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空飛ぶドラゴンが倒せない? なら前世知識で『徹甲弾』を提案すればいい ~まだ作っていないが、物理で撃ち落とすと約束した~

 街へと向かう間、シロが小声で話しかけてきた。


「親分。あの子、戦うの?」


 行軍しながらよそ見しているのに、足取りは確かで上半身は揺れもしない。

 レベルアップによる能力向上の効果もあるのだろうが、もともと体を動かすセンスが優れているのだ。

 つい先程、俺が口八丁で戦いから遠ざけた子供と比べると、あっちは競技初心者でシロはプロ選手くらいの差がある。


「ありゃどう考えても戦いの適性がないからな。親御さんも分かっているようだし、兵士や冒険者にはしないだろ」


「うん」


 シロはほっとした様子で、シロが少し離れるだけで隊列を崩し始めたコボルトどもの監督へ戻った。


「マリーさん。今回は本当に助かりました」


 俺は『主人の役に立てずに意気消沈している大型犬』のようなマリーに声をかける。

 俺からの視線に気付いた直後に満面の笑み(ただし目は除く)を浮かべるマリーが、すぐに落ち込んでしまう。


「いいえ。わたくしは、アリタさまのお役に立てませんでした……」


「とんでもない! 即時治癒が可能なマリーさんがいるから、戦闘員を街の外まで連れ出せたんです。マリーさんがいなければ不可能でしたよ」


「ですが、皆さん無傷です」


「どんな戦いも十回繰り返せば怪我の一つはしますし、百回繰り返せば命の危険も数回は経験します。マリーさんがいてくれたから怪我で死ぬ可能性をゼロに近くできたんです。本当にありがとうございます」


 徹底的に安全に配慮できる用意があったから遺族を連れてきたんだ。

 いくら俺でも、大きな危険に晒したりはしない。

 あのまま街の中に放置しておく方が危険だから連れ出したけどな。


「……はいっ」


 マリーの尻尾が上機嫌に揺れる。

 よし。

 機嫌というかテンションをもとに戻してくれたようだ。

 マリー本人の意識はともかく、客観的に見てマリーは神殿の偉い人の一人だからな。

 扱いは丁寧にしないと。


「おやぶん……」


 何故かクロが『それでいいのかよ親父』という目を向けて来た気がするが、気のせいだろ、多分。

 マリーに対する接待は続く。

 前世の記憶を得るまでの俺のことを話すと悪党として断罪される気がするのでオブラートに包んで軽く説明し、前世の知識をもとに活動を始めてからのことを主に話す。


 モンスターとの泥試合じみた戦いのことを話すとマリーははらはらして今にも駆け出しそうな雰囲気になり。

 シロやクロとの出会いや再会やパーティ結成には心から喜んでいた。

 ただ、どろりと瞳に一瞬強烈な嫉妬が混じったことだけが、気になった。


「そういえば、マリーさんは普段なにをされているのでしょうか。この街には、煙か狼煙を見て急行されたのだと思いますが」


「はい! いつもはこの地方の都市を巡りながら、冒険者や兵士の皆さんでは手の負えない賊やモンスターの討伐を行っています!」


 マリーを戦場で初めて見たとき、異様な速度で移動していたように見えたのは勘違いじゃなかったらしい。

 この体格で分厚い鎧を着たまま高速移動可能な時点で、力と技と頑丈さの全てが高水準ってことだ。

 力だけ、技だけ、頑丈さだけがあっても、途中でばてたりバランスを崩して転んでしまうだろうからな。


「素晴らしい」


 マリーは俺の予想より倍以上強い。

 ここまで圧倒的だと嫉妬も感じない。

 好きな競技の世界トップ選手に向けるような羨望しかない。


 『しかない』ってのは言い過ぎか。

 好みの女に対する欲望もしっかりあるしな!


「いえ、わたくしなんてまだまだです……」


「つまりまだ上を目指せると。ますます素晴らしい」


 おべっかが一割、本音が九割だ。

 これだけの能力があれば、犬獣人でも神殿から聖女認定されるってわけだ。

 この調子なら犬獣人が人間扱いされる日も近いかもしれんが、負け犬が群れで人間と敵対しているのが面倒だよな。


「まだまだ?」


 クロが不思議そうな顔で「まだまだ」と繰り返した。

 マリーが困ったような顔になる。


「クロ。謙遜……じゃ通じないか。強い人限定の言い方だ」


「まだまだ、すげー!」


「せめて『すごい』と言えバカモン」


 俺が慎重に頬をつつこうとすると、クロは器用に上半身を逸らして躱してみせる。

 『ふふん』と得意げに笑うクロの鼻を、俺の二本の指が軽くつまんで鼻呼吸を停止させた。


「アリタさまは、子供を奔放に育てているのですね」


 驚いたような、羨ましいような。

 俺にはよく分からない表情をマリーがした。


「冒険者としては上品に育てているつもりです。神殿の方から見ると雑でしょうが、冒険者なのに上品すぎても舐められますから」


「くーん」


 クロが反省の鳴き声を上げたので、俺はクロの鼻を解放するついでに手ぬぐいを渡してやる。


「鼻水が出ているなら鼻をかめ」


「めんどう!」


「鼻水が出たままはダセエんだよ」


 予備のハンカチで指についた鼻水を吹きながら、俺はクロに対して鼻を鳴らした。


「うー!」


 今日は珍しく反抗的だな。

 反抗できる程度に俺を信頼するようになったのかもしれん。


「クロよりガキもいるんだから格好いい所を見せてやれ。な?」


「あう!」


 すぐに機嫌を直す単純さは、クロの美徳だと思う。

 悪い奴に騙されないか心配でもあるが。


「……本当に、仲が良いのですね」


 もともと光のないマリーの瞳が、今は闇に染まったかのように暗い。


「マリーさん、よければこの後いっしょに食べに行きませんか。試作品ですが結構いいのができてますよ!」


「はい!」


 マリーの犬耳と犬尻尾がこれ以上ないほど上機嫌になる。

 最高の人材であると同時に、いつ爆発するか分からないマリーという存在に、俺は振り回されっぱなしだった。



  ☆



「聖女さまなのかい? うちみたいな安宿で食事を出しても失礼にならないかねえ」


 おかみさんは大量の串焼きを運んでくる。

 特別な技術は使われていない。

 厨房をこの世界の基準で綺麗にして、材料を『前世基準で衛生的にヤバイ』のを取り除いただけのだけの料理だ。

 たったそれだけでエグみや苦味がかなり減る。

 これまで俺たちは何を食べさせられていたんだという思いが……いやもう忘れよう。


 五感が鋭いシロやクロやマリーは俺よりも『違い』を感じ取ったのだろう。

 尻尾も耳も激しく反応し、普段は光のないマリーの瞳まで食欲の光が微かではあるが灯っている。


「マリーさん。食前の祈りをお願いできるでしょうか」


「あ、あの。アリタさん……」


 マリーの視線は、焼き立ての串焼きが大量に積み上げられた大皿と、俺の間を言ったり来たりしている。

 食欲旺盛なのを見るとマリーが若く感じられる。

 いや、こいつよく見るとすごく若くないか?

 非常識なレベルで顔が良くて体格も素晴らしいから俺より少しだけ下かと思っていたが、肌の張りとかは非常に若い。

 コレットの少し上くらいかもしれん。


「では、僭越ながら私が。いただきます」


「いただきます!」


「あうあう!」


「い、いただきます……?」


 俺にシロとクロが唱和し、マリーが少し遅れて続く。

 それからは凄まじかった。

 俺がなんとか確保できたのは二本だけで、まだ数十本はあった串焼きが吸い込まれるように三人の犬獣人に食い尽くされていく。


「おかみさん、お代わりをお願いします」


「もう焼いてるよ! ってもう食べたのかい?」


「急いでください」


「あいよ!」


 空になった大皿を切なく見つめる犬獣人が三人。

 こいつらが特別に優れた才能を持っているのか、犬獣人という種族が優れているのか、どっちなのかね?

 俺は無言でパン(この宿基準で普通のパン)を手に取り、ナイフで平面になるよう切っていく。

 大皿に残った脂やタレを『拭いて』食べていれば、次の大皿を待つ時間は稼げる……といいな。


「マリーさんはいつまでこの街に滞在されるのでしょうか」


 マリーの雰囲気が『どんより』したので、俺は慌てて言い直す


「マリーさんにはいつまでもこの街に滞在していただきたいですが、緊急の仕事などはあるのでしょうか。いつでもお会いできると嬉しいのですが、立場上難しいでしょう?」


 社会的地位の差があるので手は出せないとはいえ、見ているだけでも満足感があるからな。

 今回のよう仕事を手伝ってもらえるなら本当に助かる。


「……はい」


 シロとクロより大量にパンを食べながら、マリーは絞り出すように返事をする。


「ドラゴン討伐に失敗し続けているのです。わたくしと速度は同じでも、空を飛べるドラゴン相手では捕捉するのも難しく……」


 詳しく聞いてみると、いわゆる西洋風ドラゴンが空から街や村を襲うことがあるらしい。

 ドラゴンか。

 数人がかりでもドラゴン一体を倒せば金札確定の大物だ。

 それまで食欲に行動を支配されていたシロとクロも、強い興味を持って食べながら聞いている。

 なお、俺は『舐めたように』綺麗になった大皿の前で、食べやすい形にパンをカットし続けている。


「なるほど。速度は鳥より遅く、足場のない空中だとマリーさんの剣でも切断できない程度に鱗が頑丈、と」


 戦闘機でも戦闘ヘリでもなく、飛行する戦車か。

 これはもう生身で戦う相手ではない。

 兵器で戦うべき相手だ。


 前世の俺は技術者ではなかったし、転生や転移に備えて知識を蓄えもしなかった。

 そんな俺でも徹甲弾がどういう意図で作られたのかは知っているし、実験を繰り返して技術を洗練させていくことも知っている。

 そんな徹甲弾(またはその性能を持つもの)を、弓や投石機やクロスボウで撃ちだせば、いけるんじゃないか?


「マリーさん。少々時間はかかるかもしれませんが、プレゼントを用意させていただきますね」


 クロもいつまでも投擲紐や素手での投擲を続けるわけにはいかない。

 稼いだ金の一部を仕事道具に使ってさらに儲けられる(より強力なモンスターを倒せる)ようにならないとな!


 輝く笑顔で『どろどろ』した目を向けるマリー。

 マリーと俺を見比べて嘆息するシロとクロ。

 そして、料理の量が多すぎる運べと、俺を呼びつけるおかみさん。

 とても平和な、食事の風景だった。

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