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怪力自慢のオーガ将軍と『物理』で殴り合った結果 ~俺だけ無傷で圧倒していたら、エルフがヤケクソで極大魔法を撃ってきた~

「アリタさん!」


 宿からコレットが飛び出してきた。

 最後に会ってから一日も経過していないのに、一回り細くなったように感じられる。

 俺は健康な男なので性欲はある。

 命の危機の直後なので下腹が窮屈な程度に興奮している。


「もう大丈夫だ。しっかり食わせてやるからな」


 超高性能の放熱器が接続されたかのように落ち着いた。

 性的な意味ではなく『抱く』と怪我をさせてしまいそうな相手に性欲を向けるのは、理性以上に本能が拒否している。


「え、えっ?」


 俺に慈愛の目で見下されることになったコレットが混乱している。

 構わん構わん。

 コレットは食べれば少しは肉がつく体質だ。

 今後どういう関係になるかは分からないが、物理的に健康にしてやるからな!


「アリタあんた……」


 おかみさんがアホを見る目を俺に向けている。

 知り合いの無事を知って安堵する気配がなかったら、俺もさすがに紳士ではいられなかったぞ。


「普通の男なら今のは求婚だよ」


 おかみさんの言葉を効いてコレットが真っ赤になる。

 これは脈ありか?

 相性も悪くはないし、神殿との関係を考えれば悪い話じゃない。

 その上で『メシを食え』という感想が一番にくる。

 貧しさは敵だぜ。本当にな。


「親分、ご飯は?」


「あめ! あめ!」


 シロとクロが催促してくる。

 シロとクロの背後には何故かコボルトどもが整列していて「なんかくれるのかな」という間抜け面を晒している。

 そんな犬耳どもの様子を見て、おかみさんは沈痛な表情で首を左右に振った。


「兵士や冒険者が食料をかき集めてるから、宿にはろくなものが残ってないよ」


「ギルドは敵だお!」


「あめ! あめ!」


 シロは短絡的、クロはそれ以前の問題か。

 俺は街の中の勢力と、街を攻めている勢力の意図と戦力を少し考えてみる。

 亜人どもはメシを汚染されているから、今すぐ撤退するか街を最悪でも数日中には制圧して食料を略奪する必要がある。

 街の中の勢力は、まだ亜人どもの事情を知らないから強権や武力を使ってでも食料を確保しておきたい。

 ……例外は神殿か。


「提案があります」


 俺は、捕虜コボルトの監視という名目でついてきた黒装束男に語りかける。

 この場にいる黒装束は一人だけだ。

 他の奴らは、捕虜としての価値が極めて高いエルフどもを神殿に運んでいった。


「聞きましょう」


「シロとクロにコボルトどもを率いさせて、街の外へ狩りへ向かわせたいのです」


「獣人のみで外へ? 大丈夫なのですか」


「シロもクロも今さら亜人どもにつける立場じゃありません。あの負け犬……失礼。あの犬獣人のボスは、俺やクロを殺して名誉を回復させないとやりにくくてしょうがないでしょうし」


「なるほど。野蛮ですが亜人の考えそうなことです」


 黒装束男の静かな表情に嫌悪がにじむ。

 推定異端審問にしては理性的なんだろうが、根っこはかなりの差別主義者だな。


「問題もあるんですけどね。シロとクロが信頼できるのを知っているのは、俺と神殿だけです」


 これは少し危険な発言だったかもしれない。

 黒装束男は少しだけ眉を動かしたが、何も言わない。


「シロとクロが人間側だってのを分かりやすく示す必要があると思うんです。親分である俺だけ街に残って、防衛戦に参加するってのはどうでしょう?」


「親分! あたしも戦う!」


「あう!? おれも! たたかう!」


 シロとクロはやる気だ。


「集団戦を舐めるな。お前らは強いが俺みたいに固くない。流れ矢や魔法の流れ弾で死にたいのか? 被弾したら即死できずに長い時間苦しむことになるぞ」


 レベルアップを繰り返したこいつらは強い。

 しかしその強さは個としての強さだ。

 他種族と連合を組める程度の知性を持つ奴らが相手だと、数と戦術で封殺される可能性だってある。


「いえ、シロ嬢やクロ殿なら癒やしの御業の対象になります。あの、アリタ殿?」


 黒装束男が口を挟もうとするが、俺はシロとクロを真正面から見る。

 シロとクロがごくりと生唾を飲み込み、こくこくと首を上下に振った。


「戦争中は犬獣人より人間が優先されるでしょうからね。シロやクロのことを気にしてくださるのは嬉しいですが、こいつらに必要以上の期待は持たせないでやってください。こいつらはこっち側でやってくしかないんですよ」


 俺が深刻な表情で言うと、黒装束男は真摯な表情で頷いた。

 俺の本音は『人間側での待遇より他種族側の待遇がいいならそっちへ転職も可』なんだが、それが望み薄ってのも事実だからな。

 神殿には俺たちのことを『人類と神殿に忠実な戦力』と勘違いしてもらうさ。


 そんな話をしているうちに、馴染みの兵士がこちらへ向かってきた。

 いや、兵士だけでなく老シスター(この街の首席異端審問官)までいやがる。

 黒装束男が老シスターへ報告すると、すぐに話がまとまった。


「シロ、クロ。今必要なのは肉だ。モンスターは避けて猪や鹿を狩ってこい」


「はい!」


「あう!」


「おいコボルトども。役に立つ所を見せれば見せるほど、殺処分対象から捕虜、捕虜から二級市民候補と立場が上がっていくんだ。シロとクロの命令に従え。いいな?」


「はい。親分さま!」


 コボルトどもは、街路に頭がつくほど頭を深く下げる。

 これならなんとかなるか。

 俺がシロとクロに視線を向けると、ふたりは「任せて」と頷いた。


 そして再び、俺の戦いが始まる。



  ☆



 城塞都市の正門は完全に破壊され、門の内側に半円状にバリケートが設置されてそこが防衛線になってる。

 エルフの矢やときどき魔法が飛んで兵士は冒険者に頭を下げさせ、丸太じみた槍を構えたオーガが兵士や冒険者ごとバリケートを破壊しようとする。

 兵士や冒険者も必死に戦い、非戦闘員まで駆り出されてバリケートの修復を行う。


 そこへ、革鎧に刀一本だけを携えた犬獣人部隊が突撃する。

 防衛線の小さなほころびが瞬く間に拡大。

人間たちは慌てて予備戦力を投入するが、都市陥落まで後わずかだと誰もが感じていた。


「待たせたなあ!」


 俺は両手を広げて突進する。

 左右両方でラリアットという馬鹿丸出しの攻撃は、俺の耐久力と鉄鎧の重さがあれば実用的な兵器に変わる。

 衝突した犬獣人が腹や胸に打撃を受けてその場に倒れ、俺を殺すつもりで振るわれた刀身が砕けて宙に舞う。


「負け犬野郎は不在か」


 無意識に安堵の息がもれた。

 奴は個人としても強いが、持っている知識はもっと強い。

 頑丈なだけの俺を倒す方法などいくらでも思いつくはずだ。

 あのとき勝てたのは人数の差があったからだしな。


「ニンゲン! オレト! タタカエ!」


 馬鹿でかい声が真正面から叩きつけられる。

 俺より一回りは大きなオーガが極太の槍を高速で振り回している。


「一騎打ちとは古風だな! 気に入ったぞオーガ野郎!」


 俺とオーガが歯をむき出しにして笑う。

 オーガは、負傷者を回収して後退しようとする犬獣人を気にもとめずに、俺に向かって槍を振り下ろす。

 巻き込まれた犬獣人の手や指が吹き飛んだ気がするが、俺の視界と意識にあるのは眼の前の槍とオーガだけだ。


「ふんっ」


 両手の手のひらをあわせ、十本の指を揃えて槍へ突き出す。

 運が悪ければ全部の指が引きちぎられてスプーンも持てなくなるが、体格とおそらく体力にも勝る相手にリスクなしの戦いは無理だ。

 槍の先端に当たった俺の爪が、火花を散らして鉄製の穂先をえぐり、そのまま丸太じみた槍に深く長い亀裂を刻んだ。


「ガハハッ!」


 オーガは、俺に当たって先端が砕けた槍を持ちかえる。

 地面すれすれからすくい上げるようにして、俺の基本戦術である『地面と体の頑丈さで敵の力に対抗する』のを封じた。


「てめえっ」


 重い鎧ごと吹き飛ばされた。

 跳躍したのはせいぜい三メートルで危なげなく着地はできたが、オーガは槍を捨てて大きく踏み込み、俺の体よりさらに低い姿勢からアッパーカットを繰り出す。

 俺の顎でオーガの拳が凹む。

 しかし地面の支えがないので俺は吹き飛ばされる。

 受け身はとったが、地面で頭を打ってしまった。


「コレデモ! キカナイノカ!」


 効いてる。

 脳みそが揺らされて視界が揺れている。

 だがこんな強敵相手に気弱なところも弱ったところも見せられるわけないだろ!


「ヌッ!」


 足払いを躱された。

 まるで以前に同じ技を受けたことがあるようにだ。


「コザカシイ、イヌト、オナジ、カ?」


「負け犬と一緒にするなよ、デカイの!」


「ソウカ! イヌハ、マケタカ!」


 ガハハ、ケケケと笑いながら、互いに殴り、蹴り、締め、投げ飛ばす。

 頑丈さ以外はオーガが上だし、俺が技を使うたびに少しずつ慣れていきやがるので、俺は追い込まれる一方だ。


「ガッ」


 だが、その程度では前世の術理に手は届かない。

 負け犬が俺にかけた絞め技が、俺の手によりオーガの首にきまった。


「負け犬より弱いぜ、あんた」


 オーガは目を血走らせ、まだ自由に動く手で俺の首をかきむしる。

 うっすらとはいえ刀傷があるのに、オーガの指では傷を広げることすらできはしない。

 ふと、嫌な音に気付いた。

 『ごろごろ』と、空に浮かぶ黒い雲から聞こえるような、落雷直前の音だ。


「クソっ」


 オーガに技を決めたまま、オーガを引きずり向き直る。

 ぶっ壊されて広々とした門が見える。

 そこから、かなり離れた場所で詠唱を続ける、イナズマをまとったエルフが十数人見えた。


 エルフ一人一人のイナズマが大きくなり、一体化し、さらに大きくなる。

 鎌首を持ち上げる大蛇……否、白く輝くドラゴンであるかのように、俺を見下ろし口を開く。

 そこに見えたのは、まさに落雷そのものだった。


 俺が無事でもバリケードなど吹き飛びそうなエネルギーを感じる。

 詠唱中のエルフも必死だ。

 血の気が引きすぎて死体じみた顔色で、俺個人へ憎悪と恐怖の目を向けている。

 一人、また一人と気絶して倒れても、イナズマのドラゴンは維持されていた。


「全員逃げろっ!」


 俺は街全体に響きかねない大声を出す。

 一度被弾したがあれはおそらく光速、そうでなくても音速以上だ。

 もがく力が弱くなったオーガを解放すれば、今から遮蔽物の陰に隠れることも可能だろう。


 だが、こいつを逃がせば、おそらく二度と俺の技は通用しない。

 身体能力と才能の差は残酷なんだ。


「こりゃ死んだかね」


 白く輝くドラゴンの後ろ。

 はるか地平線に、金色に輝く何かが見えた気がした。


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