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初恋の相手に、どうやら合コン行ったのがバレたらしい

「ッ!う……うん……」


 柔らかな口調で、銀髪の少女──一条栞いちじょうしおりから挨拶を返され、凛音はすぐに彼女と交わっていた視線をサッと逸らす。


「栞~俺には~?」

「あんたからは挨拶されて無いもん」

「あ、確かに!おは~栞~」

「おはよ」

「何か素っ気なくない!?」


 凛音と同様、栞に挨拶をした陸。しかし、先程とは打って変わった明らか冷たい反応を見せる彼女に、驚嘆の声を上げた。


 そんな陸の反応に、態度が冷たいと指摘された栞は、


「……そう?別にいつも通りだと思うけど?」

「あー……まぁ、確かにいつも通りだわな。みなりおに対して妙に優しい所も含めてな」

「いやそんな事無いから……」


 陸に軽口を叩かれて、少し目を細めながら怪訝な表情を浮かべる栞。


 すると、話を傍らで聞いていた黒髪の少女──楠柚葉くすのきゆずはが、自身の腕を栞の腕に絡ませながら口を開いた。


「陸~、わざわざ言葉にするのは無粋ぶすいだよ~?当たり前じゃん?りおりおは栞のお気になんだからぁ」


 悪戯な笑みを浮かべてそう言った柚葉。


 栞は、楽し気にからかってくる友人の腕を振りほどいて、ほんの少し睨みつけながら、


「ちょっと、本当にそんなんじゃ無いから!ゆずまでそういう事言うわけ?」

「あはは!栞が怒った~!こわ~い!」

「別に怒っては……いない、けど」

「でも怒った栞もかわゆいね~!!!りおりおの事だとすぐムキになっちゃって~!このこの~!」

「……っ!もうゆずっ!!そのゆずと陸のノリに、南君を巻き込むのと、あと脇腹ツンツンするのやめて!」

「や~めな~いよ~!ほれ~!つんつん~!」

「も、もうっ!……きゃあ!ゆず調子に乗りすぎ!」


 柚葉からの過剰なスキンシップに、とうとう痺れを切らした栞は、彼女の両頬を指先でムニッと潰して強制的に動きを止めた。


「ご、ごべんぶぁぶぁい(ご、ごめんなさい)……」

「……はぁ。よろしい。南君ごめんね……?陸《おバカA》と柚葉《おバカB》がいつもいつも……」

「陸《おバカA》で~す」

「同じく柚葉《おバカB》だよ~」


 二人の仲睦まじい女同士の絡みをぼーっと見つめていた凛音は、急に自分の方へ向き直って謝ってきた栞に、一瞬驚いて固まってしまう。


 しかし、すぐ表情を平然としたものに取り繕うと、自己紹介しながら手を振ってくる二人を無視して口を開いた。


「あはは……俺は大丈夫だよ。今日も皆賑やかだね」

「う、うん……それと、柚葉が言ったお気にって言葉に、全力で否定しちゃったけど、その……嫌いとかじゃ無い……から……」

「あ、うん……えっと……分かってる」

「そっか……」


 お互いそのまま黙りこくってしまう。


 何とも言えない沈黙に包まれたこの空間で、にやにやと意地悪な笑みを浮かべる陸と柚葉が、黙っている二人にも聞こえる声量のヒソヒソ声で沈黙を破った。


「柚葉さん柚葉さん。この二人、何か良い雰囲気なのでは?」

「陸さん陸さん。これゆず達……お邪魔ですよね?」


 互いに目配せしながら、そーっとこの場を去ろうとする陸と柚葉。


 そんな二人の肩を掴んで、さらに茶化された事を怒る栞。


 瞬間的に降りかかったさっきの沈黙が嘘のように、この場はまたもやうるさい位の喧騒を取り戻す。


 そんな中、表面上は平然として微笑を貼り付けているが、実は内心跳ねまわる心臓を抑えるのに必死な男がただ一人いて──


──あっぶねぇえええ!!二人が茶化してくれなかったら、照れて顔が真っ赤になってるの、栞ちゃんにバレるとこだったぁああ!!!


 言葉には出さず、そっとじんわり熱を帯びた自身の頬を触る凛音。


──てか今日も栞ちゃん可愛いな!?あー体ダルい中大学来てよかったー!!栞ちゃん見られただけで、もう幸せだわ今日。告りたい……そんな勇気無いけど告りたい……


 目の前で、おバカコンビからからかわれてムキになっている、大学で初めて好きになった人──否、これまでの人生で初めて好きになった、自身にとっての初恋相手を眺めながら、凛音はそんな事を考える。


 『一条栞』という、名前は完全に日本語表記だが、外国の血が混ざっているその少女。


 生まれつきの宝石のように美しい特徴的な銀髪は、ボブに近いセミロングの長さ程度で切り揃えて毛先を外ハネさせている、所謂いわゆるウルフのようなヘアアレンジを施している。


 色素の薄い透き通った茶色の瞳に猫を彷彿とさせる凛々しいつり目、筋の通った高い鼻と太陽光に反射してしまいそうな白い肌。もはや説明の必要が無い程、異国の血が流れている事がはっきりと分かる彼女の様相。


 身長は、凛音よりも少し低い位と女子の中では高めであり、スラッと伸びた美しい手足と決して小さくは無いが控えめな胸、それに曲線美を描いたくびれも相まって、まさにモデルのようなプロポーションをした、正真正銘の美少女である。


 大学に入る前も、相当男子達から告白されていたのだろうが、凛音が知る入学直後の彼女も、同情する位には男子から言い寄られていた。


 だが、栞の基本クールな性格もあって、言い寄る男達はとことん相手にされなかった為、最近は割と落ち着いたらしく、彼女が「告白を断ったら、勝手に逆恨みされて陰口叩かれるの不快だから、それなら初めから告白しないでほしい」と言っていたのは記憶に新しい。


 ちなみに、陸と一緒に彼女をからかっている柚葉は、中学の頃から栞と仲が良く、高校大学と互いに示し合わせるでも無く行く学校が被ってきた為、柚葉にとって栞は運命の相手らしい。いつか結婚すると勝ちヒロイン幼馴染枠を狙っているが、意中の相手にその気は無いとの事。


 そんな負けヒロイン(仮)の容姿も非常に整っており、おっとりとした性格がその顔に滲み出ていた。


 穢れを知らなそうな、日本人らしい艶やかな黒髪は背中まで伸ばされており、アイロンでゆるふわっと巻かれている。


 栞とは対照的に垂れているその目尻と、くりっとした可憐な黒い瞳。紅い紅が引かれた、化粧乗りの良いぷりっとした唇など、顔の特徴は言う所の狸顔というやつ。


 これで低身長なのだから、一見とても大人しそうに見えるこの女の子。だが、その雰囲気に相反して、胸に実った豊かなそれは、ルリア程とはいかなくとも、服の下から存在感を放つ程度には大きさを誇っている。


 今日も今日とて、圧倒的な美貌と存在感で数多の注目を集める旧友美少女コンビは、照れた顔を隠す為俯いている凛音が気に掛かり、心配そうな目で口を開いた。


「りおりおどうしたの~?」

「南君……もしかして、体調悪い?」

「え!?いや全然!あーえっと……寝不足でさ……」


 誤魔化すように笑ってそう言った凛音。


 それを聞いた柚葉は、「あ!」と何かを思い出したかのように声を出して、


「そういえばさっき、陸とりおりお……何か楽し気な話してたよね~。合コン……が何とかって!りおりおの寝不足、もしかしてそれが関係してるの~?」

「ち、ちが……っ!」


 柚葉の口から出た言葉に、慌てた凛音の口を衝いて出る否定。そのまま、とっさに栞の表情を確認する。


 彼女は、いつものあまり感情の機微が分からない表情とは違い、分かりやすく目を見開いて、僅かながら震えた声音で言葉を吐き出した。


「み、南君……合コン行ったんだ。ふ、ふーん……そうなんだ……」


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