俺の攻撃を防ぐより俺を仕留めることを選択肢し、俺の頭を『一番噛む力が出る』形で噛んで、潰そうとした。


「生臭いな!」


 俺はドラゴンの歯の根っこに指の爪を突き立てる。

 すぐに死ぬような傷じゃないが、この種の痛みはひどく痛むだろう?

 お前を追い詰めたマリーのことが、一時的に頭の中から消え去るくらいに。


「神々よ、ご覧あれ!」


 マリーの声が神々しく響いた。

 鮮烈な気配が恐るべき暴威を伴い俺とドラゴンに迫る。

 俺は全身に力を込めて衝撃に備え、ドラゴンは俺を砕くのを最優先に、守りを鱗のみに任せた。


 それがドラゴンの敗因だった。

 物理的な力とそれ以外の力を兼ね備えた槍がドラゴンの胸部に着弾。

 衝撃で鱗も筋肉も骨も消し飛ばし、心臓を潰しても止まらず、そのまま巨体を大地に縫い留める。


「ぬあー!?」


 衝撃で、俺はドラゴンの口からスッポ抜けた。

 牙でも肌も鼻も耳も傷つかないが、血が混じった唾液が鼻や耳に入って心底気持ち悪い!


「やりました! アリタさまー!」


 今このとき、竜殺しの聖女マリーゴールドが誕生した。

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