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クーデレ美女は、どうやら積極的になりたいようで

「いや……ちがっ!あーえっと、行って無い事もないんだけど、違くって!!」


 分かりやすく動揺して、早口気味にそう言った凛音。


 栞は、ほんの少し震える下唇を噛みながら、纏まらない思考で口を開く。


「ご、合コンで寝不足なんだ今……もしかして、良い女の子でも、いた……?」


 強がって貼り付けたような笑みを浮かべる彼女。


 完全なる誤解だが、凛音の焦って真っ白になっている脳内では、この誤解を解消する為の順序立てた説明など出来るはずも無い。


 ただ、彼にとって栞以上に良い女の子が存在しないのは紛れも無い事実な為、せめてそこだけは否定しようと全力で首を横に振った。


「い、いないから!一条以上に良い…………あっ」


 勢いのあまり余計な事まで口走ってしまった凛音。


 突然呼ばれた自身の名前に、栞は首をきょとんと傾げながら、


「私……?私以上に……何?」

「いや、えっと……そう!ほらいつもさ、大学で一条とか楠みたいな綺麗な女の子と話してるから、知らない内に俺の中の基準が高くなってたんだよ!だから、その……一条達以上に綺麗な子はいなかったなー……みたいな?」


 口を衝いて出た少々強引なこの言い訳だが、即興で考えたにしては割と筋が通っている方だろう。


 別に何も悪い事はしていない訳だが、凛音は顔を強張らせて恐る恐る栞の表情を確認する。


 底冷えする冷たい視線を向けられている事も覚悟していたが、実際彼女が浮かべていた表情は、それと全く違うものであった。


 ほんのり赤みを帯びた頬を隠すように、栞は少し顔を背けて、


「そうなんだ……綺麗な女の子……ふーん。ふふっ」


 そう言って、茶色の瞳を細めながらご機嫌に微笑ほほえむ。


 普段、あまり感情が読めない彼女だからこそ、唐突に放たれたその笑顔に、凛音の胸中はさらに騒がしさを増した。


 そして、同じように彼の口から名前が出た柚葉は、自身を抱くように腕を回して、身体をクネクネと動かしながら、


「わ~!りおりおから口説かれちゃったぁ~!りおりおってもっと草食系だと思ってたけど、もしかして昨日の夜で一皮剥けた感じ!?」

「いや昨日の夜何もな──」


 そこまで言った所で、凛音の頭によぎるルリアの顔。しかし、転生して来た王女を拾ったなど口が裂けても言えない為、一瞬言葉が詰まったものの、そのまま話しを続けた。


「何も無かったから!寝不足なのは、ただ単に二日酔いの頭痛で中々寝付けなかったからで……」

「ふ~ん……ほんとかなぁ?」


 訝し気な視線を向けてくる柚葉と、その後ろで不安の色を顔に滲ませた栞。


 彼女達二人(主に柚葉)から放たれる無言の圧に、凛音は黙ったまま何度も頷く事しか出来ない。


 完全に、昨晩何かあったという誤解を事実とした空気感がこの場を支配する。


 すると、何も言わずただ聞いていただけの陸が、遅れてやって来たヒーローの如く口を開いた。


「ちなみに、みなりおが昨日何も無いのはマジだよ?てか、あんまあの合コンについて深掘りしないであげて……?みなりおの為にも、俺の為にも……」


 そう言いながら、段々肩を落として元気が消失していく陸。


 柚葉は、興味津々といった様子で首を傾げる。


「え、何々?何かあったの……!?」

「まずみなりおに関しては、俺が無理言って合コンに呼んだのに、直前で女の子の一人がドタキャンしたんよ。んで、その結果、みなりお以外の良い雰囲気になった男女だけが、それぞれで二次会行ったわけ」

「え、りおりおだけ一次会解散したって事!?二日酔いになる程お酒飲んだのに!?」


 凛音の不遇な経緯を聞いて、吹き出す寸前で笑いをこらえた柚葉。そして、抑え付けた笑いを漏らさないよう声をじゃっかん震わせながら、そのまま口を開く。


「でも、さっきの言い方だと陸も合コンダメだったみたいじゃん?陸は女の子捕まえたんでしょ?……もしかして最低な事言ってる?」

「いーえ!?最低なのはその女の子だから!?二次会で連れて行かれた先がぼったくりバーで、今月使える金の七割持っていかれたからね!?」

「そういう事!?つまりつまり、一人は女の子から相手にされず、相手にされたと思った一人はただのカモだと思われたと………………ふっ」


 合コンに行った悲しき男達の、昨日起こった出来事をまとめる柚葉。声に出しながら、あまりに惨めな男二人に耐え切れず、彼女は思わず吹き出した。


「あははははは!!面白過ぎでしょ二人とも!!はぁ……お腹痛い……くくっ」

「現実逃避してんだから改めて詳しく言うな!あと笑い過ぎな!?」

「ごめんごめん……ふふっ……」


 散々だったエピソードが大変お気に召したらしく、お腹を抑えながらしばらく肩を揺らしていた柚葉だが、一度大きな深呼吸をして落ち着くと、陸と凛音の頭を撫でながら口を開いた。


「昨日は良い事一つも無かったんだね~よしよし。女神のように優しい柚葉さんが慰めてあげましょ~」

「いやもう、この傷付いた心は治りませんから……はぁ。何か悲しくなってきたし、俺もみなりおと一緒に今日講義休んで帰ろうかな……」

「……え!?そしたらあの講義の板書どうすんの!?俺陸のノートを後で写すのだけが頼りなのに……」

「ふっふっふ。この陸様のコミュニティを舐めんなよ?あの授業に出てる友達が数人いるから、そいつらからノートの写真送ってもわうわ!」


 胸を張って自慢気にそう言った陸。そのまま、凛音の背中を軽く押して、


「よし!帰ろ!帰るついでにラーメン食べよ!」

「えぇ……お前金欠になったんじゃないの……?」


 彼に背中を押されて、座っていた椅子から立ち上がる凛音。


 陸は、力強く親指を立てて見せて、


「ラーメンは必要経費だから!生活必需品だから!」

「は、はぁ……」

「細かい事は気にしない気にしない~。それじゃ、柚葉と栞また明日な~」

「また明日ね、楠……一条」

「ラーメン屋にもぼったくられないようにね~!ばいば~い」

「……ん。また明日」


 陸と凛音が振った手に、同じように振り返す柚葉と、手は振らずまばたきしながら言葉を返す栞。


 しかし、二人が完全に踵を返してこちらを向いていない事を確認した銀髪の少女は、無気力に垂れた右腕をほんの少しだけ上に上げて、控えめに手を振った。もちろん、二人に対してでは無く、その片方へと。


 男子二人がこの場を去り、残された女子二人。


 柚葉は、栞が掲げている伝わるはずの無い右手を見て溜息を吐く。


「も~栞ったら。りおりおが見て無いのに手を振ったってしょうがないよ~?」


 痛い所を突かれた彼女は、少し唇を尖らせながら、


「べ、別にいいもん。私そういうキャラじゃ無いし……」

「キャラって……全く~そんなんじゃ、いつまで経っても距離が縮まらないままだよ~?」

「うっ……分かってる、けどさ……」


 肩を落としてしゅんとする栞。


 そんな親友の姿に、柚葉は呆れながらも微笑を浮かべて、


「ま~でも!合コンの件は良かったじゃん!りおりおが、他の子と関係持って無くて!心でも体でも……さ?」

「か……ッ!み、南君はそういう軽薄な事しないから!」

「え~?男の子なんて分かんないよ~?とにかく!誰かに取られる前に、積極的にならないと!」

「それは……そう、かも」

「うんうん!大丈夫だよ栞なら!だって外見も中身も、こ~んなに可愛いんだから!」


 にこやかな笑顔で、ぴたっと自身の体を栞の腕にくっ付けた柚葉。


 少し恥ずかしがりながらも、もういつもの事として彼女のスキンシップを受け入れた栞は、視線を下げて伏し目がちに口を開いた。


「……そうだよ、ね。南君も、その……綺麗って、言ってくれたし……」

「うんうん!絶対大丈夫!……あ、てかさ!もし今日講義の後時間あったら、一緒にお洋服見に行かない?」

「あー……ごめん。今日はちょっと予定があるの」

「そっかぁ……残念。ね~栞~、りおりおばっかじゃなくて、ゆずの事も構ってくれなきゃやだよ~?」

「ふふっ、彼女みたいな事言うのね?心配しなくても、一番好きなのは、その……ゆずだから」


 自分で言ってて恥ずかしくなり、赤みがかった顔を柚葉と反対の方に向ける。


 基本クールな親友から珍しく甘々なセリフを吐かれた当人は、くっ付けていた体を一度離して、そのまま今度は栞の背中に腕を回して、勢い良く抱き着いた。


「栞がデレたっ!珍しい!ゆずも結婚したいって思ってるよ!同じ気持ちで嬉しい!」

「ゆずが話してる相手本当に私かな?」


 愛嬌いっぱいに冗談を交える柚葉に、笑いながら冗談を返す栞。美少女二人がイチャイチャしているこの空間だけ、異様にふわっとした空気感が漂っている。


 そんな、花園が似合いそうな二人の絡みだが、それが行われているのはただの文系大学の一教室であり、空き教室とは言え周囲にはちらほら人もいる。


 この空間を見ていた数人が、本人達も知らずの内に新たな性癖の扉をノックしてしまった訳だが、そんな事は柚葉と栞が知る由も無かった。


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