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7.姉の気持ち(はるき視点)

 デカい機械に縛られる検査を受けてる途中、ボクは過去を思い出す。


「あいつかっこよくなったなぁ」


 年始の頃からかな、すばるのやつ一気に変わっちまった。

 ボクに強く言い張るようになって、ボクだけでやってきたことを勝手に手伝うようになって、なんか鍛え始めて。

 別に昔のあいつがダメってわけじゃないけど。昔も反抗期気味で、でもボクの言うことをちゃんと聞いてくれる。

 だけどなんというか、「突き放されてる」ような気がしたんだ。こっちが勝手にあいつをめんどことから遠ざけるようにさせておいてこれを言うのもなんだけど。

 それでも嬉しかった、嫌われてないってのがわかるから。

 わがままなお姉ちゃんで情けねぇ。

 それもあいつの言う青春期のせいなのかな? よくわかんないや。

 あいつの変化を見て、ボクも決意した。


「ボクももっとしっかりしないと」


 要するに、あいつがこんなったのはボクが頼りないせいだ。だって頼れるお姉ちゃんには甘えるもんだから。

 ボクは鈍感じゃない。あいつに言われるまでもなく、ボクが心配されてることはわかる。

 優しい弟を持ってるボクは幸せだ、だけどあいつに甘えてはいけない! これからお姉ちゃんとしての信頼を取り戻すんだ!

 もう二度とあいつを危ない目に合わせない!


『お姉ちゃんは俺が守る』

「……」


 あいつ、かっこよかったなぁ。

 この前まであんな小さかった弟の背中がこんなにも逞しくなって。


『これからも、お姉ちゃんって呼んでいい?』


 けどたまに昔みたいな可愛げのある顔を見せる。

 かっこよかったりかわいかったり、ボクの弟はすごい。


『お姉ちゃん』


 頭の中はあいつの声でいっぱいいっぱいになる。

 そして胸の奥が熱くなって。

 風邪から? なんか違う気がする。こんな気持ちは初めてだ。

 苦しいと言うか、気持ちいいと言うか。体が変なのにあいつの顔はやたらと思い浮かぶ。

 あいつに逢いたい。逢って、そして……。


「英さん、もう離れていいですよ」

「え……あっはい!」


 気づけば先生が目の前にいた。

 ボクがボーとしてる間に検査が終わったみたい。

 その後先生の説明を受けたけど、無事であること以外はよくわからなかった。

 じゃさっきのあの感覚は風邪じゃないんだ。

 熱が一気に治り、さっきまでの感覚はまるで嘘のようだ。

 健康であることに損はないし、ボクはそれを忘れて個室に帰る。


「ただいま! ゆうきちゃんも帰ったんだ」

「おかえりお姉ちゃん」


 中に入ると、愛しい弟が出迎えてくれた。最高の気分だ。


「ヨシヨシ、お姉ちゃんのいない間寂しかった?」

「くすっぐたいよお姉ちゃん」


 あいつの頭は相変わらずいい感触をしている。ガチで癖になりそう。

 この幸せな時間がいつも続くといいなって思う。


「実は俺、相談というか、報告があるんだ」

「んだよかしこまって」

「ちゃんと変な話だけど、笑わないでくれよな」


 居心地悪そうにあいつは話した。


「俺、ゆうきの従者になることになった」

「なるほど、えっ?」


 ちょっと待てよ。


「ゆうきって、ゆうきちゃん?」

「うん」

「じゅうしゃってなに? お金持ちが雇うあの従者?」

「なんか学校にいる間は彼女の世話係になる話になって」


 なるほどなるほど。


「なんだって!!!!!!!??????」

「お姉ちゃんうるさい」

「情報量多すぎてボクびっくりしたぞ!」

「そんなことはないと思うけど」


 おかしいぞ、ボクのいない間でなにが起きた?


「まずなんでゆうきちゃんのことを下の名前で呼んでるんだ?」

「彼女に頼まれて仕方なく。これでも一応友だちだからさ」

「友だち⁉︎」

「そもそもお姉ちゃんがそう言わせたんだろ」


 なにー! さっきまでと比べて親密になってる!


「あとなんて従者に?」

「色々あるんだよ」

「色々とは?」

「色々」

「お姉ちゃんに教えないの?」

「教えない」


 うそー! すばるが隠し事⁉︎ 人生初めてだよねこれ⁉︎


「せせせせせめて従者の仕事を教えてくれ」

「モーニングコール、弁当の用意、休み時間のパシリ、みたいな?」

「それはもう執事じゃねえかーーーー⁉︎」

「大丈夫? なんか顔怖いよ」


 すばるがゆうきちゃんの執事⁉︎ たまに読む少女漫画でヒロインの世話を焼くかっこいいやつのあの執事⁉︎

 もしかしてボクのいない間にあんなことやこんなことが起きて、そして……。


「うあああああああ! あんたはそれでいいの⁉︎」

「うん、脅迫されたわけじゃないし、給料もちゃんと出るらしいよ」


 距離が近くなった弟がまた遠ざけていく!


「ままままままさかあんた」

「まじでどうしたんだ君、さっきから怖いけど」

「ゆうきちゃんのことが好きじゃないよね⁉︎」

「はぁ? そんなわけないだろう」


 ボクの質問を聞いたあいつの頭からたくさんはてなマークが湧いてるような気がする。

 んだよ呑気に。こっちはこんなにも焦ってるのによぉ。


「お姉ちゃんはなに焦ってるんだ?」

「そりゃ……」

「俺が危ないことさせられたわけでもないし、変な話だけどそこまでおかしくもないだろ?」


「相手は大金持ちだし」と彼は補足した。

 冷静に考えると確かにそうだ。こっちは援助を受けてる身だからこれくらいのことを頼まれてもおかしくない。

 だけど……。


「なんか納得いかねー」

「変なお姉ちゃん」


 おかしくないのに、あいつがゆうきちゃんを甲斐甲斐しく世話を焼く姿を想像すると……。


「もしかして嫉妬〜? ゆうきが俺に奪われたことに〜?」

「ドリルの刑」

「こめかみをぐりぐりするのやめろー! DVだぁー助けてくれー!」


 結局、ボクは寝るまでずっとモヤモヤのままだった。


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