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合コンで勝ったはずの男友達は、どうやらぼったくられたようで

 ザワザワと様々な人間の雑多な会話が入り乱れる、総計百人以上が座る事の可能な大講義室。


 遅刻したせいで教卓に近い席に座る羽目となった凛音は、机に広げた筆箱とルーズリーフ、そして飲みかけのペットボトルを鞄に入れて、絶賛帰宅準備をしていた。


「……やっばい。講義の内容……全ッ然頭に入って来なかった……」


 一時間以上講義を受けたのにも関わらず、何も書かれていない真っ白なルーズリーフ。実際、教授の言っている事など上の空で、昨晩から今朝にかけて彼自身の身に起こった事を思い出すのに脳のリソースが割かれていた為仕方が無い。


 学ぶ姿勢の欠片も無いその紙切れを、隠すようにコソコソ仕舞いながら溜息を吐く。


「……はぁ。もう今日帰ろうかな……うん、帰ろう!こんな状態で講義受けても意味無いしな!休んだ分は、陸にノート見せて貰う!これで完璧!」


 決して、昨日のアルコールが残ってて体がダルイからとか、普通に今日サボりたいからとかでは無い。講義に身が入らず教室にいたとて、教鞭を振っている教授にも、真面目に受けている学生にも失礼だからだ。そう、言わばこれは戦略的撤退。


 脳内で形作られる戦国時代で、友人の陸に殿しんがりを務めさせ、そのまま立ち上がろうとする凛音。


 しかし、そんな彼の肩に腕を回して、逃がさないよう体重を乗せてくる、現在殿(しんがり)しているはずの家臣ともの姿が……


「俺が何だってみなりお~?」

「ギクッ!あ、あれ……おはよう陸……あはは」


 硬直して苦笑いを浮かべながら、自身の事を『みなりお』と、何故か名前の字数より長いあだ名で呼んでくる友人の方へと視線を向けた凛音。


 そこにいたのは、肩を組みながら口端を上げる、殿を任せた家臣もとい、大学の友人──田端陸たばたりく


 ピンクに染められた髪の毛が非常に目立つバンドマンで、凛音が大学で最も仲の良い男友達である。


 端正な顔立ちで、爽やかイケメンという単語がピッタリ当てはまるこの男。ちなみに、昨日凛音を合コンに誘った張本人でもあったりする。


 凛音の肩に腕を回しながら、少し意地悪な笑みを浮かべる陸は、ちょうど空いていた隣の席に腰を下ろして、


「何々~?みなりおこの後の講義サボるん~?」

「あー……まぁ。そうしよっかなー……みたいな?」

「ほーん。それで、俺のノート見せて貰いたいと?」

「そうしてくれたら嬉しいなー……みたいな?」

「なるほどなるほど……って事は、つまり~」


 何かを考え込むように天を仰ぐ陸。


 そして、瞬間的に凛音の方へ視線を戻した彼は、手の平を見せつけて、


「よしっ!ならばタバコ一箱で手を打とうぞ!」

「……タバコ?はぁ……家臣なら、お殿様の為に見返りを求めず命を差し出せよ……」


 その言葉に、本気で戸惑いの表情を見せる陸。


「え、家臣……?ん?一体何の話?」

「いーや。こっちの話」


 タバコ一箱くらいで単位取得の可能性を上げられるならまぁ良いかと、一瞬そう思った凛音だが、すぐに昨日の出来事を思い出し、差し出された彼の手をひっくり返して口を開く。


「いや待て。そういえば昨日、男が奇数の合コン呼んだよな?どうしても男が足りないからって、嘘吐いてまで呼んだよな?」

「違うって!みなりおに電話掛けた時までは、ほんとに女子の数の方が多かったんだって!!直前でいきなりドタキャンされてさ……」

「ふ~ん……?それを俺が信じると……?」

「ちょ、マジだって!!ほら見て!この曇りの無い、純粋無垢な瞳を!」

「……?俺には、死んだ魚を下水に漬けたような、詐欺師の目に見えるけど?」

「ひっど!!死んだ魚を下水に!?」


 死んだ魚を(以下略)な目を見開いて、半分くらい本気でショックを受けてそうな驚き方をする陸。いや、下水眼げすいまなこ


 そんな飄々とした友人に、凛音は力の抜けたような笑いを漏らし、


「まぁ良いけどさ。飲まされて場の雰囲気を盛り上げさせられた挙句、俺以外の男共はそのまま女の子と夜の街に消えたからって、全然根に持って無いけどさ」

「めちゃくちゃ根に持ってるやつ……あー、えっと……ごめんて!!無償でノート見せるから!!」

「ふむ!分かれば宜しい!」


 実際は、そこまで根に持っていない為、ノートを無償で見せて貰うという事実に満足して、これ以上の言及はしない。


 だが、凛音を放置して女の子と楽しく遊んでいたはずの陸は、脱力気味に机へと突っ伏しながら、


「だけどさぁ……逆に運が良かったよ、みなりお」


 その言葉に一瞬、心臓がドクンと跳ねた凛音。


──ルリアを拾ったの、バレた……?


 異世界転生した王女を拾っただけという、全くやましい事では無い……いや、多分やましい事では無い……さすがに、やましい事では無いと信じたいが、一応恐る恐る聞き返す。


「運が……良い?」

「おん。あの後、俺ともう一人は、それぞれで女の子と二次会行ったじゃんか?それが何故か、行った先のバーでもっかい鉢合わせてさ。そこが何と、ぼったくりバーだった訳よ。マージでやられたわ!!」


 悔しそうに下唇を噛み締めて言った陸。


 それを聞いた凛音は、長めの深呼吸をしながら胸を撫で下ろして、


「よかったあああああああああああ!!!」

「良くねーよ!」

「あ、ごめん」


 全力で安堵する凛音に、怪訝な表情で言い放つ陸。そのまま頭を抱えて、


「はぁああ……もう最悪だったわ。会計で怖い男出て来るし、その会計がめちゃめちゃ高かったし……」

「可哀想だとは思うけど……まぁ、自業自得ではある……か……?」

「え、みなりおってもしかして人じゃない……?」


 その後も、くだらない押し問答を繰り広げる成人男性二人。


 この言い合いはしばらく続くかと思われたが、終わりのゴングは突然鳴り響いた。


「おっはよー陸ー!りおりおー!楽しそうだけど何の話してるの~?」


 凛音と陸の会話に、するっと割って入った華のある女子二人。


 手を振って挨拶した黒髪の美少女と、その後ろにいる銀髪のこれまた美少女。


 陸は、同じように手を振って挨拶を返した。


「おは~柚葉。聞いてくれよ~!みなりおが人じゃないんよ……」

「いや人だから!悲しいくらい普通の人だから!……おはようくすのき。それと……一条も……」


 黒髪の少女に挨拶を返した後、バレないよう一呼吸置いて、銀髪の──一条と呼ばれた女の子にも挨拶をした。


 銀髪の子は、少しだけにこっと微笑み程度で口端を上げて、


「……ん。おはよう……南君」


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