プロローグ
夜の空気は、ちょっと湿っとった。
遠くでカエルが鳴き、街灯の明かりに虫が群がる。
島根の田舎町は、夜になると静かすぎて、逆に息苦しい気がするんじゃ。
「なぁ凛、今日も夜ツー行くんか?」
幼なじみの里奈が肩を小突く。
彼女の目ん中には、いつも通りの退屈そうな光。
「行くに決まっとるじゃろ。退屈で死ぬけぇ。」
バイクのエンジンをかけたら、沈んどった夜が一気にうるさくなる。
それがたまらんのんよな。
まるで、この町の“静けぇ”をぶっ壊すみたいで。
橋の上に差し掛かると、風が顔をバシッと叩く。
いつも通りの夜。いつも通りの自分。
――でも、どこかでモヤモヤしとる。
「このままじゃ、わし、ずっとここにおるんか……?」
家に帰ってテレビをつけたら、偶然大型スクリーンで女子アイドルグループLUNAのライブ映像が流れとった。
眩しいライト、笑顔の先輩たち、そしてセンターの神崎悠美……
その笑顔に、心ん中をズキュンと撃たれたんじゃ。
「……わしも、ステージに立ちたいけん……!」
里奈が後ろから、「は? 凛、アホじゃろ?」って笑う。
笑われてもええ。
馬鹿にされてもええ。
島根のヤンキーが東京のアイドルを目指す――
そげな話、バカバカしいに決まっとるけど、わしは本気じゃ。
「見とれよ、わしのSHIMANE☆Revolution!」
島根の夜風が、わしの背中を押した。
ここから、わしの“夢を殴り取る日々”が始まるんじゃ。