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5.ヒロイン登場

 ゲームのヒロイン、桜木ゆうきが病室に入った。

 赤いロングヘアにツインテール、まっすぐな目つき。いかにも王道な勝気ヒロインの姿をしている。


「ごきげんよう」

「ご、ごきげん、よう?」


 それに対しお姉ちゃんは生返事してしまった。彼女が来ることを予想できなかったからかな?

 確かゲームだとお姉ちゃんが彼女の容貌に見惚れた描写があるから、それを含めた生返事だろう。

 なに気に顔も赤いし、まさか百合ルートはあり?

 俺も一緒に彼女に挨拶を。


「お世話になりました」


 彼女はゲーム通りに来た。そしてここに来る理由は一つしかない。

 お姉ちゃんは平気な返事をした俺を訝しんで、小声で俺に耳打ちした。


「あんたこの美人知ってんのか?」

「誘拐された子だよ、君が助けただろ?」

「あー、あっそうか! 顔ちゃんと見なかったから一瞬わからなかった」


 知っていることこれだけじゃないけど、面白くなりそうだから伏せといた。

 お姉ちゃんには申し訳ないけど、実は俺エロゲのヒロインと主人公が集合したこの場面に興奮しているんだ。

 ずっと覗きたい風景(パラダイス)が目の前に広がっている、サイドキャラの俺が邪魔してはならないんだ! 静かな壁に変身させてもらうぞ!


「あの、お名前は?」

「わたくしは桜木ゆうきと申します。気軽にゆうきと呼んでください、はるき様」

「よろしく、ゆうきちゃん……ってなんでボクの名前を⁉︎」

「失礼ながら少々調べさせてもらいましたわ」

「調べ、えっ?」

「はい、はるき様だけでなく、すばる様もことも存じております」

「俺も⁉︎」

「はい」


 いやっ財閥の力で英家を調べることは知っているんだけど、まさかここで俺のことを名指すとは思ってもみなかった。

 俺なんかのことよりそこにいる主人公(お姉ちゃん)に構ってくれ!


「そ、そうなんだ。じゃあ改めて、ボクは英はるき、そいつは弟のすばるだ。ボクのことは気軽にはるきって呼んでくれ」

「わかりました。よろしくお願いしますわ、はるき様」

「様付けのままなんだ……」


 挨拶を交わして、桜木は来客用の椅子に座る。

 いいぞお姉ちゃん! 俺のことはどうでもいい、君のコミュ力でヒロインを攻略してしまえ!


「ゆうきちゃん大丈夫だったか? あの変なやつになにかされてない?」

「いえ、はるき様とすばる様が助けてくれたのお陰で、わたくしは無事で済みました」

「そりゃよかった。せっかくのかわいい顔が台無しにされたら堪ったもんじゃないよね」

「かわいい……⁉︎」


 おおっエロゲ名物「主人公とイケメンしか許されない褒め殺し」炸裂だぁああああああああ‼︎

 しかも桜木も桜木で一瞬で顔が真っ赤になりやがった! ヒロインらしくチョロさ半端ねぇ! 

 これ百合ルートいける? いっちゃいます? 


「どうしたんだ、顔赤して? まさか怪我が!」

「いえ、そんなことは断じてありません」

「そっか……」


 きちゃーっ! 主人公特性「鈍感」の発動だっ!

 バッカだなお姉ちゃん彼女は褒められて恥ずかしがってるんだよ!


「すばる様、はるき様はこんいう人なのでしょうか?」

「うん、嘘偽りない本心だから余計に……」

「困ったものですわね」


 わかるよ、わかるぜ桜木。


「あんたたちなんの話⁉︎」

「お姉ちゃんはどうしようもないバカっていう話だよ」

「なんで⁉︎」


 桜木はため息をついて、


「先生たちになにか薬を出させるべきかしら」

 

 と愚痴を漏らした。


「あっ、医者と言えば! さっきから色んなわかんない検査をさせられたけど、もしかしてあんたはなにか知ってるか?」

「知っているとは言えませんが、でも先生たちに貴方の診断を任せたのはわたくしですわ」

「そっか知らないのか」


「やっぱり高いんじゃあ……」とぶつぶつと呟くお姉ちゃん。心配が顔に出てるぞ。

 彼女の顔に気づいて、桜木は不思議そうに続く、


「何事を心配しているのかは知りませんが、我が財閥の名に賭けて、はるき様を困らせることにはさせませんわ」

「財、閥?」

「あら、桜木財閥のことをご存知でない?」


 お姉ちゃんがきょうとんとした。そこもまた原作通りで感動すら思える。

 このままだとかわいそうなので俺は耳打ちした。


「知ってるか、桜木財閥」

「あれだろ、金融とか家電とかやってるあの」

「桜木さんはあそこの経営者の一人娘なんだよ」


 日本を牛耳る桜木財閥の一人娘である超お嬢様キャラ、それが桜木ゆうきだ。

 ストーリー舞台のお嬢様しかいないエトワール女学院の中でもトップクラスの出身で、他の生徒に恐れられている。

 いかにもお嬢様学園物の王道な設定だ。


「なるほど、だから桜木って苗字……えぇええええええええええええ⁉︎」


 絵に描いたような驚く反応だな、流石。


「ゆうきちゃん、いやっゆうきさんってそんなにすごい人なんすか⁉︎」

「すごいとは言い切れませんが、我が財閥は貴方たちを全力でサポートしますので、怪我の後遺症はもちろん、医療費なども心配ご無用ですわ」

「医療費が⁉︎」

「もし先生の腕が心配なのでしたらそこもご安心を。わたくしの知っている医者の中でも一番腕利きのいい医者のみに頼みましたから」

「一番の⁉︎」

「もしくは……」

「待ってください! ボクは見ての通りピンピンしてるっすよ⁉︎ そこまでしなくても!」

「そうとはいきません。もし恩人である貴方たちになにかがありましたら、それは桜木財閥の恥になってしまいます。どんな些細なことでも見逃せませんわ」

「そんな……」


 不思議だな、助けられた側が助けられたことに絶望しているのはなんでだろう。うちの姉は不憫であった。


「諦めなお姉ちゃん、金持ちの世界は俺たちのとは違うんだ」

「なんであんたは余裕なんだよ」


 俺はただの壁なので、壁に感情はない。


「もしかして、わたくしの行動はご迷惑だったのでしょうか?」


 お姉ちゃんが余りにも驚いたから、桜木が心配そうに聞いた。


「そうじゃないんすよ、色々が一気に押し寄せてきて、うまく処理できないっていうか」

「ごめんなさい。わたくし、同年代の友人が少ないことを相まって、正しい対応という物には疎く」

「ゆうきさん……」

「もし本当にご迷惑だったとしたらおっしゃってください、今すぐ退院できるように手配しますわ。もちろん後処理もわたくしが責任を取ります」


 桜木は生まれのせいもあって、ただでさえ凡人離れした思考と財力を持っているのに、同じ金持ちでも家の格の違いに怯えて、大部分の人は彼女と友だちになろうとしない。

 その弱みは悲しいことにこの場でバレてしまうことになった。

 俺は恐る恐るお姉ちゃんの方を見る。彼女に桜木の心の底を察して欲しかった。


「あーもう!」


 パチッ!

 お姉ちゃんが自分の頬を叩く音が部屋中に響く。


「はるき様?」

「ゆうきさ、いやっゆうきちゃん! ボクはまだあんたに言ってないことがある!」

「はい?」

「ボクとすばるのことを心配してくれてありがと! あんたの気持ち、めっちゃ嬉しかった!」

「そうなのでしょうか」

「うん! だからそんな寂しいことを言うな! ボクとあんたはもう友だちだ!」

「わたくしと、友人となってくださるのですか?」

「もちろん! なぁすばる!」


 えっ俺⁉︎


「あ、うん! 桜木さんは俺の友だちでもあるのですから!」

「はるき様、すばる様……!」


 やはり我が姉は優しい。ちゃんと桜木のことを察してくれる、ラブコメ主人公の鑑だ。


「わたくしは迷惑をかけてもいいのでしょうか?」

「迷惑だと思ってねぇし、ボクはいつでも歓迎だぜ!」

「はるき様、ありがとうございますわ!」


 ちょっと形は違うけれど、主人公とヒロインが友情を結ぶシーンが目の前で再現されて、ファンとしては感激しかない。

 この世界に転生したことに感謝の極みであります。


「それでしたら、もうひとつだけ迷惑を言わせてください」

「おお! なんでも来い!」


 本能でこれからする話を理解した。

 これは多分俺がずっと待っていた「あれ」のことだ。


「はるき様、エトワール女学院に転入しませんか?」


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