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深夜のコンビニで拾った天使のような王女様は、どうやら転生してきたらしい

 そこから、何故自身が転生してしまったのか。そして、彼女が元々いた世界は、どんな世界だったのか。それ等を、流れるようにつらつらと語った。


 まず、ルリアが元々生きていた世界だが、アニメやラノベに出てくるファンタジーの世界観を、そっくりそのまま移植したような場所であった。


 魔王の侵略を受けているその世界では、日々魔族と勇猛果敢な冒険者達が戦いを繰り返しており、魔法という概念が一般的であると言う。


 そんな世界で、屈指の大きさと文明を誇っているのが、魔法統治国家──グロリオサ。そして、人類最後で最大の砦と呼ばれるその国の第一王女が、昨日コンビニに落ちていたルリアという訳だ。


 ではどうして、一国の王女であるルリアが転生してしまったのか。その理由は、彼女自身にも良く分からないらしい。


 向こうの世界では、大量の魔力と長い時間を使って異世界転生の儀式を行い、やっとの思いで異世界人を転生させるらしいのだが、もちろん日本にも地球にも、そんな文化は存在しない。仮にあったとしても、魔素が極端に少ない為実行する事は不可能であるとの事。


 ただ一つ間違い無いのは、彼女が転生する直前、川で溺れた子供を助けようとしたが、魔法が発動出来ず自ら川に飛び込んだら、そもそも自分が泳げない事を忘れており、そのまま溺死したという事だ。


 勇猛なのか愚かなのか。どちらにせよ結果的に死んでしまった時、何かの拍子で日本に転生してしまったのだろうと、ルリアは一人で予想を立てていた。


「え、ちなみにさ……何で日本語話せるの?」

「あ、今(わたくし)が話している言語は、にほんご?という言語なのですね!転生する時、とっても広い空間で女神様?という方から、脳に直接違う言語についての情報を入れて頂いたんです!」

「女神様……ねぇ。その女神さまが、ルリアをコンビニの駐車場に転生させたの?」

「はい!ただ……転生した後しばらくして、その女神様が『転生させる座標間違えた!ごめ!!』と、そう脳に語り掛けてはきましたが……」

「えぇ……とんだ駄女神じゃん……」


 転生して早々不遇な扱いを受けているルリアに、凛音は憂いをたたえた目を向ける。


 詳しく話を聞いた後でも、やはり現実味を帯びない彼女の存在。しかし、あの魔法を見せられてしまっては、もう信じざるを得ないのもまた事実。


 凛音は改めて、目の前で妙ににこにこしている、ドレスを着た異世界の王女様を事細やかに見つめた。


 まず目を引かれるのは、明らか日本人離れした彼女の美しい髪と澄み切った瞳だろう。


 背中まで垂らされている、高級な絹のように滑らかな金色こんじきの長髪は、両サイドを三つ編みで巻いており、それを煌びやかな宝石を装飾したバレッタで纏めている。


 そして、艶やかな美しい髪に負けず劣らずの存在感を放っている、緑がかった神秘的なその碧眼へきがん


 リスのようにくりっとした丸く大きい目に収まっている、見た者を引き込んでしまいそうな程澄んだウルっとした瞳、整った長いまつ毛、少し下がっている愛らしい目尻。どこを取っても、美術品のように美麗である。


 しかし、ここまで目のパーツが完成されていると、どうしても顔全体としてはアンバランスになってしまいそうなものだが、ルリアに限ってはその心配が失礼というもの。


 瑞々《みずみず》しくもきめ細かい、明朝の光のような白い柔肌。くっきりと筋の通った高さのある鼻梁びりょうに、紅を塗ったかのように血色の良い可憐な唇。


 彫刻と大差ない黄金比を呈した最高峰の各パーツが、片手で覆えそうな小顔にきゅっと仕舞い込んであるという、もはや形容する言葉の見つからない絶世の美少女。王女という立場を抜きにしても、彼女ほど傾国けいこく美人という表現が似合う女性は、この世に一人として存在しないだろう。


 見れば見るほど見惚れていく美麗なその美貌に、凛音は図らずも感嘆の溜息が口から漏れ出した。


 そんな彼に、少し唇を尖らせたルリアは、


「もう……何ですか!人の顔をまじまじと見て溜息吐くなんて……!」

「あー……いやごめん。その……ルリア程綺麗な女性を、今まで見た事が無いからつい……」

 

 その一言に、一瞬驚いたような表情を見せるルリア。しかし、すぐにその顔は赤みを帯びて、両手の指を太もも付近でもじもじと交差させながら、


「そ、そんな直接的に言われますと、その……えへへ、何だか恥ずかしくなってしまいますね」 


 照れた顔を隠すように、控えめな微笑を浮かべたルリア。


 そんな、見た者を悩殺してしまいそうな強烈笑顔を繰り出した彼女だが、絶賛思春期ボーナス継続中の凛音は、ちょっと違う意味で脳が焼かれている。


──……ッ!や、やっぱ大きいよな……おっぱい……


 二の腕をピンと下げて指先で手遊びをしているルリアの、腕に挟まれてむにっと縦に潰れた胸に、自然と目が行ってしまう凛音。


 決して高くない身長に対して、良い意味でアンバランスな大きさを誇るその胸は、さながら砂漠に実ったメロンのよう。


 だが、ルリアがわざと胸を強調していない事など当然理解している為、凛音はほんの少し感じた罪悪感からサッと視線をずらして、


「て、ていうかさ……話を聞いた感じ、川に飛び込まなかったらルリアは死ななかったし、転生する事も無かったんだよね?」

「まぁ……そういう事になりますね」

「王女様が、わざわざ自分から助けに川へ飛び込まなくても良かったんじゃないの?しかも泳げないんでしょ?」

「……確かに、泳げないのに川へ飛び込んだのは、早計で愚かだったとは思いますが、でも……後悔はしておりませんよ?」

「後悔してないの……?」


 真っ直ぐな瞳でそう言い切ったルリア。凛音の質問にも、一切の迷い無く首を縦に振る。


「え、だってさ……魔法が何故か使えなかったって話だけど、周りの人に助けを求めるとか色々出来たじゃん。自分で飛び込んだせいで死んじゃって、知らない世界に転生してるんだよ?」


 彼女の、いまいち理解の出来ないその言動に、本気で困惑する凛音。


 しかしルリアは、真剣な表情そのまま、更に力強い声音で、


「民の、それも幼い子供が溺れそうになっている所で、どこの王女がそれに背を向けられるでしょうか?少なくとも、私には出来ません。その場で、一度でも背を向ける位なら、命を投げ打った方が遥かに私自身が納得できます」


 曇りも陰りも無い表情で、そう言葉を残したルリア。


「そ……そっか……」


 出会ってから今に至るまで、王女では無くお淑やかな変人美女としか彼女を見ていなかった凛音は、初めて見る王女ルリアーノの片鱗に、言葉を失ってそれとなく相槌を打つ事しか出来ない。


 そんな、気圧けおされている少年の心内を察したのか、ルリアはすぐに柔らかな表情を浮かべると、


「ただ、結局私も溺れてしまったので、仰る通り愚行となってしまったんですけれどね」


 自嘲気味に笑ってそう言った。


「…………」


 だが、苦笑を浮かべる彼女とは対照的に、顔を強張らせている凛音。


 そんな彼の様子を気掛かりに感じたルリアは、覗き込むような視線で首を傾げて、


「凛音さん……?」

「……そんな事無いよ」

「え?」

「そんな事無い。ルリアは……ううん、グロリオサ王国の第一王女は、愚かじゃない。何て言ったら良いのか分かんないけど……凄く、立派だと思う。俺がこんな事言うのは逆に失礼かもしれないけど、本当にそう思う」

「……凛音さん」


 一言一言、噛み締めるようにそう言った凛音。そして、そのまま、


「……分かった。良いよ。元の世界に帰れるのかは分からないけれど、少なくともこっちの世界での生活に慣れるまでは、俺の家を使ってくれて良い。……その、ルリアが良ければだけど……」


 その言葉を聞いたルリアは、込み上げてくる嬉しさや、ちょっとの気恥ずかしさを全部凝縮した、太陽のように明るく煌びやかで神々しい、さながら《《天使》》のような笑顔で、朗らかに口を開いた。


「私、出会って声を掛けたのが貴方様で、本当に良かったですっ!不束者ですが、これから末永くよろしくお願い致しますねっ!凛音さんっ!」


 これは、合コン帰りの一般文系大学生が、異世界から転生して来た天使のような王女様を深夜のコンビニで拾った事から始まった、小説のような日常の物語である。


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